背任
グッドマンから許可が出たため、ヴァーゴはターンウッド商会へ来ていた。
応接室のソファに座るヴァーゴの前には会長の男が座っていた。
「お前がヴァルゴか? マーカス商会の?」
「ああ、まだ新人だが金が稼ぎてえ」
ターンウッド商会の会長はずんぐりむっくりに太った目つきの悪い男だった。
ヴァーゴも悪人面ではあるが、男の表情には金に執着する者特有の意地汚さが滲んでいた。
ヴァーゴは男にある書類を手渡した。
「マーカス商会で進行中の新商品の企画書だ。こっそり書き写したものだから字が汚えのは大目に見てくれ」
「ほぉ、マーカス商会の新商品ねぇ……」
男は受け取った書類をじっと見つめ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ちゃんとマーカス商会の印もある。本物だ。この新しいデザインのイス、職人さえ確保できれば俺んとこでも作って売ることができる」
「マーカス商会に先んじて売り出せば利益が出るだろ? そこから俺にも分け前が欲しい」
「お前、いい度胸してんな。せっかくマーカス商会に就職できたのに、こんなことがバレてクビになったらどうすんだ?」
「俺は元冒険者だ。ちまちま机に向かって仕事をするのは性に合わねえ。それなりに稼げたらトンズラするまでよ」
「ハッハッハ! いいねえ! お前、気に入ったぜ!」
やり方を選ばないヴァーゴは悪人に好かれる素質があるらしい。
嬉しくも何ともないが、計画に役立つのはありがたい。
ヴァーゴもニヤリといやらしい笑みを浮かべてみせた。
「今後もこういう書類が手に入ったら持ち込みてえんだが……」
「まあ待て。あまり派手にやるとお前の裏切りがバレちまう。こういうのはたまーにやるのがいいんだよ」
「じゃあ次はいつ頃にやればいいんだ?」
「そうだな……。最低でも三ヶ月は空けたほうがいいな」
「長えな」
「んなこたねえさ。新商品だってそんなポイポイ企画ができるわけじゃないだろ? それをことごとく俺らのほうで出し抜いたらバカだって内通者に気付いちまう」
「それもそうか」
「ああ、そういうことだ。大金を稼ぐにしたって一発ドカンと当てるなんてカジノでもなきゃ無理ってもんだ」
ヴァーゴはふと歓楽都市エクサリドの件を思い出した。
目の前の男はドクヘビの息がかかっているのだろうが、エクサリドの話が出てこないところを見るに、まだ情報が広まっていないように思えた。
エクサリドの襲撃では目撃者は皆殺しにしたため、ヴァーゴたちの顔が割れることはないが、あまりこの計画を間延びさせるのもリスクがあるかもしれない。
ヴァーゴはターンウッド商会の会長と握手を交わし、ドクヘビ幹部へと繋がる第一歩を踏みしめた。




