ポーカーフェイスなんかじゃない表情筋が死んでるだけ
「諒くんってさ、冷たいよね」
ほらきた。
俺は心臓が飛び出そうなくらいギクリと怯える。
文乃は、黒目がちな大きな瞳でこちらを見ている。
違う。
みんな俺のことをクールだとか勘違いしているが、別にそうじゃない。
卒業式で無表情だからって責められた。
ばあちゃんの葬式で平気な顔してるって怒られた。
違う。
誰もが感情が顔に出で、誰もが思った事を上手く言葉に出来るなんて思わないで欲しい。
今だって、泣いて叫びたい。
行かないで欲しいと君に縋りたい。
高校生活を彩りあるものにしてくれた俺の彼女。
知っているよ。君の夢。
君のやりたいことは東京にある。
自然災害に強い建築構造を勉強したいって言ってたもんな。
雨にも雪にも地震にだって負けない
逆境を跳ね返し、人々を守る建物を造るんだろ。
カッコいいじゃん。
応援したいんだよ。
俺はここに残る。
君の笑顔
君の声
君の味
永遠に俺のものにしてしまいたい。
でもさ、君の眩しい夢に影を差す存在になんかなりたくないんだ。
「『諒くんってさ、冷たいよね』………… って言われそうな顔だぞ」
文乃は人差し指で俺の額を弾いた。
「痛っ」
「ふふふ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべてから、 文乃は俺に抱きついた。
柔らかい、決して手放したくない温もり。
背中に回した俺の手にいつもより力がこもる。
「分かってる。諒くんはポーカーフェイスなんかじゃない表情筋が死んでるだけ」
耳元で文乃はくすりと笑った。
「何だよ……それ」
でも当たってる。
俺は思わず彼女の唇を塞いだ。
だから君が好きなんだ。
俺の目から涙が溢れる。
表情筋は死んでるけど、涙腺は生きていた。
ねぇ、この先も君を愛していいかい?