獣人の女
「待たせてすまなかった」
グッドマンが簡単に謝罪し、宿の部屋にいる面々の顔を見渡した。
仏頂面のヴァーゴ、どっしりと構えたゴラン、そして頭部から猫の耳を生やした細身の獣人の女。
「まずは作戦立案に協力してくれた彼女について紹介させてくれ」
「旅芸人のミーアだにゃ! よろしくにゃ!」
ミーアと名乗った獣人の女は軽くしなを作って挨拶した。
ヴァーゴが口を開こうとした瞬間、
「待てヴァーゴ。前にも言ったが彼女は隠密と諜報活動の達人だ」
「……足手まといでなければそれでいい」
それだけ答えて大人しくなったヴァーゴにグッドマンは内心で驚いた。
いつもなら揚げ足を取りながら噛みついてくるであろうに、いったいどんな心境の変化があったのか。
グッドマンは話を進めた。
「ミーアの情報収集から判明した事実を伝える。この歓楽都市エクサリドは酒とギャンブルと売春で成り立っている街だ。この街の実質の支配権はドクヘビが握っている。領主のフィーリッヒは形だけ統治しているが実際はドクヘビの傀儡と言っていい」
「ここからが重要にゃ!」
「この街の問題はギャンブルにある。外から遊びに来た金持ちの中から消えても問題のない者だけを選んで金を吸い上げ、沼に沈めている。以前から不審な失踪が起こっているそうだが、その失踪者に共通しているのが後ろ盾の有無だ」
「王都の体制に関与している貴族はギャンブルで損して帰っていくだけにゃ!」
「要するにドクヘビはこの街を管理して資金調達をしている。そして厄介なのがドクヘビの密売する安酒に質の悪い麻薬が混入されていることだ」
「麻薬入りの酒のせいで街の住人にも被害が出ているにゃ!」
「住人たちも馬鹿ではない。クーデターを起こそうとしている組織と接触を持った。組織の名は暁の団。彼らは周囲の街から傭兵を雇い、領主のフィーリッヒを襲うつもりだった。だが傀儡を殺しても意味はない。私は彼らに情報交換を申し込み、裏の支配者であるドクヘビを標的にするよう交渉した」
歓楽都市エクサリドの現状とクーデター組織の話。
長い話をゴランが簡潔にまとめた。
「つまり、クーデター軍と組んでドクヘビを討つ、ということだな」
「すこし違う。クーデター軍は囮にする」
グッドマンの言葉にためらいはなかった。
「クーデター軍には領主フィーリッヒの屋敷を襲ってもらう。当然、ドクヘビも駐在しているだろう。そちらに気を引かれている隙に私たちは大元のカジノを襲う」
「カジノがドクヘビのねぐら、ということか?」とゴラン。
「カジノの地下にやつらの巨額の資金があるはずだ。当然、そこには戦力の過半数が集まっているだろう」
「幹部を潰さなければ意味がない」とヴァーゴ。
「問題ない。奴らは領主の生き死により資金を優先する。カジノの地下にいればそれでよし。いなくても必ず守りにやってくるはずだ」
「だろう、はずだ、不確実ばかりで作戦なんて呼べねえぜ」
「その通り、ここからが本当の作戦だ」
グッドマンはドクヘビの幹部を殺すための確実な計画について話し始めた。




