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臨検

「しらぬい天丼だ……」



 ホバークラフトは嵐を避けて帝国のヒゴーの港に避難し、上陸、停泊していた。


 大漁だったシラヌイハゼは天ぷらになり、想定外の航路になったのが幸いしてコメが入手できたのか、どんぶり飯に載って甘辛いタレがかかっている。夕食は天丼である。


 1匹あたりの身の量は少なめだが、白身で衣もサクサクしておりなかなか旨い。

 ただ、生野菜は入手できなかったらしく、予定通り漬物である。


 上陸しているのでほとんど揺れないのはありがたいのだが、既に強い風が吹き始めていてデッキには立っていられないらしい。


 船室を行き交う船員たちは、水兵(セーラー)服の襟を立てている。強風の中でも声が伝わるためらしいが、メグミはこの襟が本来の使われ方をしているのを初めて見た。中学、高校とセーラー服が制服だったが、強風の中で話をしようとしたことなどなかったのである。


 風がさらに強くなり、船員、乗客共に全員が船内に避難している。


 港内にいる船はもやいで繋いであるが、ホバーは陸上にあるため桟橋へ単独で固定された状態だ。波でひっくり返る心配は少ないが、砂が吹き付けて結構鬱陶しい。


 誰も出て行かないが、デッキに出たら雨と飛んできた砂で、水を被ったうえに土が降り注いだような状態になるだろう。


 従って、メグミは船室で荷物のチェックをしていた。


 ケイジョーではまず両替をすることになるので、持ち金と両替商の地図の確認である。


 乗合車は先払いでイヲキが払ってくれたし、食事つきの(ホバー)には通行証で乗り込んだので、ここまで使ったのはビール代の帝国銀貨2枚だけである。もっとも、そのビール代は自分で飲んだわけではないが。


 きっと偉大なるヌードル神の恩恵に(あずか)れるだろう。


 というわけで、メグミは現在2ヶ月分の生活費に充当できる程度の金を持っている。


 身に着けている金額としては多いが、考えてみればケイジョーでは部長の監視をしながら2ヶ月以内に収入の目途を立てなければいけないのだ。


(海賊に『金は部長が全部飲みこんでいます』とでも言ったら腹掻っ捌いてくれたかなぁ)


 金を仕舞い、両替所の場所を地図でチェックする。幸い、港からケイジョーの教会に行く途中にあるようだ。


 到着後は、まず両替所に向かい、当座の生活費を確保してからケイジョーの教会に行くことになるだろう。港から教会までかなりの距離がありそうなので、部長を届けてから両替所に戻るのは手間がかかりそうだ。


 午後になっても、嵐は一向に収まらなかった。


(今回はウシさんは持衰をやってないよな)


 ウシやその兄はもうやってないはずだが、この嵐に巻き込まれた船があったとすると、その船の持衰は任務失敗でひどい目に会うことになるだろう。


 夕食はジャーマンポテト風な色の凄い何か。野菜がない。


 魔術で空気圧縮していて冷却もできているはずだから、単に嵐で調理できなかったのだろう。


 食後特にすることもなく、メグミは風の音を聞きながら、時折揺れる船室で眠りについた。


 朝、メグミが目を醒ますと既に雨は止んでおり、風だけが残っていた。デッキに出てみると、ものの見事に砂だらけで、船員たちが掃除をしている。


 聞いてみると特に損傷はないのだが、ホバーは波に弱いので風と波がある程度収まる必要があり、出航は他の船よりも遅くなるという。


 メグミが船員に交じって掃除をしていると、港の街側が騒がしくなった。


 (おか)の方で『臨検だ』と言っているようだ。


 ホバーにも役人らしき集団がやってきた。


『禁制の品を持っている船が見つかったので、積荷を改めさせていただく』


 積荷と言っても基本、人間だけだよな、と思い、船室に戻ったところで、


『帝国の地図を持っているものはおらぬよな』

 と言われてメグミは焦った。


 アンビーも併呑されて帝国扱いなのではないだろうか。


 だとすると、ナンデの港の地図をバッチリ持っている。


 今から地図を隠している時間はないし、それが見つかったら単に持っているよりまずい状況になるのは目に見えている。かといって、飲み込めるような柔らかい紙ではない。


 そうこうするうち、メグミの船室に役人がやって来た。


『あー、荷を改めさせていただく、持ち物を出していただきたい。』


 メグミはまず、通行証を出す。


『なるほど、移送者に同行されているのですか』

『そうです、ケイジョーで教会まで連れて行くことになっています』


 こっそり通行証に挟んでおいた銀貨がそのまま返されるのを見て、メグミは賄賂が効きそうにないことを理解した。


 役人が、荷物の中の紙の束を手に取る。


 1枚目。

『これは?』

『ケイジョーの両替所の地図です』


 2枚目。

『ふむ、これは?』

『教会までの道順らしいです』


 3枚目、ナンデの港の地図である。

『これは?』

『港と役場の位置関係らしいです』


 顔に出たり、魔術で考えを読まれたりするといけないので、嘘はついていない。


『あとの荷は……金だけだな』


 他の役人が、メグミと船員のベッドを念入りに調べている。どうやらナンデの港の地図を、ケイジョーの地図と思ってくれたようだ。臨検であるからにはヒゴーの役人だろうし、ナンデの地図とは認識できなかったと思われる。


 役人たちは、他の船室に向かった。


 船倉からざわざわと声がする。


「えーっ、それを持ってかれちゃうんですかぁ」


 部長がそんなことを言っている。


 メグミは臨検を受ける側なので野次馬っぽく見に行くことはできないが、どうやら部長が持っていた酒――おそらくバチ殺し――が引っかかったらしい。


 要するに、厨房にある『申請済』の分を越えた酒を持っていたことになるわけだ。いつの時代でも場所でも、酒は課税対象なのである。


(酒では死罪にならんだろうな)


 残念ながら、単なる没収で済んでしまったようだ。


(地図も、部長に持たせておけば良かったか)


 合わせ技でも死罪と言うわけにはいかないだろうが、部長のストレスの原因にはなったのではないだろうか。


 嵐による臨時入港であることが判っているためか、臨検は表面的なもので済んだらしい。


 賄賂が効かなかったことや金をあっさりそのまま返してくれたことから見て、ちゃんと仕事をする意識の高い役人だったと言えるだろう。


 没収品で酒盛りくらいしているかも知れないが。


 その酒の効果かどうかわからないが昼食は上陸許可が出たので、港で焼き魚定食を食べることができた。海が荒れていたわけだから当然魚は干物である。



 午後になってようやく波が収まり、出航することになった。干潮らしく潮が思いっきり引いていたが、そこはホバークラフト、こともなげに砂浜を疾走し海に戻ったのであった。


「夕食も干物かよ、そうとわかってれば貝にしとくんだった……」

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