染みついた精神
15短編です
今日から新たな会社での日々が始まる。
以前までの会社は、いわゆるブラック企業だった。昼飯の時間が17時になったり、気がついたら日を跨いでいたり。定時退社なんて言葉は、入社してから聞いたことが無い。最長一か月は家に帰れないのが当たり前で、帰れたとしても、風呂に入る間もなく、ベッドに倒れこんで、気がついたら出社する、ソレの繰り返しだった。
そんな馬車馬をルームランナーで最高速度で走らせるような経営をしていたからか、労基の監査が入り、あれよあれよという間に倒産してしまった。
急に仕事がなくなって、慌てて新たな企業に駆けこんだ。幸い、この会社はすぐに俺を拾ってくれたから、無職の期間はほぼない状態で転職できた。もうそれだけでありがたい。
今日は記念すべき一日目。昨日は四時間も眠れたし、初日はちゃんと仕事をこなしたい。
九時業務開始と言うことは、七時半には会社の清掃をするんだろうな。そんなこともあろうかと、七時には会社に来ておいてよかった。でも担当の方が来ていないようだ。そもそも、ビルが開いてない。もしかして朝の清掃はもう少し遅い時間でも良いのかな?それはありがたいなぁ。
八時半になって、ようやく担当の方が現れた。この会社、大丈夫かな?と思ったけど、なんだか担当の人に驚かれてしまった。「九時が始業時間なんだから、九時の五分前に来れば問題ない」と言われたけど、そんなはずがない。またまた~、新入社員をそうやってだまそうとしたってそうはいきませんよぉ?
「今日から頑張って働かせていただきます、よろしくお願いします」
挨拶をすると、柔らかい笑顔と拍手が迎えてくれた、なんだかむず痒い。さぁ、この会社ではどんな仕事を押し付けられる!?
「じゃぁ、この書類をまとめてもらえますか?」
そう言って渡されたのは、一冊のファイル。え、これだけ?
「今日一日でまとめられれば問題ないので、無理せずに!」
担当者はそう言って、隣の席に座って自分の仕事を始めてしまった。
とりあえず、言われた通り、中身を確認しつつ、データをまとめていると、昼前に済んでしまった。
「あの、終わったんですけど」
「え、もう終わったんですか!?はやーい!」
じゃあ次はこれを、ともう一冊を渡された。それを打ち込んでいると、昼食の時間になった。
「じゃぁ、昼休憩行きましょう!社食美味しいんですよ!」
まだ打ち込み途中だったのに、半ば強引に社食に連れていかれてしまった。
他職員の方たちと、和気あいあいと昼飯を食べて、午後はさっきのまとめの続き。
案の定すぐにまとめ終わってしまって、次の仕事を貰おうと、担当の方に声をかけると、「もう今日の分は終わりなので、定時までのんびりしていてください」と言われてしまった。まだ16時なんだけれど。
「仕事早いですねぇ、この調子ならすぐに昇進できちゃいますよ!」
嬉しそうに笑う担当の方の言葉の意味がよくわからなかった。
どうしよう、この会社、怖い。どうして仕事していないのに、誰も俺を咎めないんだろう。何か裏があるんだろうか?俺みたいな仕事できないやつを中途で採用するのもなにか目的があるんだろうか。どうしよう怖い会社に入ってしまったかもしれない。
——俺、この会社でやって行けるのかな・・・。——
染みついた社畜の精神は恐ろしい・・・。




