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第26話 委員会

「この剣カッコよくない?」

「めちゃくちゃイカしてるな! 兄貴のデッキ的にも似合いそうだし!」

「だろ?」


『冥王の剣』はスーパーレアで『亡者の剣』の上位互換だ。耐久度の問題が解決されたそのカードは報告されている限り、初めて発見された物である。そのためカードショップの『自壊デッキ関係カード』が軒並み高騰した。


 ただ、一つだけ、完全上位互換とは言えない欠点があったのだ。


(ダサくないですかね……)

(趣味悪いな、紫苑くん……)

(男の人ってこういうものが好きなのでしょうか……)


 女性ウケが極端に悪かったことだ。全体は銀色で統一され、つなぎ目のないシームレスな刀剣だ。柄の部分には大きく髑髏の装飾がなされている諸刃の剣だ。


 一番近しいものを上げるならば、修学旅行で男子が買う剣のキーホルダーを大きくしたものに近い。


 だが性能には影響しないし、当の紫苑はそのデザインを気に入っていたので、誰も水は差さなかった。


「さて、タクシーでも取りましょうか」

「いや、琴音。5人だと定員オーバーだ。2台呼べば済む話だが、せっかくの顔合わせだし歩いて体育館まで行かないか?」

「それもそうですね。せっかく涼しくなってきたし、今日は天気もいいですしね」


 全員が納得したが、ただ一人、根っからのインドア派の雪菜は内心反対したかった。しかし顔合わせは、主にあのチームにいなかった雪菜に対しての配慮の為、彼女はその言葉を飲み込んだ。


 秋も深まり、もう冬になる。銀杏の葉が街路を埋め尽くし、秋風がそれを吹き飛ばす。つい最近までは比較的暖かかったので、寒気は堪える。その風は金木犀の香りを運んできてくれる。秋から冬への変遷を肌で感じていた。


 まばらに見える学生は紫苑たちに気付くと、話し合い、指を差している。そこで彼らに近づいていくゴロツキが一人。


「何だお前ら? 紫苑さん達舐めてんのか? あァ?!」


 鬼塚に学生は怯え、謝っているが、それを制するゴロツキの親玉が一人。


「やめろ、鬼塚。チンピラムーブかますな。……どうしたの? 僕たちに用事?」


 紫苑が鬼塚の首をひっつかみ後ろに倒し、その学生グループの話を聞く。


「いや、あの月見里さんですよね? いや少尉って呼んだ方が良いですか?」

「やめてくれムズ痒い。それに少尉でとどまるつもりもないからね」


 紫苑は肩をすくめ、おどけて見せる。


「もう有名になってますよ。ブロマガで読んだんですけど、チームを結成したとか……あ! 最上先輩! いつもお世話になっています」

「あはー。ご加入ありがとー」


 雪菜は手を振り、学生たちに挨拶をする。


「それでなんですけど、カードを譲るので、デッキ構築や模擬戦に付き合ってくれませんか?」

「あ、私が先に言ったのに。私もお願いしたいです。模擬ダンジョンで死にかけてから、ポイントやカードよりも経験に重きを置くべきだと思って」


「ああ、いいよ。これから模擬戦しに行くけど、来る? 参考になるかはわからないけど見学していってよ」


 学生たちは喜び頷く。我先にと参加し列に加わっていた。また道すがら会う人間とも同じようなやり取りがなされ、体育館に行く時には大所帯となっていた。


(そうか……。ボクに情報を発信させたのも。歩いて移動するのを提案したのも、このためか。押し売りセールスよろしく、人は相手側から提供するサービスには金を出し渋る傾向にある。だが、自分から“ミドル級ダンジョン踏破チーム”に教えを乞うようにさせれば、より多くの人が集まる)


