第50話 インターンシップ
狩猟の女神『アルテミス』
黄金の王『ミダース』
ゼウスの父『クロノス』
主神『オーディン』
この日本に存在する大型ギルドは4つ。それぞれ神話の神々からとられたその企業は異形戦争から数年で、国内最大規模の軍事会社へと成り上がった。
対人戦特化ギルド。ギルド「アルテミス」
スナッチャーを狩ることで成長したギルド。対人戦闘ならばこのギルドの右に出る集団はいない。こちらも対スナッチャーとしては政府より信頼されており、要人警護などの任をおう。
スナッチャーの事はカードが確定ドロップする異形程度の認識でしかなく、血の気が多い人間が多数いると聞く。小鳥遊宙が就職したのもこのギルドで、スナッチャー討伐のカード報酬や、警護、警備の仕事の報酬が主な利益であり、本社が神奈川県横浜市に存在する。
最大人数を誇るギルド。ギルド「ミダース」
資金力と人脈が他のギルドよりも頭一つ抜き出ているギルドである。カード資産も大量にあり、それを売買しながらメキメキと成長した。主に「不思議な迷宮」を探索しており、ドラフト戦が得意なメンバーが多い。そのためカード資産と現金資産が豊富。新人教育にも力を入れており日本最大と呼ばれる大型企業。金払いがいい反面、不思議な迷宮は“侵入すると所持カードが消滅し、ダンジョンに落ちているカードでボスを打倒するまで帰還不可能”という特性上殉職率が高い。金に釣られて最上雪菜が入社した。本社は大阪府堺市。
ギルド最大のレジェンドカード保有数を誇るギルド。ギルド「オーディン」
カード枚数で言えばミダースに軍配が上がるが、この企業の最大の財産は5枚のレジェンドカード。当然新人トレイターが触ることは出来ないが出世して行けば譲られる可能性はある。ギルド長1人のデッキに全てのレジェンドレアが入っているわけではなく、分散してある。リスク管理のため当然、ギルド長以外のレジェンドレア所持者は最高機密だし、定期的に変更される。最も警戒しているのが、スナッチャーに奪われることで、次点がダンジョン攻略に失敗し、還元されることである。それゆえ、常にそれぞれのレジェンドレアカード所持者はお互いをカバーしあえるように行動している。父の遺志を継ぐため四月一日要が就業した。東京都新宿区に社を構える。
少数精鋭のギルド。ギルド「クロノス」
佐官以上のトレイターしか入社を許可されておらず、間口が狭い。しかし国からの信頼は厚く、インフェルノ級以上のダンジョン攻略の緊急招集がかけられた実績は1番多い。全員がプロフェッショナルで新卒を募集していない。しかし、紫苑が今までに例がなく、二回生時点で大尉にまで躍進したため、このギルドのギルド長が彼に目を付けているのは紫苑も知らない事実だ。本社は愛知県名古屋市にあるが、支部を一番多く持っている四大ギルドはここである。
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「今日が東京行きで、明日が大阪だよね?」
「鍛錬のし過ぎです。逆ですよ、今日が大阪です」
紫苑がスーツを着てネクタイを琴音に直してもらっている。学内ではもうすでに公認のカップルのようだが、彼らはかたくなにそれを否定し続けている。
「僕はたこ焼きが食べたいですね。確か大阪にはたこせんっていうたこ焼きをえびせんで挟んだものがあるらしいですよ!」
「……なんでお前もついてくる気なんだよ」
翔太が旅行気分なのに突っ込むよりも先に、一回生が二回生のインターンについてくる異常性を指摘したのは金城だった。
「紫苑先輩の特待生権限ですぅ! 僕にとっては美味しいものめぐりですけど」
「よく理事長も許可だしたよな……」
「まあ、紫苑、さんがいるなら、安心、ってのは。あるのではないでしょうか?」
同じくスーツを着ながら呆れているのは鬼塚と栞だった。意外にも翔太はチームSにすぐになじむことができた。何事もなくとまではいかないが一悶着あったのちに、仲間として受け入れられていた。
■■■ 紫苑の私室(元雪菜の私室)
「で、今回新たにチームSに加入することになった五十嵐君だみんな仲良くしてくれ」
「どうも、先輩方。これからお世話になります」
丁寧にお辞儀をする翔太はブロンドのショートカットを揺らす。雪菜より多少身長が大きいほどのその華奢な体躯は中学生ほどに見える。
「ちょ……兄貴。なんでこんな子供を……」
「子供じゃありませんー。20こえてますー。タバコも吸いますー」
「嘘ですよね!?」
鬼塚に続き、琴音も素っ頓狂な声を上げる。栞もおどおどしているし、この中で一番平静を保っていたのは金城だった。
「お前は何を買われたんだ? 俺は財力。琴音は実力。鬼塚と栞は忠誠心だろうな」
いつも爪弾きものにされていた金城だからこそ出る言葉だったが、それにかぶせるように紫苑が割って入った。
「僕は金城の金や人脈を買ったんじゃなくて、成長性がありそうだと思ったんだよ。間違いを認めることは誰だって怖い。しかもプライドが高いならば尚更だ。それをかなぐり捨てて僕に助けを求めた……」
金城は顔を真っ赤にしながら大声でその言葉の続きを遮った。
「だぁぁぁぁああ! 違う! こんな短期間で、そのガキがこのグループには入れた理由は何なんだよ!」
その言葉を聞き、しばし瞑目したのち、紫苑は伏目がちに答えた。
「覚悟だよ」
