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別れの晩餐

 さらに数ヶ月が経ち、ヴァーゴはターンウッド商会へ細々とした情報を流し続けた。

 その間に数回は領主ヒューネルとも会い、悪だくみの助言をもらった。

 多少は気を許したのか、ヒューネルの屋敷の屋上に用意された、街を一望できる露天のテラスで酒を酌み交わしたりもした。


 マーカス商会も情報漏洩を警戒して新商品の開発は控えていた。

 そのため、できる嫌がらせとしては取引先の横取り、取引商材を前もって買い占め、取引した商人の荷馬車を襲うなど、細々と、しかし確実に損失の出る嫌がらせを繰り返していた。

 ヴァーゴのグループ分けの情報とミーアの情報の組み合わせで、誰が内通者か分からないようにしていたが、商会の上層部は内部に裏切り者がいることには気が付いているだろう。


 ヴァーゴがマーカス商会で働くようになり約一年、準備は整った。

 領主ヒューネルにかつてない規模の重要な情報を流すことを約束した。




 仕事終わりに行きつけの大衆酒場でいつも通りビリーと晩メシを食べていた。


「ヴァルゴ、最近みんなピリピリしてねーか?」

「まあな。何かにつけてターンウッドに先を越されたりしてるんだ。どっかから情報が漏れてると考えるのが普通だ」

「やっぱそうだよな……。どこの誰だか知らねーが勘弁してほしいぜ。こっちは働きにくくて仕方ねー」


 ビリーはエールを煽って愚痴をこぼした。

 ラッキーで就職できたビリーにとって、マーカス商会で働くことは金稼ぎだけでなく商人としてのスキルアップも兼ねている。

 職場の雰囲気が悪くなるのは迷惑なことだろう。

 ヴァーゴはビリーの猫背でくたびれた雰囲気のいでたちに、ふと言葉を漏らした。


「……ビリー、最近、事務所内であんたのことを怪しんでるってウワサを耳にしたぜ」

「はぁ?! お、俺が何したってんだよ?」

「何もしてなくても疑われるようなところはあるんじゃねえのか?」


 そう言うとビリーは視線を落とした。


「俺は……たしかに商人としてはそんな優秀じゃねーよ。あそこにいる連中と比べても仕事で勝てる気はしない。でもよ、仲間を売るような真似なんか死んでもしねーぜ。商人にとって信用ってやつは、命より大事なもんだからな……」

「俺はあんたを信じてるぜ。つーかあんたはそんなあくどいことができるタマじゃねえ」

「ヘッ、褒められてる気がしねーや」

「だけどよ、周りがどう判断するかは別だ。もしも何かあって、あんたが何も悪くなくても、大人数に追い込まれそうだと判断したら全力で逃げろ」

「それは、元冒険者としてのアドバイスか……?」

「ああ。冒険者だろうと商人だろうと、勝てない相手とは戦わないのが一番だ。あんたが諦めないかぎり、どれだけヘンピな町に行ったって商売はできるだろう?」


 ビリーは暗い表情のまま鳥の串焼きを皿に置いた。


「勝てない相手とは戦わない……」

「最後まで生きてた奴が勝ちだ。そんでやりたいことを成し遂げた奴が勝ちだ。それだけは忘れてくれるなよ、ビリー先輩」


 ヴァーゴがめずらしく励ますような言葉を投げ、エールのジョッキを持ち上げた。

 ビリーは苦い表情をしていたが、たった一人の後輩からの助言に口元をゆるめ、ジョッキを打ち合わせた。

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