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復讐の時

 領主ヒューネルの屋敷に招かれたヴァーゴは屋上のテラスに来ていた。

 屋根のない屋上は領主ヒューネルのお気に入りの場所のようで、本人とエミスト以外は立ち入れないようになっていた。


「よう、領主様。前に話したとおり、今夜は重要な情報を持ってきてやったぜ」

「マーカス商会の経営が大きな打撃を受けるほどの情報か……。それはつまり、これを最後に君はこの街を去るということだな?」

「そうなるな」

「その割に持ち物が腰の剣一本とはどういうことだ? 護衛のエミストも君を警戒しているぞ?」

「重要な情報だから形に残る書類にはできなかった。それに、この情報は今日この場で買い取ってもらって今夜中に俺は街を出ていく。そこのヤバそうな野郎に捕まって体のいい裏切り者として利用されてもたまらねえからな。剣はそのための護身用だ」

「なるほどね。君のその抜け目のなさは本当に惜しいよ。悪事を働く才能がある。どうだ? もっと私と稼がないかね?」

「悪いがお断りだ。悪事ってのはいつか必ず足がつく。引き際をわきまえない強欲野郎はいつも早死にしてたぜ」

「それは残念だ。君の元冒険者としての嗅覚は素晴らしい。いやはや、実に惜しい」


 領主ヒューネルはほとほと残念そうにグラスを傾け、ワインを口に含んだ。

 護衛のエミストはヒューネルのそばでヴァーゴの挙動に目を光らせている。

 元冒険者が帯剣しているからというより、エミストは初めて会った時から一度たりともヴァーゴに対して警戒を解いたことがなかった。

 それはヴァーゴも同じで、一定以上の実力を持ち、かつ剣呑な雰囲気をまとう者同士の宿命でもあった。


「俺だってもっと稼ぎたかったぜ。金はあればあるだけいい」


 ヴァーゴはゆっくりと歩を進めた。

 ヒューネルとエミストに近づかないよう、距離を保って警戒させないように。

 屋上の出入り口を塞ぐように、時刻を知らせる街の鐘塔と一直線に繋がるように。


「でもそれは叶わねえ。……あんたらに用がある奴がいるんでね!」


 ヴァーゴは街の鐘塔に向かって両手を大きく広げた。

 瞬間、ドォン!という轟音が街の中心部から響いた。


「『一年』!」


 凄まじい勢いで闇夜を切り裂く物体が鐘塔からヴァーゴの体に激突し、大木の幹より太い脚で踏ん張ってヴァーゴが受け止めた。

 それは体を丸く折りたたんだグッドマンだった。

 脚を折り曲げ、両腕を顔の前で交差させたグッドマンが計画通り鐘塔のてっぺんからゴランの魔法銃で撃ち出されてきたのだ。

 全身を筋肉の塊で強化したヴァーゴは屋上に大きな轍を作りつつも、グッドマンを怪我なく受け止め、ヒューネル、エミスト両名の前へ呼び寄せた。

 着地したグッドマンはスキル『アイテムボックス』から剣を取り出した。


「き、貴様は……!?」


 驚きの声をあげるヒューネルとは対照的に、そばに控えていたエミストが駆けだした。

 高速で距離を詰めたエミストの外套の下から長剣が斬り上げられる。

 グッドマンは難なく受け止め、体全体で押し返してエミストを弾き返した。

 ヒューネルの前に着地し、体勢を整えたエミストがニヤリと笑みを浮かべた。


「生きてたのかよ」

「貴様を殺すまでは死んでも死にきれん」

「な、なぜ、ゴートマンが……!?」


 慌てふためく領主ヒューネルは置き去りに、グッドマンとエミストは互いに殺気のこもった視線をぶつけ合った。

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