(行列の出来るラーメン屋に行列ができるのはなぜか。それは行列になっているからだ。人が集まれば更に拡大再生産、人が集まる。そして彼の理念通り、学生の底上げもしながら、ポイントやお金が手に入り、カードも受け取れる。挙句コネクションも作れる。一石四鳥)


(人を集めて、特別講師をすることで、同業他社。宙や要も看過は出来ない。客を奪われていくのだから。つまり、ここで競合が起こる。“1位”も“2位”も巻き込んだ話になる。そうなれば、前に紫苑くんが言っていた通り学園の掌握に近づく)


 もとより、天才児(ギフテッド)だった雪菜は部分的にだが、紫苑の計画の一端を理解した。だが紫苑の策謀は()()()()()()()()()()


 ともかく大きめの体育館に集まり、演習が始まる。格闘技術は鬼塚が教え、白雪は彼女なりの『生き残る術』をたどたどしくだが伝える。琴音は呪文の発動タイミングと指揮の方法。そしてカードを使ったデッキ構築相談は紫苑が行っている。ありあわせのカードを上手いこと組み替え、学生一人一人に最適な構築とプレイングを教えていた。


 今日一日だけで、現物やポイントを総額して300万円ほどの収穫を得た。中でも見込みのある学生とは連絡先を交換し、横のつながりを厚くしていく。しかしこの300万円はいわば副賞。彼の目的は他にあった。


■■■ 雪菜の自室


「いろんな委員会の、実態を伴った話を聞けるのは大きかったな」

「ん? 紫苑くん委員会はいるの?」

「いや、正式には所属しない。せっかくもらったスキップ権限だ。有効に活用させてもらうよ」


 大量に集まった、学生たちに“生き残り方”を教える傍ら、紫苑は委員会に所属している学生にコンタクトを取っていた。


「琴音、君は警備委員だったよな?」

「はい、そうですよ」

「そこで近代兵器の開発をしているのは知っていたか?」


 琴音は少し驚いている様子だ。警備委員は護衛任務を行い、そこから報酬が出る程度の認識だったからだ。そして驚愕した理由はもう一つある。


「近代兵器は異形に通用しませんよ?」


 当たり前の疑問。何故今、異形の脅威を最前線で味わった紫苑がそこに興味を持ったのかわからなかった。


「対人仕様の兵装だ。顧問は長谷川先生だったよな?」

「ええ、そうです。……対人、ですか?」

「ああ、スナッチャーは異形と並んでトレイターの脅威だ。だから在学中に通用する兵器を開発する」


 琴音は何手も先を呼んでいる紫苑に尊敬の念を抱いていた。憧憬、恋慕、信頼。様々な感情が入り混じる。死ぬ運命だった自分を救ってくれた英雄は次にどんな妙手を指すのか、楽しみで仕方が無かった。だが、同時に心配もした。


 彼の中で大事の物に自分の命は含まれていない。


「雪菜、またセッティングを頼めるか?」

「ハードワークだねぇ、紫苑くん。今度は何だい?」


□□□


「本気で言っている?」


 雪菜は奇異の目を向けていた。それもそうだろう。作戦が作戦だ。この月見里紫苑はなんど賭けのテーブルに自分の心臓を乗せれば気が済むのだろう。


「ああ。僕は学園を掌握する。“学生”を、ではない」


 鬼塚と白雪は現地解散をして、今雪菜の部屋にいるのは琴音を含めた三名。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()これを秘密裏に研究する。雪菜には申し訳ないが、このことは他言無用でお願いしたい」

