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偽善者

 二人は周囲にドクヘビの仲間が隠れていないことを確認し、洞窟の中へ入った。

『アイテムボックス』から松明を取り出し、火をともして奥へ進んでいくとすぐに行き止まりになった。


「何もねえ……つーわけはないよな?」

「こっちの地面を見ろ。ならしてはいるが土が盛られた跡がある」


 グッドマンは松明をヴァーゴに渡し、手袋のまま地面を掘り起こした。

 上腕が沈むくらいまで掘り起こすと硬いものにぶつかった。

 ちょうど書類が収まりそうな大きさの薄汚れた金属の箱だった。


「これは……」

「さっさと開けろよ」

「いや、無理だ。魔法で封印が施されている」

「なぜ分かる?」

「開錠判定の魔道具が反応している」


 グッドマンは平たい木札を見せた。

 木札は赤く光っていた。


「青は鍵なし。黄は罠付き錠。そして──」

「赤は魔法の封印か」

「そういうことだ」

「しちめんどくせえことしやがる」

「逆に言えば魔法の封印を施すほどの重要な何かが入っているということだ。こんな辺境の洞窟に隠すほどの何かが、な」

「クソッ、一人だけでも生かしておくべきだったぜ」

「いや、おそらくやつらも中身については知らされていなかっただろう。中身が分かっているならもっと腕利きの者が遣わされていたはずだ。そういう意味では私たちは非常に運がいい」

「まったく……、楽観的な野郎だぜ」


 グッドマンは謎の箱を『アイテムボックス』にしまい、二人は洞窟を後にした。




 ノズの村にもどった二人は村長に依頼達成の証拠としてオオカミの首を見せた。


「おお、これは……。あなたたちに依頼して正解だったようですな」

「そうですね。ですが、オオカミは退治できたものの周囲に人の死体が散らばっていました」

「なんですと……!?」

「オオカミに殺されたのでしょう。調べてみたところ、どうやら山賊の連中のようでした」


 グッドマンは顔色一つ変えずにウソをついた。


「そうでしたか……。しかし、山賊ともどもいなくなったのであれば一石二鳥ですな」

「そう上手くはいきません。やつらは有名な山賊、ドクヘビの一員でした」

「どくへび……?」

「仲間が帰ってこないとなれば他の連中が来るでしょう。そして、おそらくこの村も襲われるでしょう」

「そんな……!?」

「悪いことは言いません。すぐにでもこの村は捨てて、住民全員でどこか遠くへ逃げてください」

「ううむ……」


 村長は腕を組んでうなり声をあげた。

 長く暮らしてきた村を捨てるのに抵抗があって当たり前だ。

 判断を下すにも村人たちの承認が必要となる。


「私からの助言は以上です。賢明な判断を下すことを祈っています」


 グッドマンは報酬の入った革袋を手にして立ち上がった。

 壁に寄りかかって話を聞いていたヴァーゴとともに村長の家を出て、そのまま村を後にした。


「相変わらず甘い野郎だぜ」

「忠告はした。あとはあの村の問題だ」

「俺ならあの村の住人を苦しまないやり方で皆殺しにしておくがな」

「…………」

「どうせ連中は村を捨てられない。ドクヘビは洞窟の箱がなくなっていることに気付いて情報収集のために村を襲って皆殺しにする。むごい殺し方をされる上に俺たちの情報まで漏れる」

「一縷の望みにかけたまでだ」

「やむを得ずとはいえドクヘビの下っ端を殺したのは俺たちだ。村の連中が殺されればその原因は俺たちにある。一縷の望みにかけただと? 知ってるか、グッドマン。そういうのは偽善っつーんだぜ?」


 ヴァーゴの執拗な責め苦にグッドマンは険しい表情のまま答えなかった。

 洞窟の箱さえ無事なら村は襲われないかもしれない。

 それが分かっていてなおグッドマンは自身の復讐を優先させた。

 それでいて村人たちに安らかな死を与えることもしない。

 善を語りながら善人にも悪人にもなりきれない男は黙々と歩みを進めた。

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