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第28話 学園トーナメント

 12月24日、クリスマスイヴ。闘技場にはしんしんと雪が降っている。路面には雪が積もり、雪化粧が木々を純白に染め上げる。恋人と過ごすにはうってつけのシチュエーションだが、この学園では炎が燃え上がるほどの怒号があげられていた。


「絶対勝てよー!」

「お前に賭けてるんだからな!」


 小鳥遊(たかなし)(そら)は模擬戦委員の長である。別名“賭博委員”と呼ばれる彼らはこの誰が優勝するか、の賭け事に対して一枚噛んでいる。認可されている委員であり、理事長からもその権限を与えられているのだが、風紀委員とは犬猿の仲である。


 その賭け事の利鞘が宙の収入源の一つとなっている。学生達がトーナメントに意欲的に参加できるよう取られている措置であるため、風紀委員は止める権限はない。しかし、賭博というものに彼らが忌避感を覚えるのも仕方がないだろう。昔は学校で賭博など、その学校そのものが無くなるほどの出来事なのだから。


 閑話休題。


 電光掲示板に16名のトーナメント表が映し出される。ここで初めて、予選を突破した猛者は対戦相手を知ることとなる。


(琴音とは別ブロックか。そして僕は初戦から。気を引き締めていこう)


 紫苑は手のひらを強く握りしめ、リングへの階段を上った。


 実況解説席にはテントが張られており、そこには中央に理事長が座り、隣に長谷川、山本と並ぶ。音頭を取ったのは理事長だった。


「一回戦。第一試合。月見里紫苑VS御手洗(みたらし)さやか! 両者位置について、手を肩より上にあげてくれ給え。空砲とともにスタートする」


 両名指示に従い手を上げる。茶髪の二回生。御手洗さやかは『一回生程度に負けるわけがない』などという慢心はしてくれていなかった。紫苑が少尉なのは、殆ど全学生の知るところだ。実戦経験こそ彼女に満たないものの、間違いなく優勝候補の一人である。


 乾いた破裂音が闘技場に響く。


 両者目にもとまらぬ速度で、カードを抜く。



■『猛毒インプ』 異形 コスト10 スーパーレア

●召喚時、体力300以下の異形一体を破壊する

●他の『猛毒インプ』が出た場合このカードを破壊する

●攻撃力50 体力75



 さやかの目の前に角が二本生えた褐色の悪魔が現れる。さやかは相手の初動を潰すことに専念した。相手の異形を確認する前に一方的に破壊し、場のイニシアチブをとる為だった。


 しかし、紫苑は汎用性の高い『デスドール』を召喚していた。ぼろきれの様な不気味な人形は『猛毒インプ』によって破壊され、道連れにする。更に紫苑は『仔山羊』と『姫』から借りている『マナ・ゴーレム』を召喚する。



■『供物の仔山羊』 異形 コスト5 レア

●このカードが破壊された場合、味方全体に直近15分以内に破壊された自分の異形の数だけ10%のバフと身体強化を与える

●攻撃力5 体力12



 さっそくボードアドバンテージを取り返されたさやかだが二回生の経験は伊達ではない。



■『反魂の儀』 呪文 コスト15 スーパーレア

●コスト10以下の、不活性化した異形一体を召喚する



 復活呪文により、先ほど破壊された『猛毒インプ』を再度召喚、紫苑の『仔山羊』を破壊した。



■『反魂の花束(リンカーネーション)』 装備 コスト5 ウルトラレア

●自分が不活性化した異形を召喚するとき、追加で同名の異形を一体召喚する



 更にさやかは『リンカーネーション』を装備している。これで追加召喚された『猛毒インプ』の効果により『マナ・ゴーレム』が破壊される。



■『マナ・ゴーレム』 異形 コスト20 スーパーレア

●このカードが破壊されたとき、周囲30mの不活性化している『マナ・ゴーレム』以外のカードのコストを10減らす

●自壊不可

●攻撃力20 体力210



 しかし『マナ・ゴーレム』の破壊時効果により、紫苑の不活性化していた『デスドール』と『仔山羊』が再装填される。


(召喚時効果付きの異形を軸に据えた、墓地リアニメイトデッキ(破壊された異形を蘇生させるデッキの事)。しかも一枚一枚が強力な上に、デッキがかみ合っている。強い、な)


