カジノ潜入作戦 2
小一時間ほどが経ち、グッドマンは難しい顔をしていた。
「うーむ……」
「いかがなさいますか?」
「ここはもう一枚引くぞ!」
「かしこまりました」
ディーラーが配ったカードをおそるおそるめくるグッドマン。
目に入ったカードの数字にグッドマンは天を仰いだ。
「今のは引くべきではなかったか……」
「そんなこともありますよ。お客様ならまだまだ巻き返せます」
カードのテーブルに着いてから最初は勝ち越していたグッドマンだが、今は負けがこんで持ち金がマイナスになっていた。
その時、ずっと背後で様子を見ていたヴァーゴがグッドマンの隣に座った。
「おっ、君もやってみる気になったか、ヴァーゴ」
「気が向いただけだ」
「もちろん大歓迎ですよ。見るのも楽しいですが、ご自身で遊ばれるのが何よりも楽しいものです」
ディーラーは変わらず笑顔でカードを配っていった。
グッドマンは慣れない手つきで金貨を置き、ヴァーゴはそっと一枚だけ金貨を賭けた。
「お客様はカードは初めてで?」
「ああ。連れが遊んでいるのを見ていてだいたいわかった」
「さようでございますか。飲み込みが早いのですね。お客様にも幸運の女神が微笑みますように」
うさんくさい文句を無視し、ヴァーゴはディーラーの手つきだけを見ていた。
何度かゲームを重ね、負け、勝ち、勝ち、負け、勝ちと続いた。
次のカードが配られた時、ヴァーゴは金貨を二十枚賭けた。
「お、おい、賭けすぎではないか?」
「気にすんな。ちまちま賭けるのが面倒になっただけだ」
「大きな賭けに出ましたね。もちろん、そういった判断も時には大事ですよ」
グッドマンに配られたカードは目標の数字には程遠かった。
追加のカードを引いたが、それでも目標にはまだまだ遠い。
続いてヴァーゴが一枚カードを引いた。
ディーラーが一枚引く。
二周目、グッドマンがさらに一枚引こうとした瞬間、
「金貨を八十枚上乗せで賭ける」
「……!」
「お、おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ。ただしグッドマン、カードは引くな」
「なんだと?」
「言うことを聞け」
「わ、わかった……」
ヴァーゴに言われた通り、目標には程遠い手札のままカードを引かずに手番を流すグッドマン。
続くヴァーゴもカードは引かない。
最後にディーラー。
ディーラーは一定の数字に達していない場合は強制的に新しいカードを引かなければならない。
「どうした? 引けよ、ディーラー」
「…………」
ヴァーゴの脅迫じみた言葉に返事をすることもできない。
凍り付いた笑顔のまま、ディーラーの男は震える手でカードを引いた。
「結果は?」
「……ディーラーはオーバー、お客様の勝利です」
「なんと!」
のん気にはしゃぐグッドマンとは裏腹に、カードを回収し、払い戻しの金貨二百枚を渡すディーラーの顔は憔悴しきっていた。
ディーラーの仕事はたくさんの客から薄く少しずつ金を巻き上げること。
このディーラーは致命的な敗北を喫した。
「帰るぞ」
「あ、ああ、わかった」
「ま、またのお越しを、お待ちしております……」
ヴァーゴは稼いだ金貨の革袋をこれ見よがしに担いで去っていった。




