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第53話 第0次異形戦争

 ■■■ 


 ある時、ある者は思った。


 ウィルスって悪辣だよなって。


 だってそうだろ。愛する子供が病み、隣人が病み、親が病む。懸命にもそれを助けようとする親も医者も罹患する。まるで知的生命体の仇敵だ。


 ある時ある者は思った。


 核分裂って凄まじいよなって。


 この地球という星に住んでいる人間のどんなエネルギーよりも効率が良く、桁違いの出力を持つ力。原子の電子の個数を操作して、原子法則の書き換えさえできる神域の力。


 そして、その者たちは思った。


 人間はそれらを兵器転用してきている。どんな星座群にも星系にも存在しない、特級の悪意の持ち主たち。ここまで上り詰めたか。


 自分達を蝕む病魔も疫病も。星を塗り替えるだけの夢のエネルギーも、同族を殺すことに使っている。


 素晴らしい。素晴らしい。素晴らしい。嗚呼、素晴らしい!


 それでこそ、我らの相手に相応しい。我々が見繕った支配者(ドミネーター)たちと相対するのに相応しい。


 だから、我々は地球に宣戦を。取り敢えず様子見でTiar(ティア)4から投入してみよう。グラトニーあたりで十分だろうか。



 ■■■ ???年前 地球


「ジャガーノート、全砲門開放! 光子砲掃射!!」


 空は紅く染まり、絶望の終末を人類に予感させる。それでも全長300mを超える鈍色に光る浮遊戦艦はある日地球に降り立った侵略者を撃滅せんと編隊飛行を行っている。有史()()、人類が初めて協力できた奇跡的な日。


 20を超える巨大戦艦は、白い光線を網の目のように展開し、地上に跋扈している様々な異形に対して殲滅を行った。グラトニー、オーガチーフ、連なる怪物どもにこの青い星を奪われないために、人類は初めて手を取り合った。


 音もなく着弾し、地面にも大量の穴ができる。天を衝く巨塔は折れ、核融合炉は暴走し、都市1つを丸ごと飲み込むだけの爆炎が立ち上る。それでもグラトニーは健在。


「アイツは……攻撃を、食えるのか?」


 グラトニーは全ての攻撃を飲み込み肥大化していた、ビルを喰い、光線を喰い、爆炎を喰っていた。何キロメートルにも渡る黒い触腕は、鞭のようにしなり、ジャガーノートの旗艦を叩き落とした。


「ルマニ国の増援の到着まで持ちこたえろ! 対物理障壁、2番艦から18番艦まで全力展開!」


 青白いバリアーが航空戦艦全体を包み込む。続くグラトニーの追撃はそれによって防がれる。しかし、今度の攻撃は、叩き落すためのものではない。()()()()()()()だった。


「中央管制室! 応答願います! 左翼より異形侵入!」

「こちら管制室。数と兵装の報告を」

「敵影3。巨人です。兵装は鉈!」


 先ほどの攻撃で地上よりオーガチーフが複数体、ジャガーノートの障壁を潜り抜け、戦艦の側面から侵入してきた。


「鉈? そんな原始的な武器で……? パルスライフルで応戦しろ!」

「やっています! コイツら肌が馬鹿みたいに堅……」

「どうした? 応答せよ! 繰り返す! 応答せよッ!!」


 土台無理な話であった。すでに交戦していた兵士の首から上は、体から離れてしまっていたのだから。


剣戟(けんげき)部隊(ぶたい)! 超振動ブレードで近接戦に移行! 化物どもを駆逐しろ!」


 近距離転移装置で、剣での戦闘に特化した部隊が、地球上で斬ることのできないものはない剣を携え、オーガチーフの頭上より音もなく迫る。


 一人目はハエを払うような動作で船外に吹き飛ばされ落下、しかし、その際に、一人がオーガチーフの右足を切り落とした。


 オーガチーフが膝をつく。壁に足をつけ、跳躍した剣戟部隊隊長が、回転しながらオーガチーフの首を切断する。


 そのまま隊長は床に着地。


 残りの二体のオーガチーフが鉈を隊長めがけて振り下ろす。だが隊長は陽炎のように揺らめき姿を消す。


 しかし、オーガチーフに動揺の色は見えない、思い切り戦艦の床を殴りつけ、舞い上がる金属片で透過している隊長の位置を捉えた。左右から彼に死が迫る。


 ほぼ同時だった。


 オーガチーフの鉈が両断されたのは。


 異形は一歩下がるが、隊長の切上げは深く二体のオーガチーフの胴体に刻まれる。そこからは血液が流れだし、うつぶせに倒れ込んだ。


「こちら剣戟部隊隊長α。巨人三体の討伐に成功」


 通信途中に爆音が鳴り響く。船体が大きく揺れ、ジャガーノートが大きく傾いた。


「陽動……!? この化け物が? 管制室へ、通達。動力室の状況は?」

「わからない! 通信途絶! 近距離転移のクールタイムは?」

「あと一分! 間に合わない!!」


 ジャガーノート後方から大きく火の手が上がり、墜落していく。それを皮切りに航空戦艦は次々と墜ちていく。


「旗艦、副艦ともに轟沈! これより3番艦である我々が指揮を執る!」


 3番艦の司令官が号令を上げると同時に、空から無数の光柱が迸る。衛星軌道兵器、『サテライト』ルマニ国が先の核戦争を終わらせた、事実上の平和兵器。核抑止の次の段階に進んだ地球人類が得た新たな抑止力。衛星抑止。