 紫苑は『仔山羊』を再び召喚。ここでさやかは迷った。『仔山羊』は破壊されるごとに味方の身体能力が一割上がる。もう一度『反魂の儀』で破壊していいものか、と。それをしたならば、紫苑の身体能力は120%になる。


 迷いが無かったのは紫苑の方だった、『冥王の剣』を装備し『仔山羊』を一刀両断。耐久度を減らさずに、バフをのせる。


 そのままの勢いで、さやかに突撃する。


(異形をリアニメイトして、壁に? いや、『冥王の剣』がある。迂闊に異形は使えない……ッ)


 さやかは武器カードを使用した。



■『デッド・ビー・ガン』 武具 コスト20 スーパーレア

●異形を倒すたびに、この銃の装弾数は再充填される。

●攻撃力30 装弾数50



 黄色と黒の警戒色を基調とした、蜂の様なSMGでさやかは迫る紫苑を迎撃せんと発砲。その銃を見た紫苑は一瞬のうちにして対抗策を思いつく。『イビルイーター』を壁にする。既に召喚していた『デスドール』を破壊させ『仔山羊』を再度使用できる状態にした。


 この再装填、というのが『デッド・ビー・ガン』の最大の長所にして、最大の弱点なのである。継戦能力は確かにある。しかし、対人戦ではリロードの一瞬に隙ができる。


 紫苑の前に召喚した『イビルイーター』はハチの巣にされ破壊される。リロードが始まる、と同時に、更に前方に仔山羊を召喚。


 リロードが行われる。間に合わない。だが使用者であるさやかはそんな弱点は百も承知。彼女は攻撃を『デッド・ビー・ガン』から『爆炎術式』に変更。


(異形ごと、灰にするッ!!)


 轟音と共に砕け散ったのは虹色の煌めき。『マナ・ゴーレム』の破片。その光の中で紫苑は笑っていた。


(読まれて、いた……?)


 紫苑は『冥王の剣』で、仔山羊を斬り捨てながら、更にバフが乗り、さやかの眼前に迫る。


 下からさやかを斬り上げ、それが大動脈まで届いた彼女は、血しぶきを上げながら倒れこむ。


『純銀の盾発動! 勝者、月見里紫苑!!』


 どうもノリノリな様子で山本は実況をする。即座にリングには保健委員が駆け寄っていきさやかの治療を始める。


「や、月見里君……」


 掠れた声でさやかは踵を返そうとする紫苑を呼び止める。足を止め、さやかの方に視線を向ける。


「な、なんで。そんなに強い、の……?」

「……大望の為です」


 それだけ言い残し、紫苑はリングを去って控室へと戻る。


■■■ 控室


 紫苑はタオルで汗を拭きながら、スポーツドリンクを飲んでいた。壁掛けのモニターに噛り付く。他の勝ち上がってくる人間の戦法を見られる貴重な時間だ。先ほどの対戦で殆ど消耗していなかった紫苑は、対戦相手のデッキを研究していた。


