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第25話 戦禍と戦果

 このトレイター学園では一回生の階級が二等兵、二回生が一等兵。卒業時に上等兵となるのが原則である。


 その後、卒業した後、時間をかけ。


 伍長。

 軍曹。

 曹長。

 尉官。

 佐官。

 将校となり、最終的には『大将』となる。


 しかし、殆どのトレイターが道半ばで命尽きるか、心の炎が恐怖によって凍りつき、脱落する。


 一部の突出した英傑を除いて。


■■■ トレイター学園 西区画 平原


「全学生諸君、これより一分間の黙祷を行う」


 草原には400名ほどの一回生と向き合って、壇上に理事長が立っている。全ての学生が喪に服していた。


 あの『スイーツダンジョン事件』より二週間。多くの犠牲を出しながらも、上級生や講師陣の的確な指示。発電所職員の冷静な判断。それで被害は最小限に食い止められた、と説明されている。


 だが、ダンジョンというものの脅威、異形という意思持つ暴力に何割かの学生の心は折られ、自ら退学を申し出るものが後を絶たなかった。


 当然その際、貸与されているデッキは返却するが、自前のカードを回収する権限は学園には無い。貴重なカードが学園を離れることに、理事長は憂苦すべきだっただろう。少なくとも学園の管理者としてはそれが正解だ。


 しかし、彼女は安堵していた。


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 死体が増えるのは彼女の本意ではない。トレイターとしてではなく、“人間”としての心構えだ。


 管理局との対話の結果、一週間遅れで、残りの一回生も模擬ダンジョンに挑戦する運びとなった。生きて帰った者や、死んで戻らない者も存在した。だが、例外なく、これがゲームではないことに心から気付いた者たちだけが学園に残った。


「では、模擬ダンジョン実習、ランキングを発表する」


 理事長は全一回生の前で上位20名の名前を呼んでいく。前までならば諸手をあげて喜んでいたであろう学生は、会釈し、小さく返事を返す。


 その中に、最後まで紫苑たちの名前は無かった。




「そうだ。望月(もちづき)君。水を差すようで悪いが君は5位だと思ってくれ給え。恐らく理由はわかっていると思うが」

「はい。心得ております」


 深々と頭を下げ、1位を取った彼は元居た場所に戻る。


「次に、“ダンジョン実習”ランキングの発表を行う」


 全学生は神妙な表情をしており、聞き入っている。野次馬根性でそこに立っていた者は皆無だっただろう。“彼ら”はあの災厄を終わらせた英雄だ。


「4位。白雪(しらゆき)(しおり)。防御と回復に偏重したサポーター。その『ゴーレム』系統を駆使した防御と、回復を優先して行う慈愛の心。『護る』という強固な意志は何人(なんぴと)たりにも破れまい。最後はあのグラトニーにとどめを刺すという偉業もやってのけた。よって彼女の階級を“伍長”とする」


 まばらな拍手は次第に熱を持ち、声を上げずとも彼女を称賛しているのが見て取れた。壇上に上がった白雪は恥ずかしそうに俯きながら、表彰されていた。


「3位。鬼塚(おにづか)拳地(けんじ)。シンプルな殴撃という戦闘スタイルで、道中から異形の撃破数はチーム随一。直情的で暴走しやすい、という欠点こそあれど、その無鉄砲さは大きな武器だ。元々持っていた武芸の才も相まって、切り込み隊長としてこれからの活躍を期待する。よって彼の階級を“伍長”とする」


 こちらも拍手が起こるが、鬼塚は、理事長に頭を下げたのち、紫苑の方を向いて笑顔でピースをしていた。


(……バカ。お前、それは後にしろよ)


「2位。星空(ほしぞら)琴音(ことね)。彼女は模擬ダンジョンだと思って入ったところが、ミドル級ダンジョンだというイレギュラーにも、臨機応変に対応できた有能な指揮官だ。戦闘面では『旋律』シリーズという呪文を主体に戦うオールラウンダー。全体防御や全体攻撃。バフとカードの切りどころも申し分ない。よって彼女の階級を“曹長”とする」


