Ⅰ
誰もが曖昧で形のない世界で生きている。
僕も、彼も。
僕が出逢った光と影のように寄り添う二人がいた。
自分達の世界を創造し司る彼はアーク。その彼の世界を補うもう一人の彼はノア。恋人同士の二人は僕の中で理想のように映った。
僕は相手の言うことは、水面に雫が落ちてくるように静かにその波紋を見守るだけだ。そのままに受け取るようにしているだけ。それはその人がそれを望んでいるからそう話しているのだろうと思うからだ。僕はただ受け入れるだけだ。
僕の前では、もしくはみんなの前ではそうありたいのだろうと思う。小さな違和感も、小さな嘘も、最初はただの遊びであり、自衛のための嘘なんてSNSには溢れている。そんな部分を暴いて楽しむ趣味なんて毛頭ない。
その違和感や小さな嘘の奥にある、本質と向き合っていた。
でも嘘を重ねた人は違う。自分の重ねた嘘に潰されそうになる。
勘の良い僕が言ったちょっとした言葉で心臓が縮む。僕から出る次の言葉が嘘を暴いてしまうのではないかとヒヤヒヤとする。
きっと彼─アークも最初は遊びでしか無かった小さな嘘達。そのうちに沢山の人がその嘘に魅了されていく。つい調子に乗って嘘は増える。でも、悪意がないものばかりだ。ある意味エンターテイナー、エンターテイメント。そして彼には罪悪感はほぼない。楽しい時間。話の中心になり、すぐ反応は返ってくる。主役だ。「俺達の物語」。優しく信じてくれる人はちょっとした出演者、時に視聴者。
そこに現れたこの物語をいたく気に入る人たち。出演者としてきっと僕もそこに入ったことになる。
僕はただ、面白おかしく話し、そして彼をリスペクトする言葉を並べる。彼の気分は良かった。そのうちに真面目な話をすると以外にもしっかりと返す僕に一目置いた。僕を信頼出来る人だと感じ始める。
その後も誠心誠意誠実に彼らに寄り添う僕は、一時ただの出演者ではなかったかもしれない。そこの繋がりは僕は本物があったと思っている。
──そう思いたいのは僕だ。ただの遊びの上に本当の心で向き合った自分が苦しく悲しくなるから…。
そのうちに彼はくだらない嘘を沢山吐いたことを後悔した時もあったかもしれない。
もう一人の彼は罪悪感で少しは苦しかったかもしれない。
きっと彼は計算違いをしたと途中で気付いた。 この人は危険だ。俺の嘘がいつかバレてしまう。 僕はきっと彼が思うよりもずっと洞察力があり、勘が鋭かった。それを天然でやってくるタイプだったのだろう。そして時に突かれたくない自分の本質を見抜かれているのを知る。彼の知られたくない本質。
でも僕は嘘を暴こうとも彼の本質を揶揄するなんて考えてもなかった。でも何もかも暴かれてしまいそうな感覚に少しづつ距離を取ろうと思ったのかもしれない。
この出演者(僕)はモブではなくて、彼にとってはこの場所を脅かす黒幕にもなり得る出演者だった。招くべきでは無かった人物に僕はされてしまっていたのだろう。
そしてこれは僕だけじゃなく、近しい人が増えただけ、彼を脅かす存在は増えていったはずだ。




