闇討ち
デミスの屋敷を出てからヴァーゴは視線を感じていた。
(相棒、つけられてるぜ)
(二人ってところか)
(いや……三人だな)
デルフィンの助言を受け、ヴァーゴは宿への道とは別の通りを歩いた。
ある程度を歩いてから薄暗くてひと気のない裏通りに入った。
すると前方に二人、背後に一人、粗末な格好の男たちがナイフを取り出した。
「おいおい、俺が金持ちに見えるのか? 襲うならもっと裕福そうな奴にしろよ」
無駄だと分かりつつ、男たちに声を掛けながら戦力を分析した。
前の男たちも背後の男も武器の構えから判断するに大した敵ではない。
だが問題は男たちの格好から見るに、おそらくドクヘビの手下どもであるということだ。
領主ヒューネルがこんなことをするとは思えない。
メリットがないからだ。
おそらくはエミストの仕業。
男たちからは殺気が感じられなかった。
つまり、元冒険者ということになっているヴァーゴの実力を試そうということだろう。
(相棒、殺すなよ!)
(当然だ。殺す気がないなら程々に殴られて追い返してやる)
前の男たちがナイフを構えて斬りかかってきた。
一人目の攻撃はかわし、二人目のコブシを殴ってナイフを弾き飛ばした。
三人目のナイフを腕で受けて切り傷をもらった。
「いってえ!」
反撃に男の顔面を殴り飛ばし、一人目の男のナイフを避けて腹に蹴りを喰らわせた。
ナイフを失った二人目のコブシを頬に受けつつ、お返しのコブシを腹にめり込ませてやった。
それぞれ悶える三人はヴァーゴの実力が測れたと判断したのか、颯爽と去っていった。
「あー、いてえ」
腕に切り傷をもらい、頬も殴られた。
武器も持たず、ステゴロで三人を追い返すくらいの実力、という実績を持ち帰ってもらった。
エミストはヒューネルとは別の意味でヴァーゴのことを警戒している。
魔剣デルフィンを出して必要以上に警戒させても得はない。
闇討ちへの対処としては上々といったところだろう。
宿にもどるとグッドマンがいの一番に心配してくれた。
「ヴァーゴ! その怪我はどうした!?」
「帰りにドクヘビの手下どもに襲われた」
「まさか殺してはおらんだろうな?」
「当たりめえだ。あのエミストとかいう野郎、俺が元冒険者だってことで警戒してやがる。ヒューネルと顔合わせしてる時も殺気こそ隠していたが、どうやって俺を殺そうか考えているように見えたぜ」
「武闘派と言えば聞こえはいいが、エミストは殺人に快楽を覚える狂人だ」
「そんな野郎がいて、よくこの街の平和が維持できてんな」
「そこは領主ヒューネルが権力を悪用してるにゃ。平和な街でも犯罪は起こるし、犯罪者の末路を気にする住人なんていないのにゃ~」
「……犯罪者を裏で殺して鬱憤を晴らしてるってわけか」
「実際に見てきて分かっただろうが、奴は危険だ」
「その危険な奴の警戒をかいくぐって殺すんだろ? 策はあんのか?」
「もちろんある。だが、それには領主ヒューネルの懐にまで入り込む必要がある」
「はいはい、それもすべて俺の頑張り次第ってえわけだな。疲れる作戦だぜ」
「ヴァーゴ、もう一息の辛抱だ」
グッドマンの表情にはヴァーゴへの謝罪とエミストへの殺意が入り混じっていた。




