雑用係のヴァルゴ
ヴァーゴがマーカス商会に入って一ヶ月。
「おーい、ヴァルゴ。この資料を経理に持っていってくれ」
「あいよ」
「ヴァルゴ、そこの資料の束は廃棄だ。悪いが捨てといてくれ」
「あいよ」
「よおヴァルゴ、出張帰りの土産だ。この菓子うまいぞ」
「おう、ありがとよ」
先輩社員ビリーのアドバイスを受けて職場の事務員たちとなるべく挨拶をするように心掛けた結果、ヴァーゴは雑用係のような形で少しずつ馴染んでいた。
はじめは簡単な挨拶程度だったが、次第に頼みごとをされるようになっていた。
その光景をビリーは満足そうに腕を組んで眺めていた。
「ビリー、これはいいように使われてるだけなんじゃねえのか?」
「いいんだよ、それで! 未経験の新人なんて使いものになるわけないんだ。雑用をしているうちにみんながどんな仕事をしているかを見て学ぶ。これが勉強になるってわけさ」
「ふむ……そんなもんか」
「そうだ、そんなもんだ!」
ビリーは機嫌よく書類整理の棚に向かった。
腑に落ちないような気もしたヴァーゴだったが、自分が幼いころに老剣士に剣を習ったときのことを思い出すと、確かに初めはよく見るように言われた記憶がよみがえってきた。
剣の修行も事務仕事も素人がやるべきことは同じようだ。
ヴァーゴはビリーの後を追って書類整理の仕事にもどった。
昼食を食べ終え、午後の眠気を押さえつけながら書類を整理していたヴァーゴはあるものを見つけた。
「企画書……?」
「お、それはボツになった新商品の企画書だな」
「商会って取引をするだけじゃねえのか?」
「ちっちっち! 甘いぜヴァルゴ。マーカス商会ほどにもなると、ただの取引だけでなく自分たちで新しい商品を作って売り出すんだ」
「新しい商品をつくるって、大変なんじゃねえのか?」
「もちろん大変さ! だけど大売れしたときの利益はすごいことになる」
ビリーは親指と人差し指でわっかを作ってニヤリと笑った。
「取引はあくまで仲介屋として手数料を取るだけだ。もちろん特定の商品を独占して取り扱うこともできる。だけどよ、自分たちで作った商品ならどうだ? 独占はもちろん、値段も自分たちで決められる。これほどおいしい儲けはないってーわけよ!」
「なるほど……」
商人の基本はいろんな職人の作った商品を売ることだ。
買い取った金額より高い金額で売る。
その差分で利益を出すのが基本となる。
だが、商品そのものを一から安く作れれば儲けは仲介の比ではない。
もちろん、その商品がちゃんと売れればの話である。
「新商品か……」
ヴァーゴはその書類をじっと見つめ、ある考えをグッドマンへ提案してみることにした。




