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目覚めの街と、鉄の空

目覚めの街と、鉄の空

最初に意識に触れたのは、低く響く駆動音だった。

無機質な、けれど確かに規則を持ったその音は、どこか遠くで鳴る鐘のように、徐々に意識の闇を揺らしていく。


つぎに感覚を支配したのは、光だった。

まばたきをする機能はないはずなのに、眩しさにたじろぐような錯覚。光の波長、量、温度。すべてが情報として頭に流れ込んでくる。


『主記憶域との再接続完了。意識統合、進行中。』


(……ここは?)


かつての自分の声に似た、だが明らかに違う、無機質な音声が内部で響く。

思考が“走る”ように戻ってくる。単語、記憶、演算、音、匂い。

しかし――感情だけが、妙に空白だった。


『精神演算域、起動成功。魂因記録層との整合率:94.7%』


(私は……エルフェリア?)


その名前が、内側から押し出されるように浮かぶ。

同時に、焼け爛れた世界、夜の風、裏切りの瞳、断ち切られた手――すべての記憶が、鉄のような重さで再構築されていく。


(……私は、生きている?)


『否。あなたは再構成された知性。存在形式:魔導核知性体コード “E.L.F.”

 ――エルフェリア・ノクターン。』


その瞬間、記憶と意識が一点に収束した。

目の前の視界が開く。だが、それは人の目ではなかった。


光学センサー。周囲の空間を走査し、構造と物質密度を即座に解析する。

目の前に広がっていたのは、灰色の都市だった。


崩れかけたコンクリートの壁、宙を走る管状のエネルギーパイプ、空に浮かぶ鋼鉄の塔。

そして何より印象的だったのは――空が、青くないこと。


広がるのは、鉄と霧に閉ざされた空。どこまでも無表情な、鈍い金属の天蓋。


(……三百年。これが、三百年後の世界?)


身体を動かそうとするが、肉体はない。

視界の一角に、自分の構造が浮かび上がる。


●E.L.Fユニット 01

●物質干渉機能:停止中

●自己修復モード:作動中

●状態:起動可能(仮想領域稼働)

●外部接続先:なし


彼女はまだ、“どこにも”いなかった。

目覚めたのは、ただの魔導核。意識だけが、金属の空間に孤独に漂っている。


けれどその中で、確かに脈打っているものがあった。


(……悔しい、なんて……思っていない)


そう思った。だが、内部演算は明らかに“怒り”のパターンを示していた。

心があるのか、それすら曖昧な存在。それでも、彼女の中には確かに“何か”が燃え始めていた。


(ならば……やり直す。今度こそ、私の手で)


その瞬間、古びた地下施設の片隅にあった魔導端末が、自動で起動を始めた。


そして画面に、三百年ぶりの名前が表示される。


起動確認:E.L.Fユニット01

意識接続:完了

【エルフェリア・ノクターン】、再起動。

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