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第39話 ケーブダンジョン②

「金城、援護は頼めるか?」


 弾幕のような毒矢は跳躍する紫苑と抱えられている金城を追い続ける。長篠の戦よろしく、三段撃ちが徹底されており、準備をする時間など微塵も与えてはくれない。


「いえ。お……、私は……、喋るのも、結構限界です……。麻痺毒は食らえば、終わりなので、気を付けて下さ、い。しかもゴブリンのくせに知能が高い、です」

「そうか。休め」


(三段撃ち? 人間の戦法をまねている? ライト級で最も弱いとされているゴブリンが?)


 一つ大きく外れた毒矢が偶然にも紫苑の跳躍先に飛んでくる。


 着地の瞬間。必中の矢。


 そうなるはずだった。


 紫苑はここまでの『仔山羊』ループのおかげで、すべての弾幕がスローボールのような速さに見えていた。


 左には俵を抱えるように金城を持ち、着地と同時に矢を右手でつかみ、手首のスナップを利かせて、投げかえす。弓矢の倍以上の速度で射出された毒矢はゴブリンの頭蓋を割り、内容物を吹き出しながら後方に飛んでいく。


『ネクロマンス』


 それが紫苑の兵隊になれば、弓兵は挟み撃ちされる形となる。蘇ったゴブリンゾンビと、紫苑によって。よってそちらの死骸のほうに、弓兵の一部とオーガチーフの注意が向けられることになる。


 だが、死体は一向に動く気配がない。


(こいつらは陣形を崩さない。ここまで練度の高い軍隊は、SASやデルタフォース。世界にも数えるほどしかないだろう。そして、何らかの伝達方法を持っている。僕の『死霊術(ネクロマンス)』を知っていた)


 オーガチーフが異変に気づき、次の号令を出すまでのわずか数秒。


 薄くなった弾幕を紫苑が見逃すはずもない。


 姿勢を低くし、金城を床に置いた後、その前傾姿勢のまま、中央に位置するオーガチーフめがけて地を蹴った。


 矢を躱す、躱す、躱す。


 躱しきれなければ、『冥王の剣』で斬り落としていく。


『死霊術』が空打ちだったことにここでようやく思い至ったオーガチーフは咆哮を上げる。


 短剣を持った近接部隊が金城に接近する。


(人質が有効、と判断したわけだ)


 ────ビギナーズラックは何からくるのだろう。ラックの名の通りただの幸運であることに違いはないのだが、中級者相手では起こらない。


「定石を、知っているね、戦場の」


 相手が兵法の素人ならば、ここに()()を置くことはリスキーすぎてできなかった。定石を知っていないからこそ起こる番狂わせ。それが起こらない。


 金城に近づいていくゴブリンたちは、自身の影がないことに気づく。上を向くとそこには煌めく宝石。『マナ・ゴーレム』が落ちてきた。


 金城が麻痺で動けないことも計算済みだった。彼女が下手に恐怖から逃げ出してしまったならば、その巨躯は彼女ごと押しつぶしてしまう危険があった。


 巨躯はゴブリンのみを潰し殺し、彼女のほうを振り返ることもなく、紫苑は弓兵の半数以上を殺していた。


死霊術(ネクロマンス)


 それらすべてが起き上がる。


『怪物化』


 そして肥大化、金城を守る盾となり、オーガチーフを殺す矛となる。


「これをされたくなかったんだろ?」


 笑みを浮かべながら紫苑は前髪を掻き揚げる。しかし、その表情をゆがませた。本来つくはずのないものが付着していたからだ。


「……血?」


 紫苑は左のシャツの一部に血痕が付いていることに気づく。傷を負った覚えは彼には、ない。だとしたら。


劫火(イグニア)


