東門
神官が移動方法について教えてくれた。
メグミ達は港から教会まで歩いてきたが、ケイジョーの市街は広いので他の移動手段、特に門を使う人が多いらしい。
門というのは、魔術的な転移装置である。
ケイジョーの東西南北にそれぞれ門があり、東門、西門、南門、北門と呼ばれている。この4つが最初にできたのだが、便利だと云う事でその間にもいくつか作られていて、市街にはいくつもの門がある。
例えば港の近くには港門があり、教会に行くなら東門まで転移すれば多少混んでいても10分もかからないものらしい。値段はどの門間を移動しても均一で大銅貨1枚又は銅貨5枚。
ただ、門は安全のためすべて地下にあり、初めてだと少々分かり難い。
次に、乗合車。
正面に行先が書いてあり、ある程度客が集まったら出発する。値段は交渉によって決まる。
ケイジョーの中なら、銅貨1~10枚くらい。門の近くだとゲートの方が安かったりするので、交渉は大事とのこと。
ともかく、部長を引き渡す。当然ながら当面は様子を見なければならないので、拠点確保の相談が必要である。
金を稼げなかったら、アンビーに戻ってオオバチ捕りを続け、定期航路を使ってケイジョーに見に来ることになる。もし、部長がさらに移動してしまったりしたときには素早い対応ができないし、不経済だ。さらに今回も嵐に遭遇したように、移動には危険も伴う。ケイジョーで収入を得られるのならそれに越したことはない。
メグミは滞在方法と収入を得るためにはどうすればよいかを聞いてみた。
『うーん、そうですねぇ。南門の近くで屋台を出すという手もありますし、住むことを考えたら戦闘ギルドと言う方法もあります。
しばらく教会の宿舎に滞在していただいて、その間にいろいろ見学なさってはどうでしょうか』
願ってもない話である。
話をしている間に、部長は教会のスタッフによって回収されていった。
メグミは滞在して良いと言う宿舎の部屋に案内された。長期に渡って住むことは想定していないのか、ベッドと小さなテーブルがあるだけの畳3枚分くらいの部屋である。
『心苦しいのですが、食事は各自で用意をお願いしたいのですが』
『どこか近くで食べられるところはありますか』
『ここから歩いてすぐの所に東門があって、その周辺には屋台や食堂が出ています。朝早くからやっていますよ』
『ありがとうございます』
早速、夕食を食べに東門に行ってみた。神官が近いと言っていただけあり、歩いて5分ほどだった。港の門も港から同じ程度の距離にあるとすると、確かに歩いて来るのはバカらしい。
夕食時と言うことで食事に来ている人が多いのか人通りが多く、屋台が並んでいる。人が出たり入ったりしている建物がおそらく食堂だろう。
(屋台でいいか)
散々歩いたので、かなり腹が減っている。メグミは最初に目についた屋台を覗き込んだ。前に5つ椅子が並んでおり、幸い端の2つが空いている。売っているのは見た感じイエローチキンカレーである。
『1つください』
『はいよっ、並が銅3大が銅5だけど?』
『あ、並で』
直ぐに木のお椀によそってくれたが、並と言うのにかなりの量である。大にしなくて良かった。
ハン札を出すと、お釣りが銅貨で17枚あった。ハン札1枚で銅貨20枚換算らしい。
『安っ』
イエローカレーはイモなどの野菜っぽいものが3種類ほど、鳥肉、それからすいとんのような太いうどんの切れ端のようなものが入っていた。香辛料の香りが食欲をそそる。
『辛っ』
一気に汗が噴き出す。スプーンで一口掬って口に入れたメグミはその辛さに動揺した。
これは辛い。唐辛子マークが5本中7本は行きそうな辛さである。大にしなくて良かった。
メグミは思わず置かれた水の入ったコップに手を伸ばそうとして思いとどまった。
海外旅行で生水を飲んではいけないのは鉄則である。
海外どころか異世界だが。
ヒーヒーと食べ進み、汗まみれになりながら1椀食べ終えたメグミは、果物らしいものを売っている近くの屋台で黄色っぽいメロンのようなものを買った。銅貨1枚だった。
持った感じ柔らかく、水分も多そうだ。メグミは水分を求め、がっつり噛みついた。
「――――ッ、ブハーッ」
メグミは思わず齧った果実を噴き出した。辛い、半端なく辛い。どうやらイエローカレーの辛さの元はこの実であったらしい。
メグミはフラフラとその実を買った屋台に戻ると、
『なるべく辛そうなのをもう1つと、甘い果物があったらくれ』
と、買い求めた。辛い方はもちろん自分で食べるつもりはない、一角カバのお供え用である。
甘い方を齧りながら教会に戻ったメグミは、早速お供えを届けることにした。祈りをささげる。
「ピンクのユニコーン様、食べ物が見分けられるようにしてください」
「ほらぁ、せっかくお供え持って来たんだから食べなさいよ、ってか食え」
「これはそのまま食べるものではなく、料理に使うもの。汝、生の玉葱や南瓜を齧る趣味でもあるか」
「そんな趣味はない、いや、なかったができた。だから付き合って食え」
ユニコーンは胡乱げな目でメグミを見ると、果実を持った。次の瞬間、果実は綺麗に真っ二つになっていた。ユニコーンはメグミにその片方を渡し、
「では1、2の3で良いな」
「!!」
この女神はもう一度これを齧れと言うのか。
「うぅ、いじわる」
「持って来たのは汝であろ?」
一緒に齧ろうとするあたり、付き合いの良い女神ではある。
「じゃあ齧らなくて良いからさ、『クリエイトウォーター』とかっての何とかならない?」
「それは既に使えるはず、『膨張』で温度を下げれば良かろう」
メグミは一応、木の枝を揺らす程度には魔術を使える。
「飲めるほど水を溜めるのに何時間かけろって言うのよ」
「努力なくして結果は付いて来ぬ」
「う゛ー」
諦めたようだ。そもそも、食べ物を見分けられるように頼みに来たのではなかったか。




