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第43話 邂逅

 デートの基本とは何だろうか。そもデートとは何だろうか。辞書曰く男女が、日時を定めて会うこと。その先に恋愛のABCがあれど紫苑にも琴音にもその話は10年早かった。


 前日のお好み焼きパーティで酔った勢いで紫苑が琴音をデートに誘ったことを、半刻と待たずして紫苑は後悔することになった。


 今現在、彼を突き動かす原動力は異形への復讐と領地奪還。


 大事なものができると人は弱くなる。極限まで無駄を削ぎ落せば、遊びに行く暇など本来なかったはずだ。


 それでも琴音には何度も助けてもらっているし、前回の学園トーナメントの初戦敗退の残念会を兼ねて、彼女にお返しがしたいと思ってしまったのだ。


 軸がぶれている、そう認識できているだけまだましなのかもしれない。仲間たちと過ごすうちに、「()()()()()()()()」と大多数のトレイターが思うようになる。復讐心が風化することが怖かった。


 ■■■ 東京 某所


「クレープ初めて食べたんですけど、美味しいですね。学食だと出ませんから」

「そうだな。やっぱり定番だよな」

「?」


 紫苑は事前に宙からデートの指南を受けていた。彼は謙遜に謙遜を重ねても非常にモテる。その彼の貴重な意見を参考にしてデートプランを事前に決めていたのだ。甘いものが好きな琴音はおいしそうに屋台のバナナクレープを食べていた。


「次、どこか行きたいところある?」

「お任せします。私はこういったことには疎いので」

「じゃあ、雑貨屋だな」


 □□□


「対象、クレープを食べたあと、雑貨屋に移動。オーバー」

「こちらからは観測できません。オーバー」


 フードにマスク、望遠カメラを持った集団は傍から見たら不審者以外の何者でもないだろう。だが一つだけ。トレイターの胸章を付けている点において、信頼できる人物だと通行人は思うがそれでも、二度見、三度見を繰り返す。


 言い出しっぺは誰だろうか? おそらく雪菜だったであろう。チームSの全メンバーが尾行を行い、琴音と紫苑の色恋話を陰から楽しんでいた。


 首謀者かつ諸悪の根源たる雪菜はカメラに内容を押さえて、あとで見返すつもりだった。


 □□□ 雑貨屋


 店内は木目が所々にある、木で作られた古風な内装をしており、棚に陳列されたアクセサリーは多種多様で、煌びやかな宝石箱のようだ。


「これ、似合うんじゃない?」


 紫苑が手渡したのは花の髪留め。既に琴音が見ていないところで購入していたものだ。


 対して琴音も人知れず小物を購入していた。


 星空をイメージしたループタイ。お互いは照れながらもそれを身に着けた。


 琴音のピンク色の髪には薄い紫の花が止められており。紫苑のループタイには星空を思わせる装飾があしらわれていた。


「似合ってますかね」


 琴音は自信なさげに上目遣いで紫苑を見る。一泊間をおいて、紫苑は肯定の意を示す。と同時に紫苑もループタイが気に入ったようで、ガラス部分を大事そうに撫でている。


 □□□


「対象、琴音ちゃんは花の髪飾り、紫苑くんは綺麗なペンダントを付けているようだ。オーバー」

「引き続き監視を頼む」


 物見(ものみ)遊山(ゆさん)でついてきたチームSも満足そうに頷いているが、金城(かねしろ)だけ終始不機嫌だった。


「なあ、なんで俺たちはこんなことしてるんだ?」


 それを聞き雪菜が紅瞳を細めて問いただす。


「なんでって……ボクの案に一番乗り気だったの君じゃん」

「わぁーッてる。わかってるよ。あの時は酒が入っていたっていうのもあって……」

「違いますよね?」


 後ろから体を前に突き出し雪菜と金城の肩に顔を置いたのは要だった。


「あたくし、ちゃーんとわかっておりますよ。うふふ。紫苑さんも隅に置けませんねえ」

「何が言いてえんだ、要……先輩」

(おう)()ちゃんはまだ素直になり切れていないのですね、もともと塗り固めていた仮面ですものね。そうそう簡単には落とせませんですわ」


 自分で言っていて要は自分の心臓に針の刺さる思いをした。金城だけでなく、仮面をかぶっているのは自分も同じなのだと。剥がしてしまったら、もう、どっちの自分が本当の自分なのかわからなくなってしまう。


「ほんとに何が言いてえんだか」


 金城はそっぽを向いてしまう。雪菜は肩をすくめて「やれやれ」といった様子だ。


 ■■■


「ねえ、鬼塚君。彼らってあれで付き合ってないの?」


 もう一つは宙、鬼塚、栞のチームだった。呆れたように声を漏らした小鳥遊宙だったが、ここに来るまでもう3回逆ナンされている。それくらいモテる宙にとって、いじらしくてしょうがなかった。


「兄貴は硬派なんスよ。好きだからってすぐに手を出したりしない。あんな琴音みたいないい子だったら誰でもくっつきたいって思うのに。もしかして兄貴って男が好きだったり?」

