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4月24日

 朝起きて顔を洗いながら、メグミは何となく夢を見たことを思い出していた。変な夢を見たははずだが、腹立たしかった記憶や変なおばさんと話したことぐらいしか思い出せない。あまり気にしないで出勤することにした。旅行計画がなくなっただけでGWはGWなのだ。ここで休むわけにはいかない。


 会社ではGW前なので日常業務に加え、GW明けの発注確認や関連会社に対する営業日の連絡があるのでいつもより忙しい。

 そんな中、食品サンプルが送られてきたと内線が入る。どこだ、忙しい連休前にそんなものを送り付けてくるのは。宅配便の兄ちゃんに運んでもらいたいところだが、部署によっては部外秘の物も多いので受付まで取りに行くことになっている。あいにく男手は部長以外外回りに出ていたのでメグミが台車を押して取りに行く。


 なに? なぜ部長に行かせないのかって? メグミはそんなことで部長と話したくないし、交渉で精神的に疲れるより台車で荷物を運んで肉体的に疲れる方がはるかにマシだからに決まっているではないか。

 受付に行くと、受付嬢が宅配便の兄ちゃんと話をしていた。受付嬢は道蔦綾子(みちつたあやこ)と言い、今回の旅行メンバーの一人である。話している二人のうち、確か宮本とかいう宅配の兄ちゃんをふと見ると、その瞳に綾ちゃんが映っているのが見えた。メグミは「はて、私はこんなに視力が良かったか?」と綾ちゃんの方を見ると、彼女の瞳には誰も映っていない。

 メグミが宮本君の目をもっとよく見ようと近づいて行ったところ、台車の音に気付いた彼は「それじゃあ、また」と言いつつ帰って行ってしまった。


「何を話してたの?」

「ううん、別に連休のこととか意味のないことだけど」


 そこへ、営業二課の北森、韮崎の2人がメグミと同じく台車を持ってやって来た。見ると、北森の目に、綾ちゃんが映っているではないか。で、綾ちゃんを見ると、綾ちゃんの目にも北森君がばっちり映っている。


 メグミは唐突に、昨夜の夢を思い出した。


「ははーん、そういうことね」


 あの役立たずの男神の妻は、「男女の感情を知る力を授けましょう」とか言っていた。これがそうに違いない。どうやら好意を持っていると、その相手が瞳に映るらしい。男神の妻はメグミをあの世界での諜報員として使いたかったのかも知れないが、何とも意味のない力である。それどころか、これでまた部長と話すのが嫌になった。話していてもし自分が部長の瞳に映っていたらと考えると耐えられない。せめてON-OFF機能を付けて欲しかった。



 帰り、メグミは綾子を夕食に誘った。家に誘ったわけではなく、食べて帰ろうというのだ。一応給料日直後なのだが、連休を控えてリーズナブルにファミレスである。


 二人ともチーズハンバーグセット小ライス付きを食べながら、メグミが行けなくなった経緯について話す。


「ほんっと、あの部長最低ね」

「でしょー、もう信じらんない」

「で、メグはこっちでどうすんの?」

「うーん、2日に出勤しなきゃだから、招待券あるし食博行ってこようかな」

「インテックスの?」

「そう、こういう普通のイベントで行くことないし、たまにはいいかなって」


 メグミはインテックス大阪に、薄くて高い本を買いに行ったことしかない。

 

「それはそうと、私の分キャンセルしちゃったけどそれで良かったの? 急に一人行けなくなったからって北森君でも誘えば良かったんじゃない」

「ななななナニヲイッテルノヨアンタわー、女子の団体旅行に男混ぜてどうすんのよっ」


 立ち直りの早い()だ。だが、この慌てぶりから察するに、人物が瞳に映る現象の予想は正しいのだろう。



 こうなると、寝る前の祈りが実現する可能性が出てきた。メグミが俄然、真剣に祈ることにしたのは当然であろう。ただし、人のことを石ころを見るような目で見るわ、ロクな機能をくれないわ、昨夜の神々はまっぴらである。


「世俗的でない神様仏様、どうかあの糞部長をこの世から消してください、お願いします」



 いつしか眠ったメグミは、また夢を見ていた。こんどはなかなかに神々しいだれかの前にいるが、結構大きな相手のようで全体が良くわからない。


「願い事をしたのはあなたですか」


 おぉ、今日は願いを聞いてくれそうだ。この感じは神様ではなく仏様だな。メグミはとりあえず願いを口にしてみた。内容を相手に合わせるのは忘れない。



「うちの会社の荒井っていう糞部長、奴を地獄に落として欲しいんだけど」

「安心してください。彼の人は見ると善人ではないし、悪人である自覚もないようですから地獄に落ちるでしょう」

「いや、死んでからの話ではなくて、すぐに落としてくんない?」

「生きたものを地獄に落とすことはできません」

「だったら殺してよ」


 仏に人を殺せとは無茶を言う女である。


「死んだ者は生きていた時の行いで場合によっては地獄に行くでしょうが、悟りを開く機会すら封じて殺してしまうなどとんでもないことです。また、地獄に落ちた者を救うことはしますが、現世の者を勝手に動かすなど、それはできません」


「えーーー、私を救済すると思って何とかなんない?」


 仏はしならく考えていたが、


「そうですね、それではあなたが悟りを開く助けになるように、動物の言葉が理解できるようにいたしましょう」


「いやっ、そんな力いらn」


 気づいたら目が覚めていた。説得に失敗したようだ。

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