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書房

 結局そのあと3回ほど


「兄ちゃん、どこの店でやってもらったんだ」

「整形していません、地顔です(キリッ)」


 というのをやって、ようやく寺前通りに到着した。


 なお、すぐに地顔だと気付いた兄ちゃんに整形している人間をどうやって見分けるのかメグミが聞いてみたところ、


『何となくかなぁ。たくさん見て慣れるしかないよ』

 とのことであった。


 寺前通りに来てみると、こちらの屋台は雑貨を扱った店が多い。同じ傾向の店が集まることで、集客力を上げているのだろう。


 目につくのは反物と言うのか布を巻いて積み上げた店、皮製品を並べた店、食器や鍋釜を並べた店などである。また、不思議なことに南門(サウスゲート)前ではほとんど見られなかった喫茶、つまりお茶の屋台がある。


 面白いのは、値段を書いたらしいボードを掲げている店が多いことだ。これも南門(サウスゲート)前ではあまり見られなかったものである。これを見ても、ハンスラでは字が読める人が多いと見当がつく。


「?」


 メグミは役所の窓口でメモしたので1~5と、(ゼロ)らしい字は読める。ある程度読めているつもりだが、小さな食器が3つ銅貨10、5つ1枚っていうのはなんだろう。

 1枚というのはハン札のことだと思うが、だとすると5つの方が高くなっていないか? こっちの人は字は読めても計算が苦手なのではないだろうか。


 教会に戻ると、神官が部長の処遇が決まったことを知らせてきた。


『あの方は力も体力もないし、これと言った技能もないので奴隷街行きになりそうです』


 メグミは思わず出そうになった笑いをかみ殺した。


『そ、そうですか。アンビーに報告しようと思いますので奴隷街に収容されるまで確認させていただいてよろしいですか』


 報告するつもりも義務もないのだが。


『わかりました。それでは、4日後に移送の予定ですからその時に声をおかけします』


 奴隷街は街と言うだけあって大勢の奴隷が暮らしており、生活物資や労働力の供給減になっているらしい。つまり、個人所有の奴隷と言うわけではなく官製の奴隷と言うわけだ。


 寺前通りで見た反物も、奴隷街の製品ということである。


『それと、文字を……』


 教えていただけませんか、と言おうとして、メグミは口ごもってしまった。「地顔です(キリッ)」をやるとき、何となくONにしっぱなしだった発情確認機能で、神官の瞳に自分が映っているのを見てしまったのである。


 この神官は、男のはずである。


『学びたいので、どこか本屋か図書館はありませんか』


 なんとか、不自然にならないように続けた。


『でしたら、書籍門(コーカゲート)に【書房】というところがあります。ご案内しましょうか』


『いえ、それでしたら書籍門(コーカゲート)の文字だけ教えてください。あとは自分で何とかできると思います』


 神官はなんとなく名残惜しそうだったが、書籍門(コーカゲート)の文字を教えてくれた。


 書籍門(コーカゲート)の【書房】というのは、本も売ってくれる図書館のような物であった。


 大勢が書棚から持って来た本を読んでいるが、家で読みたい場合にはカウンターに持って行って購入するという形式になっているようだ。


 なぜそんな形式なのか、メグミは本の値段を聞いて思わず本を落としそうになった。


 メグミが値段を尋ねた本は絵本の様な子供向けらしい言葉の解説書だったのだが、ハン札で60枚、ということは焼肉串が400本買える。


 書籍の量から見て紙は普通に存在するようだが、中は基本的に手書き、すなわち写本なのである。文字を書くことのできる人の人件費は安くはないだろう。


(うーん、印刷技術のノウハウを知ってれば大金持ちだったのになぁ)


 あの一角カバ(駄女神)もそこまでうっかり者ではないので、そう簡単にはいかない。


 紙の束も売っており、こちらは100枚でハン札1なので、自分で紙束に写している人も多い。字は何とかなるとして、図なんかはどうするのか聞いたら、図のトレース用の薄い紙が別にあるらしい。


(そりゃあよっぽど必要とする人以外、買ってかないわ)


 その日の夜、メグミは今後の方針について考えていた。


 屋台の空きはあるようだが、どちらも決め手に欠ける。はっきり言って、定常的に資金を得られる様子が見えてこない。ハンスラの1年でどのように食材や人の流れが変化するか全く知らないのである。


(食い物の屋台は仕入れルートが大変そうだけど、物を食べない人はいないから何とかなるだろうけど……)


 虫料理は避けたいものである。


(雑貨の方は作る技術がないし、奴隷と競合して価格で勝てるわけないよな)


 品質だって怪しいものである。


「神様、あの神官が不埒な行動に出ませんように」


 一応狙い通り、不埒な行動ばかりしている神の所に来ることができたようだ。


 直接本人(尻軽神)に渡そうかと思ったが、旦那に気があると思われて嫉妬妻におかしな姿にされてはたまらない。


「こんばんは、旦那はあいかわらずあちこちの女に手を出してますよ。あ、これお供え物です」


 そう言いつつ、少し齧りかけの焼き蛹を妻の方の神に差し出す。


 何を話しているのか気になったのか、旦那神が目もくれなかったはずのメグミを見に来た。


 いや、見ているのはお供え物(焼き蛹)である。


「なんだ、コッススではないのか」

「え? コッススが良いんですか。それなら何とかして持ってきます」


ここで旦那神が【コッスス】と言っているのはキボシコに近いものであるが、学名を少々知っているメグミにとって【コッスス】とはボクトウガである。この蛾の幼虫は木の幹に穴を開ける害虫で、焼いた栗毛虫の色をしている。

 形成層を破壊された樹は樹液を出すことになるが、この幼虫はそうして出た樹液に魅かれて来たハエや蝶に襲いかかって食べてしまうという肉食()なのだ。


アボリジニならともかく、通常食用にすることはない。

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