「それは聞き捨てなりませんね」


 眼鏡を押し上げ、栞の目の奥が光ったように錯覚する。


「やっぱり宙×シオ!? いや、鬼×シオもいいですねぇ。ふふふ、考えたら興奮してきました」

「おい、栞、何の話をしてるんだ?」


 鬼塚が心配して声をかけるが、いつになく饒舌になった『姫』は息を上気させ顔を赤らめている。


「あ、ちなみにリバは地雷です」

「地雷? 武器の話か?」


 ■■■ デパート


「ここさ物産展やってるみたいだよ」

「物産展ですか」


 こくりと紫苑は頷き言葉をつづける。


「日本一周旅行ってわけにもいかないからさ、ここで気分だけでもって思って」

「ありがとうございます」


 琴音はまっすぐと視線を紫苑に向ける。


「いろいろデートプランを考えてくれて」

「い、いや。まああれだ。琴音はトーナメントで宙先輩に鼻っ柱おられたから、気分転換にね」

「その宙先輩にプラン考えてもらったんですからいいじゃないですか」


 いたずらっ子のようにくすくすと琴音は笑うが、対して紫苑は激しく動揺していた。


「え、おま。なんで、そのこと知って」

「女の勘ってやつですよ。さあ行きましょう」


 □□□


 デパート内は異形戦争以前とまではいかないが、人でごった返し、あちこちで売り子が声を張り上げている。


「……やっぱり、鹿児島も北海道もないな」


 紫苑がぽつりと呟く。悲壮な声だった。郷愁することくらいしかできない。今の自分たちは快進撃を続けているもののまだまだ弱い。それを改めて突き付けられた琴音も口をつぐんでしまう。


「北海道の蟹飯好きだったんだけどなぁ」


 ふと横にいる中年の男性がぼそりと漏らす。ショートヘアにこの時期だというのにアロハシャツに短パンを履いている。さらに履物はビーチサンダルだ。紫苑は彼のほうを向き声をかけた。


「北海道のご出身で?」

「ん? ああ、違うよ。昔よく旅行で行っただけだよ。物産展でも一番お気に入りだった」


 男は紫苑と琴音の胸章を見ると目を細めてしみじみと言った。


「トレイターさんか。若いのに、ほんと大変だね」


 その目には実感がこもっていた。憐憫が一番近い感情に思える。紫苑は彼にも似たような境遇の人がいたのだろうかと想像をはせようとするも、無意味だと思いやめることにした。


「ところでその恰好寒くないですか?」

「あはは、おっちゃんには肉の服があるから問題ないよ。ミートテックってやつだ」


 自分の大きい腹を叩いて豪快に笑うその姿に、紫苑たちの先ほどまであった哀惜は鳴りを潜めていた。


「仙台の牛タン弁当。以前より味は落ちたが俺は結構好きでね。店員さん! 世界のために頑張るカップルさんにも二つ頼むよ!」

「お買い上げありがとうございます!!」


 紫苑はもちろん琴音が大きく手で制する。


「いや、私たちも十分お金あるので……」

「いいんだ。たまにはおっさんの顔を立てるってのも大事だぞ?」


 二人は顔を見合わせた後、深々と礼をしたのち弁当を受け取った。


「なんだから一緒に食べるか? 近くにいい公園があってな……」


 そこで男は「おとと」と言いながら。


「せっかくのデートに小汚いおっさんが混じったら毒だよな。すまん忘れてくれ」

「いえ、いろいろ話も聞いてみたいですし。琴音が嫌でなければなんですけれど」

「みんなで食べたほうが美味しいですもんね。そうしましょう」


 男は歯を見せてにっこり笑った。



 ■■■ 自然公園


「寒ぃな」

「やっぱりその薄着は冒険しすぎですよ」


 東京のビル群に囲まれた都会のオアシス。緑と池があり人気もなく閑静な自然公園で三人は並んでベンチに吸っていた。


「この線をな『ビッ』て引っ張ると暖かくなるんよ。一分ぐらい待ってな」


 男の指示に従い紫苑たちもそれに倣う。しばらくするともくもくと湯気が立ってきた。


「これで熱々の牛タン弁当がいつでも食べられるんよ。食ってみ?」


 肉厚の牛タンはボリューミーで、矛盾するようだが柔らかくすぐ嚙み切れて肉汁があふれ出してくる。タン、白飯、タン、白飯。卵焼きとそれは弁当であることを忘れさせるほど美味だった。弁当をつつく箸が止まらない。


「いい喰いっぷりだな。流石若い子はいいな」

「ごちそうさまでした」


 深々と再度頭を下げると、男は「いやいや」と手を振った。


「いいもん見してもらった、やっぱり若い子の食いっぷりは……」



 瞬間、男の頭がはじけた。砕けたスイカのように脳漿があたりに飛び散る。


 紫苑の行動は早かった。即座に『狙撃』だと理解し、琴音を抱きしめて、横に飛んだ。茂みを隠れ蓑にして射線を区切っている。


 もうすでにエマージェンシーボタンは押してある。関東圏のギルド『オーディンギルド』へ連絡とGPS情報が送られる。


 しかし、聞こえてきたのは予想外の声。


対人(アル)特化(テミス)か、俺の面もう割れてんのか。参ったな」


 男が左腕を振り上げると、木が両断され、地面が分断され、ビルも破砕された。


 そこに握られていたのは一枚のカード。一般人が使用することをトレイター法で禁止している超兵器。


「死んだか、死んだな、殺したな」


「おっさん。そのカードは胸章がないと使えな……」

「どこにそんなことを律義に守っているクランがあるんだよ」


 “眼”だ。


 こいつ“眼”が違う。


 なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。琴音とのデートで浮かれていたのだろうか。


 彼の目は、“亡霊の目”だ。



「ごめんな? トレイターが大変だって言ったのは本心だ」

「食いっぷりみていると気持ちよくなるってのも本心だ」


 その男は頭を掻く。最適な言葉を見つけようとしているのだろう。


「あー。最期の飯、牛タン弁当でよかったか?」


 紫苑は琴音を守るように男の前面に立っている。目線は男から外さず、右手はいつでもカードが抜けるようにセットアップされていた。


「まあ教団に倣って自己紹介でもするか」


 男はアロハシャツの襟を正して姿勢をよくする。


「クラン、スカルローバー。ボス。正門(まさかど)()()。悪いが二人ともここで終わりだ」


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