 放射状に展開され、一本一本が槍のように迫る、ウルトラレア呪文。それが紫苑の眼前に迫る。


 後には金城、攻撃をかわすのは容易だが、そうすれば後方の金城が死亡する。


 幸い、紫苑は身体強化をしているため、死にはするだろうが、受けきれる。『純銀の盾』に防御を任せ、その攻撃を受けた。


 高温で体が沸騰し、焼け焦げる激痛が紫苑を襲うが、彼はまだ立っていた。


「……なぜ。異形がカードを?」


 使用されたほうを見ると、ゴブリンが、切断された白い指でカードを触っていた。


「あれは、金城のカードに、指……? いや、まさか……」


 紫苑は従僕と化したゴブリンゾンビをナイトメアリッチとともに前衛に出した。余りにも稀有な事態だが納得するほかないだろう。


 使用者のデッキと指があれば、()()()()()()()()使()()()()だという事実に。


「はは、マジで? ウルトラレア級のカードと戦わなくちゃいけないの?」


 紫苑の顔からは余裕はすでに消え去っていた。眼前には白銀の全身甲冑を纏った、人間ほどの大きさの異形と、土気色をした鱗が厚い巨大な魚が地面に飛び込むのを目撃した。



 ■『王の側近(インペリアルナイト)』 異形 コスト10 ウルトラレア

 ●剣に凍気を纏うことが出来る

 ●攻撃力450 体力850



 ■『岩遊魚(ペトラ)』 異形 コスト15 ウルトラレア

 ●個体の中も回遊することが出来る

 ●攻撃力321 体力163



(白兵戦闘、こと剣術に於いて異形の中で右に出るものはいない『王の側近(インペリアルナイト)』と奇襲性能に長けた『岩遊魚(ペトラ)』、拙いッ……!!)


「金城を抱えて飛べッ!」


 ゴブリンゾンビが麻痺して動けない金城を抱えて跳躍した。


 ほぼ同時に『岩遊魚(ペトラ)』がいままで金城がいた部分を噛みぬいて再び壁に潜る。


 すでに『王の側近(インペリアルナイト)』は紫苑に肉薄していた。剣がぶつかり合う、とともに紫苑の『冥王の剣』が凍り付く。


(迂闊ッ……。こいつとの剣戟では勝ち目が)


 即座に剣を放棄し、カードに変える。


 判断が一瞬遅れていたら、紫苑は死亡していた。


 しかし『冥王の剣』は一分で再度使用可能になる。問題は残り体力が1で、金城を守りながらこのウルトラレアカード群にどうやって対処するかである。


 白銀の鎧は更に距離を詰めてくる。本来ヘビー級ダンジョンの異形である。その足さばきも山本先生に引けを取らない怪物だ。


 上段への斬撃を姿勢を低くして躱し、紫苑は逆に相手との距離を詰めた。ナイトの顔面を掴み地面に押し倒す。


 バフが乗った身体能力で殴打を繰り返すが、ほとんどダメージは通らない。僅かに鎧がへこんだのを感じられるほどだった。


 地鳴りを感じる。トーナメントでも感じた、地鳴り。


 紫苑はマウントポジションをやめ後方に飛びのく。


 そこを『岩遊魚(ペトラ)』が噛みぬく。


(きりがない。支配者を撃破したほうが早い)


 紫苑は支配下にあるアンデッドたちに時間稼ぎを頼み、オーガチーフのもとへと走る。


 途中、ゴブリンもオークも立ちはだかるが、すべて拳で打ち抜いていく。


 オーガチーフの眼前で、『冥王の剣』が回復。彼奴も斧を振り回すが、今の紫苑の“目”では止まって見える。斧の側面に飛び乗り、8mほどの大きさのオーガチーフの眼前に飛びあがる。


 横一文字に剣を振り、両目を潰した。


 苦痛の雄叫びを上げながらオーガチーフはしゃがみ込む。


(もう視力は奪った。グラトニーと違って、特殊な感覚器官は持っていない。……。あとはコアを……)



 ■『不死鳥の神薬(デウスエーテル)』 呪文 コスト5 ウルトラレア

 ●100m以内の味方の体力を完全に回復する



 ゴブリンは金城の指を使い、さらに全体回復呪文を唱える。ナイトもオーガチーフも完全に回復させられた。


「おいおい……、冗談だろ? 知能が高いなんてレベルをゆうに超えている」


 すでにボスの部屋では戦争のような戦いが繰り広げられている。


 こちら側の戦力は怪物化したゴブリンゾンビ、オークゾンビ、そして紫苑。


 敵方は残存ゴブリンやオーク、および金城のウルトラレアの異形。そしてオーガチーフ。


 剣がぶつかり合い、甲高い音を鳴らす。


 斬撃を受けたゴブリンゾンビからは強酸性の液体が噴出し、敵を溶かす。


 『岩遊魚(ペトラ)』はヒット&アウェイを繰り返し。ナイトメアリッチを撃破しようと何度も潜航と噛み付きを繰り返す。


 火矢が飛び、酸が吹き出し、剣が凍り付かせ、紫苑は跳躍を繰り返しながら、オーガチーフの首を狙う。


「凄い……本当に、あいつ、紫苑君はつよ、かったんだ」


 ゴブリンゾンビに抱えられながら金城はその狂瀾怒濤の戦場を見て震えていた。


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