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混乱

 ターンウッド商会がマーカス商会の新商品を先取りして販売したことで、マーカス商会内ではちょっとした混乱が起きていた。

 会長と幹部たちで会議が行われ、この新商品の企画においてどれくらいの赤字が出るか話し合われたらしい。

 一般の事務員たちの間にも動揺が広がっていた。


「おいおい、いったい何がどうなってるんだよ……」

「何かあったのか、ビリー?」

「ヴァルゴ、ターンウッド商会は知ってるか?」

「んーっと……でかい商会だっけか?」

「そうだ。そしてこのマーカス商会の商売敵でもある。そこがうちで企画、開発中だった新商品にそっくりなものを売り出しやがった」

「たまたま企画がかぶっただけじゃねえのか?」

「そりゃそうかもしれないさ。でもよ、その商品のデザインやコンセプトがうちのにそっくりだったんだ。こんなこと普通ならありえねーぜ」

「へぇ……」

「まさかとは思うが…………いや、やめとこう」


 ビリーはさすがに事務所内でその可能性について言葉にすることを止めた。

 この中に裏切り者がいるんじゃないか?

 それはきっと他の事務員も、会長や幹部たちも思い至っていることだろう。

 だが、仲間を疑ってしまっては同僚たちの信頼関係にヒビが入ってしまう。

 いったい誰が裏切ったのか?

 同僚を疑いの眼差しで見るようになってしまっては通常の業務にも悪影響が出るのは容易に想像できた。


 上層部もビリーと同じ考え方をしたようで、事務員たちへの通達では偶然の一致であろうという最終判断が伝えられた。

 だが同時に、通常業務を数人のグループ単位で行うように所内のシステム変更が行われた。

 風通しの良さよりも、万が一の内通者がいた場合の特定につなげるための方策だ。

 企画立案は元より、取引管理、営業、経理、その他の事務員もみなグループに分けられることになった。

 ヴァーゴはグループとそこに分けられた事務員たちの名前をしっかりと覚えた。




「ふむ。さすがマーカス商会の会長だな」


 グッドマンはアゴに手を当て口を引き結んだ。


「ああ、これで簡単にターンウッドに情報を売ることはできなくなったぜ」

「にゃ~、そこであたしの出番なのにゃ~」


 ミーアは楽しそうにくるくる踊るように回った。


「少人数にグループ分けしようと、あたしの目から逃がれることはできないのにゃ~」

「次からはミーアの情報を持って行ってもらう」

「……そういうことか。同じグループから情報が漏れ続ければ犯人を特定できるが──」

「そうだ、異なるグループから小さく情報を盗み続ける。そうすれば誰かが裏切りを行っているという疑念はうやむやにできる」

「やっぱりてめえは騎士より詐欺師にでもなったほうが向いてるぜ」


 グッドマンはヴァーゴの軽口を気にも留めず、ミーアから得た情報の確認を行った。

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