つまらない感傷
「領主フィーリッヒを殺せ!」
「血祭りにあげろ!」
怒声と罵声が入り混じる中、クーデター軍の男たちがドクヘビの手下どもと刃を交えていた。
そこへ吹き抜けた一陣の風がドクヘビの手下どもを肉塊へと変えた。
バラバラと崩れ落ちる肉片と臓物を前に声をなくしたクーデター軍の男たちへたずねた。
「おいてめえら、クーデター軍の青年団だな?」
「そ、そうだが、お前はいったい……?」
「若年団はどこだ?」
「屋敷の裏手から攻めている! あんたも味方なら俺たちと一緒に──」
「屋敷の中の手下どもは殺しておいた。領主をどうするかはてめえらに任せる。行け」
「た、たすかる!」
ヴァーゴの加勢によって勢いを得たクーデター軍の青年団は領主の屋敷の中へ飛び込んでいった。
火の手のあがる屋敷を尻目に、ヴァーゴは屋敷の裏手へと急いだ。
『おいおい相棒、いきなり正義漢に目覚めたのか?』
「そんな立派なもんじゃねえよ」
屋敷の敷地内をぐるりと裏手に回ると、ドクヘビの手下を相手に苦戦している成人したばかりの少年たちがいた。
「ガキどもが粋がりやがってよぉ!」
「くそっ……!」
大男の剣圧に押されていた少年は歯噛みしながら悪態をついた。
男との打ち合いで手に力が入らなくなってきた時、風圧と共に黒い魔力を帯びた一閃が駆け抜けた。
「あ?」
大男は胴体を横に真っ二つにされ、殺されたことにも気付かずに崩れ落ちた。
裏手を守っていたドクヘビの手下ども、クーデター軍の若年団の面々、誰もがその場に現れた男の異様な存在感に気圧されて動けずにいた。
「てめえが若年団のリーダーか?」
「あ、あんたは……」
ヴァーゴはクーデター軍のリストにあった名前を思い出した。
若年団のリーダー、アルセス。
まだ成人したばかりの少年の顔には、あるキャバレーの女の面影があった。
「ガキが何のためにこんなことをしている?」
「領主の横暴が許せないんだ! 俺たちはみんなフィーリッヒに不満を持っている!」
「てめえには守るものがあるか? 家族はいるのか?」
「は……? 母親が、いる……」
「じゃあてめえが死んだら誰が母親を守るんだ?」
「そ、そんなの……!」
我に返ったドクヘビの手下の一人が斬りかかってきた。
ヴァーゴは一瞥すらせずに男の振り上げた両腕を斬り飛ばした。
切断面から血が噴き上がり、絶叫する男。
「守るものがあるやつは弱え。命を捨てる覚悟のねえやつは人を殺せねえ」
言葉を失っている少年から屋敷を守る男どもに視線を移す。
ヴァーゴは魔剣の柄を握る手に力を込めた。
「『一年』」
ヴァーゴの体をうっすらと黒い魔力が覆った次の瞬間、地面を思い切り蹴っていた。
すっかり怯えた男どもを容赦なく切り刻んでいく。
腕を落とし、首をはね、剣ごと砕いて頭蓋を割り。
戦意を喪失した人形たちを肉の塊に変えていく。
暴風雨が虫を蹴散らすように剣撃の嵐が肉片と血しぶきの山を築き上げた。
人の形をした敵がいなくなり、魔剣から吸収した生気がヴァーゴの体を黒い魔力として包み込む。
「人を殺すってのはこうやるんだ。てめえらのようなガキどもは守るものがなくなるまで、無駄に命を捨てるんじゃねえ」
怒りにも似た激情のこもった視線で少年たちを射貫くと、ヴァーゴは風のようにその場を後にした。
残された少年たちは全身の力が抜けたのか、その場にへたり込んだ。
歓楽都市エクサリドの南、城門を抜けた先の丘の陰にヴァーゴが現れた。
「遅くなった」
「構わん。用は済んだのか?」
「カジノと屋敷のドクヘビどもを皆殺しにしてきた」
「なんと! 君も正義に目覚めたか!?」
「馬鹿いうんじゃねえや。てめえへの借りを返しただけだ」
グッドマンから受け取った手ぬぐいで返り血をぬぐったヴァーゴは剣呑な笑みを浮かべた。
「俺は借りを作るのが嫌いなんだ。監獄からの脱出、ドクヘビ幹部の情報。もらいっぱなしってのは座りがわりぃ。てめえが大好きな勧善懲悪を執行してやったまでだ」
「そうか! 理由はどうあれ私は嬉しいぞ!」
言葉通りに受け取って喜ぶグッドマンの背後からゴランの疑いの眼が光っていた。
「さあみんな、急いで撤退だ!」
「はいにゃ~!」
グッドマンとミーアが歩き出し、残ったゴランがヴァーゴにだけ聞こえるようにつぶやいた。
「事情は知らんが、嘘がヘタクソなやつだ」
「まじめ馬鹿を騙せりゃそれでいい」
「どうせ次の領主とドクヘビが空席に送られてくるだけだぞ。問題を先送りしただけだ」
「んなこと知ったこっちゃねえ。俺の目的は果たしたんだからよ」
険しい表情はそのままに、火の手があがって明るい歓楽都市のほうへ目を向けた。
すぐに視線を前にもどし、ヴァーゴもグッドマンたちの後に続いた。
ゴランはフン、と鼻を鳴らしただけで深く追及はしなかった。




