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カジノ荒らし 4

「ありえない!」

「おいおい、ギャンブルなんて運なんだから負けることもあるだろうが」

「くっ……」

(相棒、こいつ……)

(ああ、覚えてやがるな)


 カードを回収してシャッフルしながらヴァーゴはレトルの目を見つめた。

 レトルはヴァーゴの手とカードを見ている、というわけではなかった。

 外見ではわからないようにしつつ、シャッフルされるカードを異常なまでに凝視している。

 タネや仕掛けがあるわけではなかった。

 数十枚にもおよぶカードの種類、並びをシャッフルされた上で完全に覚えるというイカサマをしていたのだ。


「次はいくら賭けるんだ?」

「……金貨百枚です」

「負けた途端に慎重になったな」


 カードを配りながらヴァーゴが軽くあざ笑った。

 それでもレトルは冷静に配られたカードを確認する。

 レトルは引かず、ヴァーゴが引く。


「残念、俺がオーバーで負けだ」

「…………」


 ゲームに勝利したというのにレトルの顔に喜びの色はなかった。

 先ほどの負けが腑に落ちていないのが原因だろう。


「次はいくら賭ける?」

「……金貨百枚」


 配られたカードを確認したレトルは口の端を少しだけ持ち上げた。


「金貨千枚を賭け金に上乗せします」

「ほぉ、また勝負に出るのか」

「ええ、わたくしが勝ちますからね」


 レトルはテーブルに置いた手の人差し指をあげた。

 ヴァーゴが配ったカードをちらりと確認したレトルの表情が固まった。


「俺は引かない。あんたは追加すんのか?」

「……しません」

「じゃあオープンだな」


 両者の手札を公開した結果、ヴァーゴは順当な数字、レトルは目標をオーバーしていた。


「おいおい、また俺が勝っちまったな」

「ありえない……」

「これで負け分は取り戻せたか。そろそろ辞めておくか、グッドマン?」

「勝ち逃げは許しませんよ!」


 それまでギリギリ冷静を装っていたレトルが声を荒げて立ち上がった。


「なんだよ、てめえが勝負の仕掛けどころを間違えただけの話じゃねえか」

「ありえないんですよ、そんなこと!」


 激昂したレトルは両手でテーブルを荒々しく叩いた。

 ヴァーゴは手近のカードを一枚つまんで指先でもてあそんだ。


「ギャンブルに絶対はねえよ。それとも何か、俺がイカサマをしたっつー証拠でもあんのか?」

「証拠? 証拠……そうですね。おかしいんですよ、あなた。シャッフルも配りも自然でした。このわたくしがイカサマを見逃すはずがない。なのに、イカサマをした形跡がまったくない」

「それってよぉ……つまり俺はイカサマしてねえってことじゃねえのか?」

「そんなはずはない! そんなはずはないんだ……ありえない……」


 テーブルに手をついてうなだれたレトルは正気を失いかけていた。

 自分の技術に絶対の自信があったからこそ、イカサマを疑えない状況で負けたことを受け入れられないでいる。

 策士策に溺れる、とはこのことだ。

 ヴァーゴはグッドマンの顔を見た。

 グッドマンの表情は落ち着いていた。


「なあ副支配人さんよ、ちょっと相談なんだが……」


 ゆっくりと上げたレトルの顔からは生気が抜けていた。


「もし、そこの連れの成金バカより給金を出してくれるならだが、俺をこのカジノのディーラーとして雇っちゃあくれねえか?」


 完全に呆けていたレトルは、ヴァーゴの提案をすぐに理解することができなかった。

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