悪寒が走った。金城にとって紫苑は白馬に乗って助けに来てくれた王子様同然だ。口が裂けても言わないが初めて恋をした人物で、自分のことを一個人としてみてくれている彼のことは憎からず思っている。その彼が。
一瞬、化け物の表情をした。
「僕は彼に五分の一の確率のロシアンルーレットを好きな回数、頭に向けて撃ってみろ。と指示したんだ。勿論『純銀の盾』は入れたんだが、僕が入れた。初対面の人間を信頼していないと入っているかどうかなんてわからないだろう。でも彼は引き金を引いた。何発引いたと思う?」
「い、一発だって。引きたくないですよ! 私は、紫苑さんのことを知っているから、いいですけど、見ず知らずの人に頼まれたら絶対、断ります!」
「俺は二発なら……、いや一発だけなら……」
栞と鬼塚の言葉に対して紫苑はゆっくりと口を開いた
「五発引いたよ、彼は」
場の空気が停滞した。つまりチームに入るために確定の死を選んだのだ。琴音の唇は震えている。よくよく見てみると金城さえ汗をかいている。
「狂気、が足りなかったと思うんだ。このチームには。常識にとらわれている人間だけでは決して到達できない高みを目指しているんだ。我々は」
爛々と紫苑の瞳にも狂気が宿り、彼のバディである琴音さえ口をはさめないでいたが、ふと我に返る。
「え? 紫苑さん。さっきその子のことを彼と……」
「あ、僕男です。見ます?」
「ナニ見せようとしてるんだお前。狂気ってそっち方面ではないからな?」
男性とは思えないその風貌にしばし琴音は口をあんぐりと開けたままになっていた。その肩に手を置いた栞はしたり顔をしながら鼻を鳴らす。
「金城さんだって、最初男だと思っていたんでしょう? これが多様性ってやつですよ」
「違うと思いますけど」
■■■ ミダースギルド本社 前
「うわぁおっきいですねえ」
「観光客であるお前は、中には入れない。ほんとなんでついてきてるんだろうな? 改めて疑問に思い始めたよ」
「紫苑さん、気づくのがかなーり遅いですよ。じゃあ翔太さんはホテルでのんびり過ごしててください」
「わかりました先輩、お店探しはお任せを。いい居酒屋見繕っておきます」
天を突くような高さのミダースギルド本社前で翔太とは別れ紫苑たちは社員の案内のもとでビルの中に入っていく。今回のインターンシップはチームSのためだけに行われるものではないので、他の二回生も後ろに続き、各フロアを回っていく。
一部のフロアではカードゲームをしているだけのような部署もあったが、それに負けた社員は死んだような顔をしていた。案内役の男性に話を聞くと、ミダースが主に行っているドラフト戦の予行演習らしい。
ドラフト戦とは決まったデッキを持つことなく、ダンジョンに落ちているカードだけで勝負する戦いだ。敗走の許されない「不思議なダンジョン」系統への挑戦を試みるミダースが一番注力している部分である。
このダンジョンはリスクが大きい代わりにリターンもでかい。ミダースが躍進した最大の理由が不思議なダンジョンの攻略権限を安価で管理局より譲り受けているという点に尽きる。どこの企業もその系統に挑戦するのは敬遠していたためだ。
そして先ほどの社員は模擬戦。片方がダンジョンの異形役のロールプレイをして、それに挑んでいたわけだが敗北。つまり実戦だったら死んでいた。という無慈悲な結末を迎えていたのだ。
これが実戦でなくてよかった。と思う人間だったならば件の社員はすでに死亡しているだろう。一度死んだと深く心に刻み、再び一手のミスもすることなく盤面を整理しなおしていく。
一つ階層をのぼるとオフィスルームへと上がる。そこでは数十台のパソコンが列をなして並べられており、アクリルガラス越しに中で作業をしている人間が見える。所謂エンジニアたちがこの階層では働いているらしい。案内役の人からは企業秘密があるため流石に中に通すことはできないといわれたため、外から様子をうかがっていると中から小柄のアルビノの女性が出てきた。以前よりは社会人として身だしなみの整えられた白髪に赤い瞳。起伏のない胸板に眼鏡をかけた女性社員。
最上雪菜が廊下に出てきた。隈は前よりひどくなっており、スーツの裾はよれている。
「ああ、今日だっけか。インターン」
「最上課長! お忙しいのはわかりますがスケジュールを忘れないでくださいよ」
案内役の男性が呆れたように言うが、雪菜は気に留めた様子はない。そこでつい紫苑は口に出してしまった。
「え? 雪菜もう課長なの?」
入社して、まだ半年も経過していない。異例のスピード出世にもほどがある。しかし、考えてみれば当然の配属だったかもしれない。学生の時点で日本一強固なトレイター学園のセキュリティシステムを単独突破。しかも趣味で、となればデータ処理業務の重役を任されるのは当然だろう。
トレイター学園の才媛。最上雪菜は、しかし、よれていた。
スーツもそうだし、隈もそう。
「ああ……紫苑くんか。すまない斎藤先輩。私は半休とらせてもらうけどいいですか? 久々の再会の日をデータ処理で潰したくない」
後輩で上司というのもなかなか難儀なものなのであろう。敬語とため口が混ざった口調になっていたが、斎藤と呼ばれた人物は快く答えた。
「ええ。最近課長休みとってなかったのは私も知っているので。今日明日くらいは私のほうでタスク消化しておきますよ。部長にも私から有給届けだしておきます」
「ありがとう。だそうだ。紫苑くん、後でどうだい? 一緒に」
ジェスチャーでお猪口をあおる動作をするが、雪菜はやはり、よれていた。