「へぇ……『対人特化』そりゃそうするわな。どうしたものか」


■■■


『二回戦! 第一試合。異例の一回生『少尉』! 月見里紫苑の快進撃を止めるのはこの男かぁ? 黒神(くろかみ)(むくろ)!』


 頬がこけ、屍の様に顔色の悪い細身の男性が、ニタニタ笑っている。


「紫苑君だっけぇ? 君、強い、すごく強いよぉ……」

「……光栄です」

「そういった天狗の鼻をへし折るのが、俺の一番の楽しみなんだぁ……」

「良い趣味ですね。一ついいですか?」

「いいよぉ……なんでも言ってごらん。棄権するなら今だよぉ」

「常勝の人が珍しく味わう死の感覚。その顔を見るのは僕も悪い気はしませんね」

「ははぁ……いいねえ。君もいい趣味だぁ」


 不気味にくつくつと笑ったのち、黒神は思い出したかのように言葉を続ける。


「ああ、そうだ。北海道難民が偶然、特待生。それから少尉になったっていうもんだから、期待してみればチーム長の星空琴音は一回戦敗退。君たちただの運だけチームじゃないかぁ……」


 紫苑は怒りを表情に表すことはしなかった。この男は盤外戦術で揺さぶりを掛けているだけに過ぎない。


「運も実力のうち、とはよく言ったもので。幸い恵まれています、人との縁には。先輩と違って」


 黒神はそれを聞き鼻で笑ったあと、「じゃあ、やろうか」とだけ短く言った。


 そこで、山本は号令をかけ、両者手を上げる。空砲と共に試合が始まった。紫苑は先ほどの一回戦とうって変って動かなかった。


 黒神がゆっくりとカードを引き抜く。それは三体のゴーレムだった。彼を護るように前方に召喚され、ゆっくりと前進していく。


「なんで、こんなノーマルカードで勝ち上がってこれたのかぁ……わかる? ねえ、わかるかい?」

「殺し合いに掛け合いは必要ありませんよ」


 紫苑は『仔山羊』を召喚。「奴」の攻撃をかわすために、左に跳んだ。


 黒神のゴーレムをすり抜けて弾丸が飛んでくる。



■『ディメンションスナイパー』 異形 コスト15 スーパーレア

●このカードの狙撃は味方オブジェクトを素通りする

●攻撃力45 体力20



 それは仔山羊に着弾し、破壊される。と同時に紫苑のデッキが4枚電撃の様な音を立て、不活性化する。


(……これは、防ぎようがない。僕のデッキの初動は、『仔山羊』から『イビルイーター』だ。更に姫から借り受けている『マナ・ゴーレム』でループさせるが、それを……当然止めるだろう)



■『屍の手(デッドマンズハンド)』 呪文 コスト30 ウルトラレア

●相手の山札2枚を不活性化させる(これは破壊ではない)



 このハンデス(手札を捨てさせること。この場合デッキを不活性化しているがトレイターは自由にデッキのカードを使えるため同一の行為になる)を黒神は2枚使った。この対人でしか意味を持たない、『ウルトラレア』を2枚、黒神は購入したのだ、今日この日に勝つために。


「さあて、Dスナ! 撃ちまくれ! もうあいつの手札は『純銀の盾』を除いて、2枚! 『デスドール』と『爆炎術式』。ループは封じた!」


(俺のDスナは二体。一体が『デスドール』と相討ちを取られたとしても、もう一体がいる。『爆炎術式』で攻撃しようにもゴーレム三体で要塞化している俺のところには辿り着けない。詰みだよ、月見里紫苑。『少尉』だろうがデッキにカードが無ければ……)


 爆炎が迸る。黒神の読み通りゴーレムは無事だった。ただの一体も破壊されることもなく、隙間から熱風が入ってくるだけにとどまった。


()()()()()()()()()()()? 爆発箇所を間違えたか?)


 その時場内では、歓声が起きる。観客席からは見えて、三方をゴーレムで囲んでいる黒神にはわからなかった。


 “上”に“敵”がいることに。


 紫苑としても博打だった。だが7割以上の確率で、この『デスドール』と『爆炎術式』が残されるのは先ほどの戦いから想像できていた。


 だからループを開始する予兆を感じ取らせ、その2枚が残るよう、誘導したのだ。この形での決着の為。


 紫苑はデスドールをクッション代わりに爆風で上空に跳びあがったのだ。そして悠々と三体の壁を超えて、黒神へと迫る。そこでようやく黒神は影に気が付き上を向く。


(なんだよ、何だよっ! 俺は宙にも一度勝った男だぞ! それを……っ!)


