ビリーとの休日
仕事が休みの日、ヴァーゴは先輩であるビリーに誘われて大通りを歩いていた。
最初は断ろうかとも思ったヴァーゴだったが、先輩社員であるビリーと仲を深めておいて損はない。
それに、ただなんとなく、ビリーの誘いに乗ってみようと気が向いた。
「休日はいつも以上に混んでるなー」
「今日は何が目当てなんだ? ビリー先輩よ?」
「べつに何をするってわけでもねーさ。ぶらぶらしてメシでも食うのに特別な理由なんていらないだろ?」
そんなものか、とヴァーゴは内心で納得した。
「おあ!」
ビリーが変な声を上げたので前方を見ると、冒険者のパーティと思わしき集団がこちらへ歩いてきている。
その先頭には大柄で黒髪、筋骨隆々の女戦士が大きな剣を背負って歩いていた。
横を歩いていたビリーは小走りにその女戦士に近づいていった。
「やあ、おねーさん! よかったら俺とお茶でもしないかい?」
大柄な女戦士はつまらなそうな目でビリーを見下ろし、
「うせな」
一言で一蹴した。
冒険者たちはビリーを気にもかけず去っていった。
当のビリーは誘いを断られたというのにヒュー!と口笛を吹いた。
「あんた、ああいうのが好みなのか?」
「ああ、女はガッチリしてるのがいい! たくましい腕で抱きしめられたいぜ!」
「そうか……」
ヴァーゴの認識では一般に男は穏やかで大人しい女が好みだと思っていた。
ビリーの反応を見るに、一般男性よりたくましい女を好むやつもいるようだ。
猫背で常に眠そうな半目をしているビリーからは意外な刺激を受けることに新鮮さを感じた。
「ヴァルゴ、なんか食いモン買って広場で食おうぜ」
「おう」
せっかくの休日に大して会話も弾まない不愛想なヴァーゴと一緒にいるというのに、ビリーはどこか楽しそうにしていた。
大通りを抜けて噴水のある大広間のベンチに腰かけていた。
ビリーは鳥の串焼きの袋、ヴァーゴは揚げた芋団子の袋を抱えてのんびりしていた。
空は晴天、休日の昼下がりの広間は家族連れやカップルなどが思い思いに過ごしていた。
「なあヴァルゴ、お前、夢ってあるか?」
「夢?」
「俺はあるぜ。しっかりした夢がな。ちょっと当ててみろよ。当たったら串焼きを一本くれてやるぜ」
「あんたの夢か……」
ヴァーゴは自分にとって縁遠い“夢”などという言葉を頭の中でぐるぐると泳がせてみた。
「……大金持ちになることか?」
「ぜーんぜん違うぜ! つーかお前、俺がそんな俗な守銭奴に見えるのか?」
「見える」
「かーっ! お前ってやつは! 俺をなんだと思ってやがる!」
ビリーは大げさに手で目を覆ってみせた。
それからどこか遠い目で訥々と話し始めた。
「俺の夢はな、俺だけの小さな商会を立ち上げることだ」
「マーカス商会じゃ不満なのか?」
「んなこたねーさ。給料はいいし、同僚もすげーやつばっかだ。学ぶことだって多い。だけどよ、男なら一国一城の主になってみたいって思うもんだろ?」
「へぇ……、そんなもんかねぇ」
「お前にだって夢くらいあるだろ? それこそ大金持ちになりたいとか、うまい酒を腹いっぱい飲みたいとか、美人な嫁さんをもらいたいとかよ」
「夢か……。考えたこともねえな……」
ヴァーゴの生きる目的は両親を殺した山賊の男を殺すことだけだ。
そのために強くなることだけを考えて生きてきた。
夢を見る、なんて発想すらない人生だった。
「まあ夢じゃなくてもいいや。なんかこう、やりたいこととか、成し遂げたいこととかねーのか? さすがにそれくらいはあるだろ?」
「成し遂げたいこと……、それならあるぜ」
「だろう? 人生は一度きりだ。男ならやりたいことを叶えて大往生してなんぼよ! 必死に生きて、ついでに夢も叶えられたら幸せだ。そんで死んだあとは天国でのんびりだらだら過ごすんだ」
ビリーは言いたいことを言い切ったのか、鳥の串焼きにガブリと喰らいつき、美味しそうに咀嚼した。
“幸せ”という言葉の響きがヴァーゴの頭の中で反芻する。
やりたいことを成し遂げたら幸せ、ビリーはそう言った。
親の仇である男を殺して復讐を完遂できたら幸せになれるのか?
否。
ヴァーゴにとって復讐はやらなければならないことであり、生きる理由だ。
必ず成し遂げるべきものだから“夢”ではないし、できたからといって“幸せ”になれるものでもない。
美味しそうに串焼きを食べるビリーを横目でちらりと見て、ヴァーゴは己の復讐心を再認識した。




