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第8話 傑物

「いやいや、ついうっかりと。ね? 特待生なんて史上二度目だ。勘弁してくれ給え」


 長い黒髪を弄りながらはぐらかすこの学園の長。琴音も紫苑も言葉を発さない。琴音は無言で、理事長を睨みつけている。それをみた理事長は嬉しそうに笑った。


「琴音君。どうやら幾らかの汚名返上は出来たみたいだ。……だがそれでも足りない。大事なものが欠落している。君は異形やスナッチャーに対しての闘争心はある。カード捌きも本職並だ。だが、その不足分は致命的となる。私はもう『彼女』みたいな怪物は創り出したくない」


「第一に弱さを知れ」

「次に強さを求めろ」

「そして最後にその二つを得た理由を考えろ。そうしなければごみクズのように死ぬか、『天災』の再誕だ」


 琴音は小さく頷くと、その闘争心を胸の奥に大事にしまい込んだ。


「待ちぼうけを食らわせてしまったね、紫苑君。ばれていると思うから言ってしまうが、これが最終試験だった。人間が一番命を落としやすいタイミングとはいつだと思う?」


 紫苑は理事長に出されたコーヒーを飲みながら、答える。


「勝利を確信した時ですかね……」

「流石、趣旨をわかっている。そう。合格した安心感から不慮の事態に対応できないようならば、トレイターの資格はない」

「一つ質問が……」


「言ってみ給え」


 理事長は高級そうな革張りチェアにもたれかかり、頑丈な椅子は不満を上げるかのように軋む。


「編入生のレベルが低すぎじゃないですか? コストが何かさえわからない。デッキタイプさえ把握していない。とても編入させるには力不足が否めないかと」

「そう見えたか?」

「はい」


 理事長は赤ぶち眼鏡を左手の中指で押し戻す。


「慧眼だ。まず君の知識量を基準に考えると可哀想だ。そこは多少大目に見てくれ。彼らは特待生ではない。編入学生だ」


「一般的には編入生は優秀だが……。この学園の編入生が他の学生からなんと呼ばれているか知っているか?」


 紫苑は首を横に振る。


「『成金トレイター』だ。優秀なカードを親や知り合いから譲ってもらってデッキだけは高性能な人間たち。それを矯正するのも学園の務めというわけだ」

「まあ、カードの差し押さえなどの強制執行は出来ないしね。学園の総合資産が増えるのは喜ばしい」

(それに、ダンジョンで死亡した成金のカードが優秀な学生の手に入っていくのは、不謹慎だが重畳だ)


 紫苑は納得したように頷くが、琴音は未だ不満げだった。


「理事長、本題に戻りましょうよ。この後予定が入っているんです」

「ああ、雪菜君との模擬戦だろう?」

「ほんと何処から情報を……。それよりも!」


「わかっているとも」


 理事長は立ち上がり、コツコツとヒールの音を響かせ紫苑と琴音の座っているソファの手前までくる。


「君達ならばデッキと学生手帳無しでも辿り着けると思ったよ。なに、簡単な試練さ」


「ああ、あと胸章についても説明しなくてはいけないな」


「学生の皆さんの胸になんかついてましたね」

「あれはトレイターの証。常に着用が義務づけられている。カメラが内蔵されていて、ドライブレコーダーのように問題があった場合の証拠としても有用だ。これをつけていないで、戦闘するのはご法度だからね」


 理事長は二等兵の胸章を紫苑に手渡してくる。それは安全ピンのようなもので簡単に服に止められる構造になっていた。


「情報や特権に関して聞かないのも悪いんだぞ? 使えるものは小石でも使う。それがこの学園の理念だ」


「ではお聞きしましょう。特権とはなんですか?」


「特別報酬、予算5000万までで君がカードショップで欲しいと思ったカードを組み合わせてプレゼントしよう。学園が貸与しているデッキも卒業したら与えられるが、君に関しては早急にオリジナルデッキを渡す」


「そりゃ凄い。特待生はこんなにも厚遇されているんですね」


「まあ前例は一つしかないがな。それと『スキップ権限』。こっちもいいものだ」

「?」


 初めて聞く単語に首を傾げる紫苑だったが、それはすぐに理事長の口から説明された。


「本来、イベントや学園に対しての要請は一次審査を委員会に出し、そこの過半数の賛成があって初めて検討される。そのあと各委員会の長がゴーサインを出したものを理事長(わたし)が印を押し、その結果通る」


「君は直通で私のところに企画を持って来れる。強力な特権さ。勿論私の方で判断はするがね」


「つまり、過程を省略できる特権。一見地味なものだが、委員会を通さないで直談判できる権利は全ての委員会の長になったも同義。この学園で過ごすうえで強力な武器になってくれるだろう」


(なるほど、確かに聞こえはいいが、委員会程度の権限を得たものでそんなにも変わるものなのか?)