「まー。やるけどさ。やばいと思ったら引き下がってね」

「勿論だ」


 雪菜は後頭部を掻きながらため息をつく。


「紫苑くんのセーフ判定の基準は信用ならないからな」


■■■ 翌日 自然公園


 ベンチに座っているのはまだ30代、働き盛りの健康的な女性。スムージー片手に散りゆく落葉の様を眺めていた。


「お待たせしてしまいましたね」

「いや、私も今来たとこ」


 透明な容器のスムージーがそれほど減っていないことからそれが嘘でない事を紫苑は悟る。目線をカップから長谷川に移し、さっそく本題に入る。


「単刀直入に言いますね」

「結構せっかちなんだね、紫苑くんは。こういうのってさ段階を踏んで」

「デートではありませんよ、長谷川先生」

「あら、それは残念」


 軽口の応酬の後、紫苑は話題を切りだす。


「兵器の開発がしたいです」

「……私に直接言う事?」


 長谷川の疑問は至極当然。本来なら委員会に所属し、粉骨砕身、働いた後、自分の意見が出せる。しかし、紫苑はそれをスキップできるのに顧問と一対一で話したいとはどういう了見なのだろうか。


「秘密裏に、だからです」


 長谷川は眉を顰める。


「兵器の開発は人類一丸となり、対抗策を出すものであって、私用で作るものじゃない。それはわかっているよね?」

「僕が提案するのは、対スナッチャー兵器。対人の武装です」

「同じことだと思うけどね。話変わってないよ」


 紫苑はどう切り出したものか、頭をひねり、さらに続ける。


「スナッチャーは人類の仇敵です」

「そうだね」

「だから僕は全クランのボスを屠れる兵器を、内々に研究したいです。なぜ警備委員で共有したくないのか。それは今からお話しする兵器が“初見殺しに特化”したものだからです」


 長谷川はなおも渋い顔をしている。紫苑は彼女にその兵器の有用性と、秘密裏に研究するメリットをプレゼンする。


「まず一つ目、バードショットハンドガン。ショットガンの弾丸。ショットシェルの比較的弾丸の小さいもの、1から4.83mmの玉を近距離にばらまく。その弾頭を拳銃で撃てるようにします。小銃連射は山本先生に防がれましたが、同時に面で制圧するこの兵器は、そんな熟練者相手にも効果的だと思いました」


「次にパラライズナイフ。スナッチャーを生きたまま捕らえるために開発する短刀。刃全体に連なったボールペンのチップ機構を使用します。希釈したテトロドトキシン等をナイフの柄にセットしたマガジンから刃を通り、しみ出させるものです」


 感心したようで、それでいて、どこか鬱陶し気に長谷川は頷く。


「確かに面白そうなアイデアだね。でも、何事も第一人者になるのは大変だよ。それができる都合の良い技術や、毒。テトロドトキシンだって神経麻痺毒だけど、基本死んじゃうからね」


 個人で兵器の開発という提案に長谷川はまだ納得していない。そんな彼女に、業を煮やした紫苑は切り札を使う。


「長谷川先生はスイーツダンジョン事件でいち早く異変に気づいたそうで」

「?」


「しかも、気づいた上で報告をしなかったと。しかも理事長が管理局に伝えていない事実。グラトニーの呪文を食う特性。あれは佐官クラスのトレイターの一部では知られていたらしいですね」


 全て雪菜が抜いた情報だ。しかし長谷川は今まで出したことのない殺気を紫苑に向ける。


「お前、理事長を脅すつもりか? 殺されるぞ」


「それこそ証左になります。法学の勉強も役に立ちますね。どこまでの脅しがセーフで危害がアウトなのか。まだ判例は少ないですが。理事長がスナッチャー堕ちしたらどうなるのでしょうか」


 その威圧感にも物怖じせず、紫苑は言葉を続ける。


「理事長を御せるトレイターが日本に何人いるのか知りませんが管理局の(すめらぎ)さんならばどうでしょう? スナッチャー殺しの凄腕と聞いています」


 長谷川は軽々しくラインをオーバーする紫苑の言動に流石に焦った。これが理事長の耳に入ればどうなるか想像もできない。優しく語り掛ける口調で紫苑を諭す。


「紫苑君。やめておいた方がいい。長い物には巻かれろという言葉、あまり好きでは無いけれど、ここで使わせてもらう。君はミドル級ダンジョン踏破で舞い上がっているのかもしれないが……」


