領主ヒューネルとエミスト
一週間後、デミスの屋敷を訪れたヴァーゴはいつも通り応接室に案内された。
例の偉い人を連れてくると部屋を出ていったデミスはすぐに戻ってきた。
連れてきたのは二人の男。
髪を綺麗に整え、眼鏡の下の眼光は鋭く、神経質そうな男。
もう一人は黒い全身外套に身を包み、かぶったフードから片目だけをのぞかせている細身の男。
前者が領主ヒューネル、後者がドクヘビ幹部のエミストで間違いない。
(相棒、あの外套の男……)
(わかってる。外套の下に武器を隠し持ってやがるな)
服の内側でスキル『アイテムボックス』から柄頭の先端だけ顔を出した魔剣デルフィンが警告した。
「ヒューネル様、こいつがお話したヴァルゴという男です」
ヴァーゴはソファから立ち上がり、ヒューネルに軽く頭を下げた。
この礼儀作法はグッドマンの説教とマーカス商会で働くうちに身に付けたスキルだ。
ヒューネルは対面のソファに座り、エミストはそばに突っ立って動きを止めた。
一応、ヒューネルの護衛としての役目も負っているのだろう。
ヒューネルはヴァーゴに座るよう指示した。
「君がヴァルゴくんか」
「ああ、あんた……あなたは?」
「普通に話していい。聞いた話では元ならず者だと言うじゃないか」
「すまねえな。生まれも育ちも悪いもんでよ。いまさら言葉遣いを直すのも難しいもんだ」
「構わんよ。私にとって大事なのは役に立つか否かだ。その点で君は役に立つと判断した。デミスから話は聞いている。マーカス商会で働いているにも関わらず、内部情報をこちらに流しているそうじゃないか」
「マーカス商会で働けているのはコネのおかげだ。別に商人になりたいわけじゃねえ。ただ金を稼ぎたい。一生、遊んで暮らせるだけの金が手に入ったらあんなところとはおさらばするつもりだ」
「フフッ、奴らもとんだ男を雇ってしまったな。だが、ターンウッド商会にとってはこれ以上、おいしい話もない。君のその顔つきはいまだ意地汚い冒険者のそれだ。せいぜい役に立ってもらうぞ」
「おう、任せとけ」
ヒューネルがいやらしくニヤリと笑い、ヴァーゴも不敵に口の端を上げてみせた。
話は終わり、ヒューネルが立ち上がりエミストと共に部屋から出ていった。
残されたデミスは胸をなでおろした。
「緊張してたのか?」
「当たり前だ。領主様の機嫌を損ねたりしたら俺が会長をクビになっちまう」
「あんたらターンウッド商会の後ろ盾は領主様だったわけか。道理であくどい商売をしてもお咎めがないわけだぜ」
「そうは言っても領主様も賢いお方だ。さすがに人死にが出たり、一般庶民に被害が出るような真似はしない」
「そうだな、そんな印象は受けた。でも、あの黒い外套を着込んでた奴は何者なんだ? 元冒険者として、あいつからは危険なニオイを感じたぜ?」
「ああ、エミスト様は……ある組織の偉い方だ。それ以上は言えねえ」
「暴力沙汰を裏で取り仕切ってる感じか?」
「お前っ……! ……まあ、そんな感じだ。くれぐれもあのお二人の機嫌を損ねるんじゃないぞ?」
「わーってるよ。俺だって金を稼ぎたいんだ。お偉いさんの機嫌を損ねてもうまくねえ」
緊張で疲れた様子のデミスに別れを告げ、ヴァーゴは屋敷を後にした。