「さあ、雪菜君が待っているのだろう。構築済みデッキだ。好きなのを選べ。これとは別に今度、先ほどの特別報酬は渡すからね」


 紫苑は最初からどのデッキにするかは決めていた。殆ど迷いなく、デッキを受け取り、礼を言った後、琴音と一緒に総合会館を後にする。外は夕陽が空を赤く染めていた。


(ほう……そのデッキを選ぶか。やはり彼は傑物だな)


■■■


 この学園には中心地から離れた場所に、大量の体育館が集合している。模擬戦闘で使う学生も多いし、純粋に体を鍛える目的で利用する者も少なくない。そこまでタクシーで向かうが、その車内で、紫苑はデッキを吟味していた。


「……と。こんな感じが模擬戦の大体のルールです」

「説明ありがとう」


 紫苑はカードと睨めっこをしていた。それを見ていた琴音が興味深そうに聞いてくる。


「どんなデッキにするつもりですか?」

「実は、結構前から使ってみたいカードがあったんだよね」


「よし、デッキアクティベート。こんなもんかな」

「見せてくださいよ」

「だめ、秘密」

「えー……」


 琴音はふくれっ面になるもどこか楽しそうだった。


「まあ見ていたらわかるさ」


 雪菜と待ち合わせ場所にしていた体育館が見えてくる。その手前でタクシーを降り中に入っていく。円状の決闘場、直径40mはあるだろうか。そこで座り込んでいるアルビノ少女が一人。彼女はこちらに気付くと、声をかけてきた。


「遅い! 待ちくたびれた!」

「ごめんごめん。理事長がのらりくらりと煙に巻くものだから」

「あー。なら仕方ないね」


 雪菜も理事長の性格は知っているのだろう。深く追求はされなかった。


「ボクに勝てたら情報屋として君達に無償で協力してあげる」


「全力で来てね。模擬戦で相手を故意に殺害するのは捕まるが毎年事故死は出る。その場合は“仕方が無かった”で済まされる」


「ボクを殺す気で来ないと死ぬからね」


 殺気を感じる。昼食時の面影はそこには無かった。ただ一人の戦士として覚悟を決めた顔をしていた。


「ああ、ほとんど初期デッキだが大丈夫かな」

「……ボクのこと舐めてる?」


 雪菜の額に青筋が浮かぶ。紫苑としても挑発したつもりはなかったのだが、事実そうなのだから、他に言いようがない。


「いや、2回生なだけで相当な手腕である事は事実。胸を借りさせてもらうね」

「貸すほど胸は大きくないけどね」

「僕は小さくてもいいと思うけどね」


 そこでようやく琴音が話題を元に戻す。


「はいはいはーい。脱線してます。模擬戦に関して紫苑さんにはさっき説明しましたが、改めて私から説明します」


「勝敗の決め方は降参、もしくは意識不明等の戦闘不能。あとは()定員(たし)のドクターストップ」


「時間は15分がスタンダードですのでそれで行きましょう」


「禁止事項は故意による相手の殺害。フィールドからの離脱。これらは即座に敗北となります」


「では両者、準備はいいですね?」


 二人とも無言で頷いた。


「では模擬戦開始!」


 先に動いたのは雪菜。一気に四体もの異形を召喚する。それは体の中央に、青白く発光する蓄電池のようなパーツがついている、機械だった。



■『バッテリーメカ』 異形 コスト5 ノーマル

●この異形が存在する間、バッテリーを一つ蓄えた状態になる

●攻撃力5 体力60


(機械デッキ……! 拙いなバッテリーを潰さないと)