「いえいえ、とんでもない。少しばかりお話をしたいと思いまして。“3人”腰を据えて」


 ここには監視カメラがある。全ての情報は雪菜に筒抜け。さらに雪菜は理事長に報告義務がある、という事は。


「回りくどいな。少年。もう少し上手い交渉の方法ならばあるだろうに」


 後ろから声が掛けられる。黒い長髪に赤渕眼鏡。女性用スーツを着た麗人。この学園の理事長が。


「やぁ、理事長。お待ちしておりました。理事長のコーヒーです。缶で申し訳ないですが」


 いきなりの登場に長谷川は肝を冷やしたが、紫苑が驚かなかったことにさらに驚愕する。理事長は缶コーヒーを受け取ったあと顎をしゃくり、黒塗りの車の方向を指す。


「……車で話そう」


■■■ 車内


 運転席に理事長が座り、助手席に長谷川。後部座席に紫苑が座る。


「まず、言い訳をさせてほしいんだが、ドミネーターの弱点は厳密に言うと現時点で報告義務はない。それにミドル級ダンジョンの出現は事故だ。といっても管理局に嘘をついたのは事実だね。違うか、嘘は言っていない。本当の事を話さなかっただけだ」


 理事長はバックミラー越しに紫苑の顔を見つめ、口角を上げる。


「紫苑君は若くていいな。個ではなく群での成長。素晴らしくもあり、愚かしくもある。人類一丸となることなど例え異形戦争後でも変わらない」


「例えば、あるギルドが特定のドミネーターへの“特効”を知っていたりしたら他の企業に流すか? 当然独占する。そうすればそのギルドはダンジョンの優先交渉権を得られるのだから。下手したらダンジョン資源総取りもできる」


「だから、グラトニーに関することは、私も知っていたが話したくなかった。でも紫苑君も同じだろう? 秘密裏に武器を作りたいなんて」

「そうです。だから、僕のお願いを聞いてくれませんか。それは交換条件と呼べるほど強力なカードではありませんが」

「話を聞こう」


 先ほど長谷川にした話を理事長に再度提言する。しばらく悩んだ後彼女は、首を縦に振った。


「いいだろう。スキップ権限を使用して私のところに話を持ってきた、という事で最低人員でのその兵器の研究を許可する」


 慌てて、長谷川が理事長を止める。


「り、理事長! でも技術的に不可能なんですよ。ゲームみたいに喰らったら動けなくなる毒も、拳銃弾に入るバードショット弾も……!」

「紫苑君のことだ、あるんだろ? 考えが」


 紫苑はにこりと笑い、本命を切り出した。


「インスタントダンジョンを貸してください」

「ふむ……続けてくれ給え」

「発電所で亡くなった現場監督はドロドロに溶けるほどの毒を喰らっていたんですよね。だったらあるはずです。未知の技術はダンジョンに」


 紫苑はダンジョンをカード取得の為だけでなく、敵の兵装を研究する為にインスタントダンジョンの利用許可を申請した。長谷川はあの地獄の最前線に立っていた者が何度も、何度でも、ダンジョンに入り浸ることに敬畏を感じた。


「ゲームじゃないんだぞ? 時間をかければいいカードを引けるそれと違い、毎回毎回、当然死の危険が伴う」


 答えはわかっているだろうに、理事長は紫苑に発破をかける。


「それならば、遺った有志に望みを託しましょう」


 一切曲げないその信念に理事長は感心したように笑った。


「では、君がチーム長となり4人以上でのインスタントダンジョンの利用を許可する。ただ産出したカードの半分は学園に献上してくれ」


「もとより全て差し上げるつもりでしたので、半分も頂けて光栄です」


 理事長と握手をして、お互いに微笑んだ。


(山本先生、長谷川先生、理事長。まだ不十分。もっと。もっと成長を……)


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