命を懸けて
「ヴァルゴ! 貴様、裏切ったのか!?」
「俺らは外野だ。静かにしてねえと首ごと斬り落とすぞ」
魔剣デルフィンを抜き、ヒューネルへと向けた。
ヒューネルはエミストへ救いを求めるように視線を向けたが無視された。
今のエミストには眼前に現れた男以上に面白い殺害対象はなかったからだ。
「どうやって脱獄した?」
「そんな些末なことを聞いてどうする?」
「……違いねえ。目の前で恋人を肉片に変えられた男が復讐しに来た。これ以上、面白いことはねえよなぁ!」
髪で片目の隠れたエミストは目を細め、口の端を持ち上げて心底、愉快そうに笑った。
グッドマンは挑発に動じず、王国騎士団由来の剣技に忠実な構えのまま一歩踏み込んだ。
人殺しに愉悦を覚える殺人鬼は興奮したように舌を出し、息を荒げていた。
(イカれた野郎だぜ)
(助けなくていいのかよ?)
(これはあの野郎の復讐だ。殺すも殺されるも関係ねえ。奴がやらなきゃ意味ねえんだ)
デルフィンの問いはあくまで確認のそれだ。
同じく復讐心を抱くヴァーゴの心が読めるデルフィンも理解していた。
復讐は自分の手でやらなければ意味がない。
恨みはその手で晴らして初めて意味がある。
復讐に失敗して殺されようと関係がないのだ。
殺さなければならないほど憎んだ相手をこの世から消す、それだけが復讐者の生きる目的。
殺気を載せた視線をぶつけ、じりじりと距離を詰めていくグッドマン。
殺し合いに言葉は不要だ。
はあはあと肩で息をするほど興奮しているエミストも半歩ずつ距離を詰める。
互いの間合いに入る、その瞬間、両者は同時に飛びかかった。
低姿勢で駆けたエミストの斬り上げる攻撃を剣で受け止め、散った火花が消えるより速くグッドマンが剣先をエミストの頭に向けた。
突きが来る、と予測して頭部だけ避けようとしたエミストの胴体に渾身の前蹴りが入った。
ガハッ!と息を吐き、フェイントからの蹴りで吹き飛ばされたエミストへ追撃の袈裟斬りを仕掛ける。
エミストの頭をかち割ると思われた瞬間、グッドマンの剣は見えない何かに防がれて火花を散らしながら斜めに逸れた。
隙をついて横へ飛ぶエミストの外套下から細い串のような黒塗りの暗器が飛んだ。
一本は剣で弾いたが、防ぎきれなかったもう一本がグッドマンの肩に刺さった。
(野郎のスキル、見えない盾、か……?)
おそらくグッドマンはエミストのスキルについて知っているのだろう。
見えない何かに攻撃を防がれたことに驚きもせず、騎士団式の剣技と歩法でエミストに休む暇を与えず斬りかかった。
長剣で受け止め、つばぜり合う両者は至近距離で憎しみと愉悦の視線を交差させ、互いに体重を乗せて弾き合った。
一見するとグッドマンが有利に見える。
細身のエミストに比べ、ガッチリとした体格のグッドマンには体力と筋力がある。
消耗戦になればグッドマンのほうが有利だが、そんなことは当然エミストも理解しているはずだ。
時間を味方にできない分、必ずエミストが先に仕掛けてくる。
見えない何かのスキルに対処できなければ致命傷を負うのはグッドマンのほうだ。
ふたたび切り結んだ二人はつばぜり合い、剣と剣は互いの命をねらう。
振り下ろし、受け止め流し、一寸の隙へと剣先をねじこんでいく。
夜闇に咲く火花がまるで二人の命の燃焼のように見えた。
何度目かのつばぜり合いの瞬間、エミストの目線が下を向いた。
見えない何かがグッドマンの腿に突き刺さった。