 紫苑も遅れて異形を前方に二体召喚する。



■『自壊人形 デスドール』 異形 コスト5 ノーマル

●この異形は召喚されてから三分後に破壊される

●このカードが異形によって破壊された場合、それがドミネーターでなければそれを破壊する

●攻撃力0 体力10



「デスドールね、たしかに異形メインのデッキだったら強力な壁になるね。……でも」


 更に雪菜はカードを展開。青と銀の外骨格が美しい、機械化スーツが彼女の全身を包み込む。



■『メカニックスーツ』 武具 コスト10 レア

●バッテリーがある限り、その数だけ身体能力が倍増される



 バッテリーメカの効果で、バッテリーが4個ある為、身体能力が4倍に膨れ上がる。ジェットパックから火を噴き、一瞬でデスドールに接近。一発のパンチでデスドールが破壊される。淡い光と共に不活性化する。


 さらに流れるように、もう一体のデスドールに接近し、今度は上段蹴りで破壊する。


「異形と相討ちにもって行きたかったんだろうけど。武具の存在を忘れていないかな?」


 一瞬で紫苑との距離を縮める雪菜。誰の目に見ても明らかだろう。完全に場の主導権は雪菜が握っている。バッテリーメカを護る為、前衛で自分が戦う。非常に合理的な戦法だ。


 そのまま雪菜は機械の拳を紫苑の腹に打ち込む。


 躱せないはずだ。だが、確かな手ごたえは無かった。


(なんだ? 今どうやってボクの攻撃が防がれた?)


 紫苑はカードを掌に乗せ、雪菜の拳に合せていた。使用するのではなく、カードそのもので拳を防いだのだ。


「なに、した?」


「カードは強靭。破れもしないし、燃えることもない。だから使用しなくても防御には使えると踏んでいた」


「搦手だけでは勝てないよ」


「猛進だけでは突破もできない」


(だが、衝撃は殺せないか……。骨が折れたな)


『爆炎術式』


 防御に使ったそのカードを発動させる。カードそのものを防御に使うという、常識の埒外の戦法に唖然とした雪菜は即座に建て直し、それを食らえば如何に四倍の身体能力でも耐えきれないと踏んで、大きく跳躍。爆炎を免れたが『バッテリーメカ』がAOEに巻き込まれ破壊される。


「初期デッキだけ、じゃないの。スーパーレアのカードを使うなんて」


「殆どといった。そもそも敵を信用するのはお人好しが過ぎる」


 クールタイムのあけたデスドールを紫苑は再度二体召喚する。


「時間稼ぎ? ワンパターンだね紫苑くん」


 雪菜がカードを抜く。それは巨大な体育館にぎりぎり収まるほどの巨躯をしていた。



■『合体ロボ トールマン』 異形 コスト25 スーパーレア

●不活性化している「バッテリー」を持つ異形全てを合体させて召喚できる

●多ければ多い程以下の武装を持つ

▽ガトリング砲:連射可能な大口径弾丸を発射する武装

▽ミサイルランチャー:六発の誘導ミサイルが同時に三体までの敵に向かって飛んでいく。着弾と同時に爆発する

▽ビーム兵器:目から高温のレーザーを発射する。直線攻撃だが、スピードが速い

▽エナジーシールド:5秒間無敵になれるバリアを張ることが出来る。20秒のクールタイムが存在する

●攻撃力250+α 体力300



「……でかいな」

「合体ロボってロマンだよねえ。しかも今は四種の兵装を持っている」


(しかし幾ら強力でもデスドールを肉壁にしたら道ずれに出来る……)


 そう紫苑が考えるも一瞬。雪菜がカードを抜く。



■『炸裂電流』 呪文 コスト5 レア

●前方に雷撃攻撃を放つ

●自分の不活性化した「バッテリー」を持つ異形のコストを半分にする



 雪菜が発動した炸裂電流によってデスドールは二体とも破壊された。しかもコスト半減効果持ちなので、すぐにまた『バッテリーメカ』を召喚されて、先ほどの戦術を取られる。


(機械コントロールデッキ。バッテリーを使ったリソース管理は難しいし、そのバッテリーを狙われると途端に厳しくなる。しかしその点『トールマン』や『メカニックスーツ』による高火力かつ正確な攻撃が可能。防御能力も高い)


(まだ、切り札は残っている、が『トールマン』相手に凌ぎきれるか?)


 紫苑は雪菜の強力なデッキに対して尊敬の念さえ覚えていた。異形、呪文、武具全てを使い、強力なシナジーで立派なデッキとして完成されている。彼女はもともと機械系統のデッキを使う資質があったのだろう。


「流石、二回生は傑物だ」


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