 地球上どの位置にいても、どんなシェルターに隠れても、索敵必殺のその兵器によって、死に至らしめることができる。その保有数によって国力が変わるといわれた最新鋭兵器がジャガーノートの物理障壁を融解し、すべての残り航空戦艦を撃ち落とした。


「ルマニィィィイ!! 貴様ら裏切ったな!!」


 3番艦司令官は墜ちていく船の中で、画面にかじりつく。そんな様子を見てルマニの参謀長は通信画面で笑っていた。


「いやいや。多分サテライトでも殺しきれない。ジャガーノートは質量兵器になってもらう。核の汚染でしばらく人は住めないが、地球を奪われるよりましだろう?」

「メルトダウンしろってことか? ふざけ……」

「我々は君たちの勇気ある特攻により、この地球を外来種から身をもって守り抜いたと永劫語り継ごう」


 地上には意図しない核の絨毯爆撃が広がっていく。


 ■■■


 あれ? 思ったよりも弱いな。まだ未成熟なのかな。この種は。闘争と悪意は紛れもなく一級品なのだが、まだ青い。


 我々という進化の到達点に悪意という一点でのみ勝利している、乙女座銀河団最強の種族。まさしくこの銀河団の支配(ドミ)種族(ネーター)だろう。


 戦力を逐次投入しよう。少しやりすぎた。この程度の異形も倒せないのなら、我々への挑戦権は未だにありはしない。


 しかし、期待はできる。悪意は、戦意は、欲望は。他のどの種族にも負けていない。


 ■■■ 第0次異形戦争より一か月 地球議会連邦本部


 あれより異形の進軍は穏やかになっていた。しかし、人類はそれどころではなかった。


「ルマニ。お前のところの軍が加勢に来るはずだったから我々は全力で戦ったんだ。それがなんだこの醜態(ザマ)は? サテライトでジャガーノートごと核飽和? ふざけるな」

「其方の敗北を他国のせいにするな。今はどの国もひっ迫した状況だ。人類は結束した。侵略者どもを追い払うのにはな」


 ルマニの指導者は悪びれもせずに飄々と答えた。


「自国民のために我々は最善を尽くしたまでだ、ジルス帝国はもう降伏して捕虜になることを検討しているらしい。そちらの方が人類種の生き残りには最適だと思うがね」

「そうか、ならば同盟はこれきりだ。これからは限られた資源で存続していくしかない。短い共闘関係だったよ。……攻撃(ファイア)


 ルマニに核ミサイルが撃ち込まれたのは10分後のことだった。それから地球上全ての国は、大量破壊兵器、を同じ人間に対して使いあった。核兵器、細菌兵器、化学兵器。現代の条約で禁じられているそれを自分たちが生き残るために。自分たち以外を殺しつくすために。


 ■■■


 おや、おやおや。なにやら身内で殺し合い始めたぞ、そんな場合じゃないだろう。君達の敵は我々とその眷属じゃないか。まったくもって理解に苦しむね。流石悪意の頂点。我々でも理解できない行動をとってくれるのはありがたいがね。情報サンプルになる。


 だが、食べ物がない、財産がない。そんな理由で同族殺し? 知性の方はまだ十全ではないのかもしれない。これだけの兵装を開発できるのに、なぜ協力し合わない? 世界に絶望してしまったのか? 滅ぼすのは簡単だ。Tiar3を投入すれば、この種族を滅ぼすのはあまりに簡単だ。同時にもったいない。


 ■■■ 第0次異形戦争より一年


 殆ど滅んでしまった。10万年の汚染と破壊のかぎりを尽くして。でもまだ生き残りはいるな。


 では、待とうか。再び人類が立ち上がるその時まで。有性生殖で増えるこの種は男女がある程度の個数いれば子孫を残せるらしい。いずれまた成長した時に、我々はもう一度、試させてもらう。


 この星に種だけは仕込んでおこう。3つのドミネーターを。


 マルカリアンの鎖星座群ドミネーター“語り部”「ストーリーテラー」


 コープランド7つ子星座群ドミネーター“観測者”「スターゲイザー」


 そして人類種。乙女座銀河団ドミネーター“調律者”「コーディネーター」


 いずれ開花するその時まで、我々は待とう。次はもっと上手くやってくれ。


 親愛なる、人間たちよ。よい進化(たび)を。


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