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口説き文句

「ハァ、あのエロ爺はまったく……」


 メグミはウシからスミヨウ温泉での(おそらく)部長のド顰蹙な行動を聞かされ、呆れかえっていた。


「そう言えば、社員旅行で混浴と聞くと真っ先に乗り込んでいたな」


 そのすべてで男とおばさんしか入っておらず、すごすごと戻ってきた。何処にいても行動が変化しないのはある意味潔いとも言えるが。


 今の所、言葉がわかっていないようなので交渉が成立する可能性は低いし、そういったお姐さんたちが子どもができるようなことになる可能性も低いとは思うが、危険なことに変わりはない。


 バカまっしぐらというのならそれはそれで良い。あまりにもな行動が続くとメグミだけでなく周囲を呆れさせ、カモねぎ状態の時に誰も助けてくれないだろう。枕探しだろうが美人局(つつもたせ)だろうが部長が毟られるのは自業自得なのだ。どちらも鼻の下を伸ばしていれば引っかかる可能性がかなり高くなる。


 しかし、部長が言葉を覚えてしまったら、メグミにとっての危険度が跳ね上がる。ここまでは物覚えが悪かったからと言って安心はできない。なんと言ってもエロの(エネルギー)は侮ってはいけないのである。


 かつてビデオデッキと言うものがあったころ、画質の良いβ方式よりもVHS方式が普及した理由の一つ(というか全部かもしれない)に、エロコンテンツの充実度の違いがあげられていたり、外国語の習得に最も効率が良いのはその国の彼氏や彼女を作ることだと言われているのがその例である。

 エロの(エネルギー)は数多の不可能を可能にしてきたのである。


 ただ幸いなことに、この世界でエロいことを覚えようにも、エロい言葉と日本語がどのように対応しているかを解説している書籍があるわけもないから、当面は何の心配もない。メグミは、そう思っていた。いたのだが……。


『メグミさんと同じときに教会にやって来た小父(オジ)さんがいらっしゃいましたよね』


 さんざん世話になったし最初はバチ取り棒も貸してもらったのだ。メグミはたまに教会に行って近況報告と言う名の情報交換も行っている。これは部長の動向を知る最も確実な手段でもあるからだ。しかし今回はイヲキの言葉に不穏なものを感じた。


『あの方が、女性の口説き方を教えて欲しいとおっしゃいまして』


 イヲキが頬を染めながら、部長の怪しからん行動を報告してくれる。


「やっぱりか、あの野郎」


 メグミは予想通りの内容に顔を顰めた。

 部長がまともに会話できるのは、今の所イヲキだけなのだ。そりゃあ、言葉について聞きたければイヲキに聞くしかない。それはわかるしデリカシーが無いのは知っていたが、女性に、女性の口説き方を聞くとは何とも無茶苦茶な奴である。


『ただ、私の対応では限界がありますので、メグミさんに教えてあげていただきたいのです』


 さすが神官さん、何とも善人である。


『あの方は、どういった経緯で女性を口説こうとなさっているのですか』


 あまりに善人過ぎて、自分を頼って来た者を拒否するという考えがないのだろうか。メグミはそれとなく、下手をすれば部長の毒牙にかかる犠牲者が出かねないことを認識させようとした。部長のことを「あの方」などと言わなければならず吐きそうだったが。


『なんでも、見かけた方とお友達になりたいとのことでしたが』

『はぁ、なるほど。(お風呂で)見かけた人と(肉体的)お友達になりたいと。しかし、私もアンビー語で話せるわけではありませんし』

『そこは私が何とかします。なんでしたら、どんなふうに言えば良いか私とメグミさんで見せても良いと思いますよ』


 それは、部長の前でお芝居をしろと?


『それとも、メグミさんは私なんかとそう言った会話をするのはお嫌ですか?』


 いえ、とんでもない。単に、あの男のために何かをするのが嫌なだけです。


『そんなことはありません。では、どういった会話をしたいのか聞いておいてください』


 エロオヤジの相手をイヲキだけにさせるのは危険だし、部長の関係者として申し訳ない。


 しかもまずいことに、どうやら今の部長は煩悩(エロパワー)全開である。このままでは本当に言葉を習得してしまうかもしれない。メグミはどうにかして部長の言語習得、それがだめならお姐さんとの交渉を阻止できないか考えた。


「そもそも、なんで私が奴に言葉を教えるということになるのだ。こっちが覚えたいわっ」


 まだ、アンビー語では簡単な会話しかできない。


 イヲキがそういったシチュエーションでの会話をどう捉えているかだが、お芝居のために先にセリフを覚えるのも赤面ものである。


「しかし、言葉を教えるというのは考えようによってはチャンスかも。会話としてうまくいきっこない出鱈目を教えれば良いんじゃないかな。例えば自分が言われたら絶対に許せない言葉とか」


 メグミは会話をシミュレートしてみた。


「ねえちゃん、かわいいねぇ」


 だが、このセリフを部長が言ったと考えた途端、メグミは総毛立った。


「いかん、奴が話していると思うだけで、どんな言葉だろうと腹が立つ。これでは正しくシミュレーションできない」


ここで、「タダでやらせろ、ブス」とか、風呂で声をかけるつもりのようだから「裸のまま表に出ろ」とか言わせれば、余程特殊な性癖の人でなければ交渉不成立、あわよくば部長が取っ捕まる可能性もある。


 しかし、こんな言葉をイヲキの前で教えたら不審に思われるだろうし、そもそもアンビー語でそれをどう言えば良いか自分が知らないのだ。


 イヲキが聞いてないところで教えるとしても、少なくとも自分が先に言葉を覚えておく必要がある。それも、人を怒らせるような罵詈雑言を。



「さて、どうするか」


 サトウキビ農場の休みにはあと10日ほどはあるらしいと聞いたメグミは、まずは知り合いにリサーチすることにした。


 メグミは、そういう下ネタを聞けるような知り合いをイメージしてみた。


 イヲキは問題外。

 ヒロは……若くて女性を口説いた経験が乏しそうである。しかもイヲキと同じく善人なので罵詈雑言のボキャブラリーも少なそうだ。

 ウシさんは……意外に言葉も知ってそうだし、下ネタにも動じそうにないが、なぜそんな言葉を知りたいのかをしつこく聞いてきそうで怖い。姐ちゃんを口説くくらいなら相手してやるとか言われたら困ってしまう。

 スミヨウのギルドマスターは。うん、期待できるのではないだろうか。


 他には……ほとんど当てがなかった。メグミは教会関係者を除くと3人と言う自分の人脈の少なさに愕然としたのであった。

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