お別れ会
メグミは、ヘビ料理とネズミ料理はすでに慣れっこであるが、ここでは子どもたちが皮剥ぎ、内臓処理と手際よくやってくれる。メグミが行うのは適当な大きさに切ることや味付けくらいだ。
メグミは今まで部長がバチやヌーを食べるのを見たことがない。おいしいのに食わず嫌いなのだろうが、せっかくの食文化に触れることができないのはもったいないではないか。
そう思って今回は何としてでも食べてもらうことにした。
食べろと言ってもなんだかんだ言って食べないのがわかっているので、お別れ会で部長が主役と言うことにし、一口目の栄誉を部長に与えようというわけである。
『今日の恵みをユニコーン様に感謝いたします』
「◎※★△▼γ☆□○」
出来上がった料理を前に、子どもたちの視線が部長に集中する。イヲキから、部長は今日の主役であり、部長が食べ始めなければみんなが食べられないことを伝えてもらっている。
「かんぱーぃ」
ごまかすようにグラスを持ち上げた部長が酒を一口飲み、「さ、食べましょう」と言っているが、日本語の通じない子どもたちの期待に満ちた視線は変わらない。
「さ、どうぞ」
メグミはそう言って、より抵抗がありそうなヌーの煮込みをよそって部長の前に置いた。
部長が何てことをするんだという非難がましい目で見てくるが無視する。
(地球の職場では自分が『社会の一員として集団行動ができない奴は役に立たない』とか『連帯責任だ』とか勝手なことをよく言ってたよな?
「よそったんだから食べてよ」
って言ってやりてぇ)
酒が飲めない者にも飲むことを強要していた地球での部長に比べれば、食事を勧めているだけである。非難される言われはない。
そう思いながら睨んでいると、部長がビクッとイヲキの方を見た。何か言われたらしい。
「うぅ」
部長は諦めたようにバチのから揚げに手を伸ばした。メグミがよそった煮込みは無視である。ヌーの煮込みは温かいうちはおいしいのだが、冷めて脂が固まると独特のクセが出て少し食べにくくなるから早く食べて欲しいのだが。
子どもたちはようやく食べられるので大はしゃぎである。別に、部長とお別れできるからはしゃいでいるわけではないと思う、多分。
「飲まないか」
不本意ながら、メグミは部長のグラスに酒を注いでやる。料理を口にしたくないためか、注げば注ぐほど飲んで行く。
イヲキにあまり飲ませると危険なので、メグミの方もどんどん注いでいく。
そのイヲキはというと、時々部長に「はい、あーん」をしてやっている。差し出しているのは、もちろんバチ肉である。
部長は「喜んでいる」からかなり隔たったような表情でそれを食べている。いるかどうかは知らないが、イヲキのファンが見れば怒りだしそうな顔だ。
子どもたちは食事が終わって片づけも済み、食べ物が残っているのは部長の前だけとなっている。イヲキは2日後のハンスラに向けた移動の説明をしているはずだが、部長はおそらく酔っ払って聞いていない。
『ウケンからの乗合車はナンデの役場前までしか行きませんから、これがナンデの港までの地図になります』
部長が酔っぱらって寝てしまったので、メグミが話を聞いている。
『そんなに距離はない感じですね』
地図には縮尺など入っていない。分かれ道の様子などからみて、歩いて数分と言う所らしい。
『それで、こちらがナンデからケイジョー行きの船に乗るための通行証です』
『これを船に乗るとき見せればよいのですね』
『はい、それでこちらがケイジョーの港から教会までの地図です』
『随分大きそうな街ですね』
『それはそうです、ハンスラの中心都市ですからね』
『迷子になったら大変そうですね』
メグミは部長に同行するので、向こうでの部長収容までの流れをしっかり聞いておく。
『あ、それはそうと、何かあったらどこにどのように連絡すればよいのですか』
これは、重要なことだ。
別に、部長を海に突き落とそうとか思っているわけではない。さっさとくたばって欲しいが、積極的に殺しにかかろうと思っているわけではないのだ。
しかし、事故が起こる可能性が高いルートがあれば、そちらを選ぶつもりはある。
自分で殴りかかることはしないが、ヤシの木やドリアンの木があれば、その下を積極的に一緒に歩いて行こうとする感覚だろうか。自分も危険なのだが、一瞬でも早く部長がくたばれば、無傷で地球に戻れるのは一角カバに確認済みである。
『ナンデで船に乗る前ならナンデの教会支部に、ハンスラ行きの船に乗った後ならケイジョーの教会か役場で報告してください。
メグミさんは向こうでだれとでも会話できるはずですから、問題ないと思います』
『しばらく向こうに滞在しようと思っているのですが、ケイジョーというか、ハンスラのお金はこちらと同じですか』
『ハンスラではハン札という紙製のお金と銅貨が主に使われています。ナンデでは無理ですが、ケイジョーの港に両替所があります。アンビー貨、帝国貨どちらも両替できるはずです』
部長が返品されない限り、メグミはアンビーに戻ってこない。部長の移送が決定したところで、家も引き払うことにしたのだ。
翌日、部長は昼過ぎまで起きてこなかった。子どもたちは汚物を見るような視線を送りつつ、誰も起こしに行こうとしなかった。実際かなり汚物に近かったし当然であろう。ヘタに未練が残らなくて良かったと言える。
ついにウケン出立の朝。
『それではメグミさん、宜しくお願いします』
『わかりました、行ってきます』
メグミはもうウケンには戻ってこないつもりでいるが、それを伝えたのはヒロにだけである。
着替えと携帯食、多少の護身用武器という出で立ちは、全財産を持っているようには見えない。
部長はメグミが日本語がわかることを知らないので、隣でおとなしくしている。ケイジョーの教会に着くまで、話ができる相手はいないはずなのだ。おとなしくメグミの言うことを聞くように、イヲキがきっちり念を押しておいたらしい。
乗合車の中でも、部長はおとなしいものだった。メグミは車内での会話を聞き取れるが、部長は周りの乗客が何を言っているか理解できないようだ。せっかく部長に教えるはずだったアンビー語の口説き文句は無駄になってしまったが、この調子ではケイジョーでも部長が言葉を覚える見込みはないだろう。
ナンデの港で、乗る船はすぐにわかった。かなり大きく平べったい船で、なぜか陸上に停泊しており帆もオールも見当たらない。何の動力で移動するのか不思議に思ったメグミは、近くにいた船員さんにどうやって動くのか聞いてみた。
『ああ、これは圧縮空気の魔晶石を使って、浮き上がると同時に推進する最新型の船なんです』
と言うことはホバークラフトか!




