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万年雪の監獄

 大陸の北方、雪に閉ざされた監獄。

 その監獄の中でも重罪を負った者が投獄される区画があった。

 奇遇なことに、そこには復讐を誓う二人の男が隣り合わせの部屋に収監されていた。


「てめえの話はいちいち説教くさくて気に食わねえ。教会の神父かよ」

「そう言うな。私の言葉はいつか必ず役に立つぞ」

「その時は深い感謝を込めて顔面に拳を入れてやるぜ、グッドマン」

「ヴァーゴ、何度言えばわかるのだ。私の名前はウィリアム・ゴートマンだ」

「へいへい、元王国騎士団のお偉いグッドマン様よ」


 軽口をたたく口の悪い男、ヴァーゴ。

 山賊に両親を殺され、人身売買に掛けられたが素行の悪さから売り戻しが多発し、ついには投獄された男。

 乱れた黒髪に投獄中でも鍛錬を欠かさず維持してきた筋肉で締まった体。

 丁寧な言葉遣いの男、ウィリアム・ゴートマン。

 真面目すぎるがゆえに濡れ衣を着せられ、汚名を背負って投獄された男。

 育ちの良さをうかがわせる、温厚そうな顔立ちに金髪の映える中年。

 粗末な食事の提供以外では看守もやってこない監獄で、二人に与えられたまともな話し相手は顔も分からない、反りの合わない男だった。


「ヴァーゴ、君の言う『その日』とは今日あたりだということだったな」

「たぶんな。ぼちぼち何か起こるだろうぜ」

「君の言葉を信じよう」

「そんなクソ真面目だから汚名を着せられるんだろうが。学習しねえのかよ」

「これは私のサガであり宿命だ。君も自分の性格を変えることはできまい」

「へっ。端から変えるつもりなんてねえよ。俺は俺だ」

「その通り、私も私だ」


 夜も更け始めたその時、遠くから大きな爆発音が聞こえた。

 次第に人の叫び声、怒鳴り声が響いてきた。


「来やがったぜ」

「やっとか……。ずっとこの時を待っていた。しかし君の予知能力はすごいな」

「予知じゃねえ、あくまで予兆だ。なんでも分かるわけじゃねえ」

「すごいものはすごい。謙遜するな」

「チッ……、調子が狂うぜ」


 二人の会話に割り込むように足音が近付いてきた。

 足音はグッドマンの部屋の前で止まった。


「出ろ、ウィリアム・ゴートマン!」


 何年ものあいだ、食事係として働いていた看守はグッドマンの気さくな話術により、彼の数少ない顔見知りになっていた。

 ろくな楽しみもない監獄でまともに話ができるグッドマンのことを、いつしか彼は昔からの友のように心を許していた。

 ガチャン、と頑丈な錠前が開錠される音が響いた。


「ゴートマン! お前だけは逃がしてやる!」

「いったい何があった? 爆発音のようなものが聞こえたが……」

「火事だ! 火薬庫で爆発があったらしい! 急げ!」

「承知した!」


 グッドマンを部屋から連れ出そうと背を向けた看守の隙をつき、グッドマンは彼の腰の剣を抜き取り、背中から貫いた。


「が、はぁ……なにを、ゴートマン……」

「許せ」


 倒れて動かなくなった看守に軽く目をつぶり、グッドマンは隣の部屋へ向かった。

 看守から奪った鍵で錠前を開けた。


「行くぞ、ヴァーゴ」

「初めましてだな。お優しいねえ、グッドマン」

「優しさなど、とうに捨てた。ここから脱出するために君の力も利用する」

「お、たらしこんだ看守をヤッたのか! やるじゃねえか!」

「この監獄の看守はすねに傷のある者だけだ。悪党はすべからく殺す」

「いいねぇ、その目つき」


 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、触れれば切れるような鋭い目つきのグッドマンにヴァーゴは舌なめずりをした。

 彼の言葉を無視し、グッドマンは早足で歩き出した。

 後ろを付いていきながら、


「あてはあるのか?」

「上階の獄長の部屋に行く。そこに私の持ち物があるはずだ」

「恋人との思い出の品でも取り戻すのかい?」

「恋人なら私が捕まる時に殺された」


 ヴァーゴはヒューと口笛を吹き、グッドマンは淡々と歩いていった。

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