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屋台の食材

昆虫料理とそれを食べる記述があります。

苦手な方は注意してください。


CTRL+Fで『雑貨』に飛ぶと回避できます

 南門(サウスゲート)中央通り。


 多くの屋台が並ぶ、ケイジョーでも有数の繁華街である。当然、人でいっぱいだ。

 そこに屋台の店を出す約30日の場所代が、ハン札20枚っていうのは高いのか安いのか。

 金額的には安くとも、屋台1つの専有面積は、1畳くらいのものだ。


 順に見ていくと、売っている料理は朝食時に見た肉、魚、焼き鳥などの他、揚げ物や果物、飲み物もある。


 飲み物の屋台には、まだ朝だと言うのに明らかに酔っ払ったおっさんがへばりついていたりする。


 どんな食材でも人通りからしてそれなりの需要はありそうだが、考えてみればメグミには仕入れ方法がわからない。


 あまりしつこく聞くと、屋台は競合するので詳しく教えてもらえないかもしれないが、メグミは朝食に焼き肉串(タンドリーミート)を買ったところで聞いてみた。


『ちょっとお尋ねします。屋台を出してみたいのですが、食材はどのように仕入れれば良いのでしょうか』

『お? さっきの兄ちゃんか。うちの仕入れは西門(ウェスゲート)問屋街の肉屋からだ。

ほう、自分で獲って来たい? キィジなら山で採れるが。

肉にこだわらないんならドチ、キボシコなんかどうだ。元手はほとんどかからんぞ。

郊外で手に入るし、持ってきて焼いて出来上がり。七輪と燃料は安いもんだし、人気もある。』


 肉の問屋があるし、郊外で簡単に手に入る食材もあるようだ。


 移動と仕入れにハン札3枚必要として、利益が1串銅貨2枚で1日に40本も売れば元が取れることになる。いくらなんでもそれくらいは売れるだろう。


『あの、近くにドチ売ってるところはありますか』

『あっちの屋根の緑色のところの左隣で売ってるぞ』


 オヤジはそう言って、強烈な臭いがしていた一角を指差す。


『ありがとうございます』


 お礼を言って、臭いの方に行ってみる。


 臭いの原因ではなかったが、その店に並んでいたのは巨大な虫の料理だった。


 値段を聞きながら分かった所では、ドチというのは見かけカブトムシのメスの蛹を3匹ほど串に刺したもの、キボシコと言うのは巨大イモムシの串焼きである。


 メグミの手には、ドチとキボシコの串が1本ずつある。1本、銅貨1枚だった。


『メンダーは食ったことはあるけど無理ィィィィ――ッ』


 メグミはタイでタガメ料理を喰ったことがある。タガメと言うのは、田んぼにいる巨大カメムシだ。

 そんなものをいくらなんでも積極的に食べるはずがない。道蔦たちとタイ旅行に行った時の罰ゲームである。癖のある肉の味がするバナナペーストみたいだった。


 カブトムシの蛹は食ったことがないが、コージ君と言う北森の知り合いが口にしたことがあるらしく、「酸っぱくておいしくなかった」らしいと聞いた。


 食品部なんてところにいると、食材の味に関する話題には事欠かない。

 有効活用できることはほとんどないのだけれども。


 現実逃避をしていても仕方がないので、メグミは手の中の食材を見つめる。


 肉や魚は鮮度を保持する、つまり保存方法が良くわからないから扱いが難しい。


 ドチやキボシコは場所が判ればほとんどタダで捕って来ることができ、生かしておけば鮮度は落ちない。しかし、生かしておくためには餌が必要だし、保管するのが宿舎の自分の部屋になる上、適当な味付けのためには試食が必要であろう。


 虫と一緒に暮し、虫を食べる生活。


 無理だ。無理無理だ。


 この大きさのイモムシが蠢く音を聞きながらだと、絶対寝られない自信がある。


(でも、もしかしたらねずみみたいにすごくオイシイかもしれない)


 本心ではないので、思考が棒読みになっている。


 メグミはまず、ドチをほんのちみっとだけ、味がわかる最小限ほど齧ってみた。


(ふむ、見かけよりパサパサした感じで不味くはないが美味しくもないな)


 3匹きっちり食べるのは少々(つら)い味である。


(食べかけで悪いが一角カバ(ユニコーン)のお供えにするか)


 人を転移させるような力を持った女神様を残飯処理係にするとは、この女、いつか罰があたるのではないだろうか。


(いや待てよ、それより余計な機能をくれた女神の夫にお供えす(くれてや)るか)


 メグミは浮気者神の行動を思い出しつつ、ドチの串をしっかり包むと、ポーチの中に仕舞った。


 そんなお供えをして肝臓を壊しても知らんぞ。


(問題はこっちだが……)


 キボシコの串焼きである。イモムシがそのまま縦に串に刺さって程よい焼き色が付いている。


 メグミは暫く躊躇していたが、目を瞑ると思い切って齧ってみた。


「むぅ?」


 とんでもなく意外なことに、コクがあってクリーミーな、癖の全くない高級ソーセージのようだ。これなら食える。


 激辛肉のように、ハンスラの人々の味に対する感覚が若干異なりそうなのは気になるが、これなら売れるだろう。



「うーん、難しいのかぁ」


 メグミは別の屋台の空きがあるという寺前通りに向かっていた。


 あのあと、キボシコの味が気に入ったので獲り方を聞いてみたところ、


『サナツかテシメあたりで枯れ木の中に入っているから枯れ木を割ると獲れるが、1人だと1日に10匹ほどしか獲れないよ』


 と言われてしまったのだ。農閑期に家族を動員して獲るものらしい。


「そんなにうまい話はないか」


 雑貨などの屋台も出ているという寺前通り方面に来ると、やたらと顔を書いた看板が多いが、文字が読めないので何屋かさっぱりわからない。


 メグミがキョロキョロしながら歩いていると、反対方向から来た兄ちゃんがいきなり


『あっ、おいアンタッ、どこでやってもらったんだ』

 と詰め寄って来た。


『?』


 メグミが突然のことに呆気にとられていると


『だからその顔どこで……えっ、固定の跡がない。地顔?』


 固定とか言っているようだが、何か固めた記憶はない。


『意味が解りませんが、何事ですか?』

『いやー、悪りぃ悪りぃ。兄ちゃんの顔があんまり良いもんだから、どの店で顔変えたのか聞こうと思ったんだが地顔だったんだな』


 イルと名乗った青年によると、このあたりは魔術で顔を変え、その変化を固定できる店が集まっているそうだ。固定まで可能な変化の魔術は使い手が少ないし、それぞれ変化の結果が違うので情報を交換し、なるべくモテ顔に変えられる店が人気になるのだという。


『兄ちゃんも変えに来たのかい、その顔なら何もやんなくていいじゃん』


 要するに、整形してくれる店が集まっている場所だったわけだ。


 それはそうとここでもモテ顔宣言されてしまったか。面倒なことにならなければ良いが。

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