 鈍重な音がリングに響いた。


■■■


「兄貴、そのパンチじゃだめだわ……。むしろ自分の手首に来るぞ」


□□□


 紫苑は鬼塚に格闘術を教えてもらっていた。対価として紫苑がポイントを払おうとしたが、鬼塚は丁重に断った。『十分な程対価はもらっている』とのことで。だがそれでも鬼塚は貧乏な家庭であった。紫苑も最近までは裕福ではなかったが、彼の親に対する優しさを最大限尊重した。金券ショップに走り、食事券5万円分に変えて、彼に渡した。


 鬼塚は返そうとするも、換金したら単純に損だ。紫苑にあげたとしても、食べきれない。


「参ったなあ……」

「こっちのセリフだよ鬼塚。突っ返されないために、食事券に変えたんだから。正月にでも親に顔見せて来い。良い飯一緒に食って、親孝行しろ。生きているうちにな」

「俺が女だったら兄貴に惚れてたよ」

「キモイこと言うな」


□□□


「うん。腰が入ってない。後パンチは伸ばしきらない。打ったら戻す。これが基本だ」


「足は肩幅程度に開く、ジャブはこう」


 鬼塚が実演して見せる。


「ストレートはこう」


 綺麗なワンツーがサンドバッグに決まる。


□□□


「うん、兄貴成長の天才だな。俺のダチでも一ヶ月で、素人からここまでできる奴はいなかった。俺の『倒す技術』と兄貴の『殺す技術』が合わさったら、なんていうか、やべーよな」

「お前本読め。語彙力が無さすぎる」


■■■


 黒神にとってその一撃はまるで隕石の直撃だった。上空から全体重を乗せたエルボーが頭部に叩き込まれる。彼の頭の形は変形し、倒れこむ。


「勝者! 月見里紫苑!! 『少尉』の快進撃は止まらないぃぃい!!」


 実況をしている山本はマイクを手に取り実況席で大立ち回りだ。


(山本先生酒入ってんのかな? ……人を殴り殺すのは初めてだが、気分のいいものじゃないな)


■■■ 同刻 スカルローバー 本部


「ボス……今月の戦利品と死亡者のリストをまとめました」


 スーツを着て、スカルローバーでもボスに謁見できる数少ない幹部の一人、以前紫苑と琴音を殺し損ねた無精ひげの男だ。彼は責任を取るという形で、爪を四枚剥がされた。それでも尚、ボスに服従を誓っている。


 恐怖からか。違う。

 寝首を掻くためか。違う。


 この世界で勝ち馬に乗れるのはスカルローバーだと思っているためだ。


「あー、そこ置いといて」


 真冬だというのにタイル張りの水場でアロハシャツと半ズボン。ビーチサンダルを履いた小太りの男。スカルローバーを束ねる大将だ。


 青いアロハには返り血がべったりとついていて、ボスの焦点はハッパをやっているせいか定まっていない。それでも拷問の手順はアルファからオメガまで完璧だ。


「ご、殺しでぐだざい……」

「いや……。ダメでしょ。カードの持ち逃げは」


 会話がかみ合っていない。それでも一切、表情を崩さずに、部下の目玉をくり抜いていく。


「これ、新人研修用の教材にするから、出来る限り凄惨に死んでもらわないと困るんだわ」

「ボス……お忙しいところ申し訳ないのですが『大阪クラン』と『教団』から使いの者が来ています」


 幹部の言葉にボスは拷問の手を止め、カメラの録画を一時停止する。


「使い……? カチコミじゃなくてか?」

「はい。部下に調べさせたところ、カード武装どころか通常武装もありません。こちらの拘束もすんなり受け入れました」


ボスは血の付いたシャツを脱ぎ捨て、新しいアロハに着替える。


「用件は?」

「『()()』だそうです」


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