魔法銃と舞踏
歓楽都市エクサリドを出て南下の道中。
商工都市ベールトルードに向かっているため、顔の割れているグッドマンのことを考え、一行は街道を避けて進んでいた。
森の中での休憩中、ヴァーゴがゴランに声を掛けた。
「ジジイ、俺に魔法銃の使い方を教えろ」
「いきなり何を言うかと思えば。人に教えを乞う礼儀も知らんとは呆れるわい」
「礼儀もクソも死んじまったら意味がねえ。あの馬鹿が殴り込もうとしてる街はドクヘビの支配が強いんだろう?」
切り株に腰かけて干し肉を食べているグッドマンに視線を向けた。
エクサリドを出て以来、グッドマンは今まで以上に冷徹な表情で殺気を押し殺していた。
その緊張感は同行しているヴァーゴらにも容易に伝わってきた。
「まったく……。次からはちゃんとした頼み方をしろ」
『爺さんもなんだかんだ面倒見がいいよな!』
「やかましいわ」
ゴランはやれやれとぼやきながら長い砲銃を取り出した。
「こいつはわし専用にカスタマイズされておる。注ぎ込める魔力量、発現する魔法効果、取りまわし、すべてわし専用だ」
「俺が使える魔法銃はないのか?」
「それならこっちの小型銃だな」
ゴランは片手で扱える拳銃を取り出した。
「こいつは一般の魔法銃と大差ない。お前でも扱えるはずだ」
「貸してくれ」
ゴランから受け取った小さな魔法銃を両手で撫でていく。
見知らぬ武器には直接、指で触れるのが理解の近道だ。
「火薬を使う銃と違って弾倉がない。魔力持ちしか使えない代わりに一目で魔力持ちとバレちまうのが難点だな」
「これはどうやって弾を撃つんだ?」
「簡単だ。魔力を込め、起こしたい現象を思い描く。貫通をイメージするか、炸裂をイメージするか、氷結をイメージするかで効果がまったく変わる」
「ふむ……」
ヴァーゴが拳銃の柄の握りを確かめ、誰もいない方向へ銃口を向けた。
「おい待てバカ野郎! ここで撃つなら音を消すイメージも入れろ! ウィリアム! このバカ、魔法銃を撃つぞ!」
ゴランの警告にグッドマンとミーアが注意を向けた。
自分たちが射線上にいないことを確認し、ヴァーゴの元へやってきた。
「ヴァーゴ、頼むから銃を撃つなら忠告はしてくれ」
「悪かったな。これから誰もいない場所へ向かって音を消して撃つ、これでいいか?」
「構わん」
険しい表情をしていたグッドマンは腕を組んでやれやれとでも言いたげにため息をついた。
ミーアは魔法銃を見るのが初めてなのか、興味津々にヴァーゴの魔法拳銃に視線を注いでいた。
「いいか? 銃に魔力を込め、銃弾の性質を特に明確にイメージしろ。銃弾のイメージが明確でないと発射できないか、最悪の場合は暴発する」
「暴発だけは笑えねえな」
「無音のイメージも入れろ。静かに弾が撃ち出されるイメージだ」
「わーったよ」
みなが見守る中、ヴァーゴは一本の木に銃口を向け、引き鉄を引いた。
バスン、と木の幹に小さな銃痕ができた。
「チッ、この程度の威力かよ」
「初めてなら撃てただけで上出来だ。威力はイメージの鮮明さで大きくあがる。もっとも込められる魔力量にもよるがな」
『相棒は魔力持ちだが魔力量自体は大したことねえぞ!』
「勝手にバラしてんじゃねえ、クズ鉄が」
ヴァーゴがデルフィンの柄をこづいた。
「魔力量はあまり気にせんでいい。わしの長銃のように建物ごと破壊するような用途でもなきゃ大した魔力は必要ない。お前さんの魔力量でも慣れれば人を殺傷する銃弾くらいは撃てようて」
「そんなもんか」
「その拳銃はくれてやる。せいぜい練習に励むことだな」
「感謝するぜ」
お礼を述べたことに内心で驚くゴランは置き去りに、ミーアは魔法銃にさわりたくてヴァーゴにせがんでいた。
「ねーねー、さわらせてにゃ~!」
「オモチャじゃねえんだよ。それより……」
『アイテムボックス』に銃をしまわれてションボリしたミーアに、
「獣人の女、てめえの武器はなんだ?」
「ふーん! あたしはミーアだよ! 名前でよんでくれないやつに教えてやらにゃーい!」
無邪気にすねるミーアにヴァーゴは拳を震わせたが、なんとか苛立ちを抑えたようで、
「……ミーア、てめえの武器と攻撃手段を教えてくれねえか? 攻撃の手数が増えればそれだけ生存率があがる」
「えー、しょうがないにゃ~」
頼まれたのが嬉しいのか、ミーアはニコニコしながら距離を取った。
男三人が囲む中、ミーアは笑顔を消し、動きを止めた。
ゆっくりと腕を流れるように伸ばし、同時に足先もピンと伸ばして踊り始めた。
腕で大きく円を描き、くるりと優雅に回転して腰をかがめる。
優美な踊りに一瞬、見入っていたヴァーゴだが、
「おい、誰が踊れと言った」
「にゃんにゃん、これがあたしの攻撃だにゃ!」
ミーアの返事の直後、どこから出したのか、その両手には婉曲したサーベルが二本、握られていた。
なめらかな踊りの延長線上にサーベルが乗る。
その動きはただの踊りではなく、近づく者を切り裂く死の踊りだった。
「あたしの本職はソードダンサー。残念だけど見よう見まねで使えるものじゃないのにゃ!」
しなやかな動きの中に埋め込まれた殺人の太刀筋。
サーベルがなければ美しい舞に過ぎないが、その剣舞は肩から指先、腿から足先に至るまで洗練された動きの連結によって攻撃手段へと昇華されたものだった。
踊り終わったミーアがお辞儀をし、グッドマンが軽く拍手を送った。
「どうだったかにゃ?」
「……すぐに真似できるもんじゃねえのはわかった」
「にゃははー!」
苦い顔をするヴァーゴに対し、一芸を披露したミーアは楽しそうに笑った。