 琴音は理事長から肩を叩かれ、一言。「強くなったな」と言われ、こぼれそうになる涙を上を向いてごまかし、袖で目元をぬぐって壇上を降りた。


「1位。(やま)見里(なし)紫苑(しおん)。今回の攻略は彼無しでは、道中で全滅していた。自壊デッキという、死をも前提とした狂気的なまでの勝利への渇望。飽くなき探求と鍛錬が彼を強くした。グラトニー戦では、今まで公式にもなかった彼奴の弱点を初見で見抜き、即座に対応する頭脳と判断力。故郷奪還のために粉骨砕身する、まさに反逆者(トレイター)。彼の功績を讃え、階級を“少尉”とする」


(これで後戻りは出来ないぞ、紫苑君。不退転のトレイターよ)


「理事長」

「何だね?」

「ありがとうございます」


 紫苑は深々と頭を下げた。階級が上がれば責任が増える。しかし、強くなるためにはある程度の階級が無ければ勝負の舞台にも立つことが出来ない。


「正当な評価だ。感謝される筋合いはない」

「……ありがとうございます」


 再度紫苑は礼を言った


■■■ 雪菜の部屋


「すげえ! 兄貴。情報屋まで仲間なのかよ!」

「うわぁ……DQN(どきゅん)だ」


 金髪のベリーショートに眉には剃りこみ。ガタイは大きく筋肉質。雪菜の発言も仕方が無かっただろう。相当失礼だったが。


「“どきゅん”ってなんだ? 兄貴?」

「ならず者とか不良って意味のネットスラングだな」


 鬼塚は怒りも悲しみもせず、ただ笑い飛ばした。


「はは、確かにそうだ。違ぇねえ」

「人を見かけで判断するのは良くないよ雪菜。といっても僕の第一印象もそうだったんだが」


 笑って頷いた後、雪菜は神妙な面持ちになり、姿勢を正して、四人に向き直る。


「大変、だっただろう。痛ましい災害だった。それでも被害を最小限に抑えられたのは君たちの勲功だ。掃討戦では防犯カメラを通してサポートはしていたが、不運なことに西区画はそれが少ない。あまり助けになれなかったことを許してくれ」

「仕方がない。想定外の事態だった。亡くなった人が多数いるのに不謹慎かもしれないが、得られたものは多い」


 紫苑は声のトーンを落して説明する。雪菜はそれに納得したように応じる。


「ああ、スーパーレアが二枚も産出したんだっけ? それは確かに幸運だったね」

「一枚は白雪さんに渡したけどね。それよりも仲間が増えた。共に戦ってくれる仲間が」


 照れくさそうに鼻の下を擦る鬼塚と、嬉しそうに俯いている白雪とは対照的に、もとより紫苑のことを知っている琴音と雪菜はその紫苑の言葉の裏にある真意に気付いてしまう。


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 その双眸は、理事長の言った通りに狂気とも呼べる執念があった。それを聞き、雪菜は改めて、紫苑の思想に戦慄する。スーパーレアという喉から手が出るほど欲しいカード。数千万の値がつくカードを彼は全て託されたのに、よりうまく使える人に譲渡する。個の利益ではなく、自分の死さえ想定範囲。


 はっきり言って狂人だ。


「そうだ、鬼塚と白雪さんは軽く自己紹介をしたほうが良いかもな」


 その後、鬼塚は友好的に雪菜に話しかけ、いくらか彼女の警戒心も解けたようだ。そののち白雪がたどたどしく言葉を紡ぐも、意外にも雪菜は彼女に噛みついた。


「……被ってる」

「え、え? なんですか? 私なんかやっちゃいました?」


「コミュ障キャラが被ってるんだよ! しかも名前に“雪”が入っている! ボクのキャラが薄くなるだろ!」

「雪菜さん、それってそんなに大事なことなんですか?」


 琴音は口を挟むが、雪菜以外の人物全員が思っていただろう。プリプリ怒る雪菜を紫苑が宥める。


「いや、髪の色とか瞳の色とか。あ、あと眼鏡だ。それはメガネっ娘キャラとして、唯一無二じゃないか?」

「……それは確かに」


 しかし、黙っていればいいものを白雪は余計なことを口走ってしまう。


「あ、あ。私も集中するときは眼鏡かけます」

「がーーーー!!」


 雪菜は雄叫びを上げた。


□□□


「まあ、というわけだ。鬼塚と白雪さんも僕たちの仲間になってくれるそうだ。はっきり言って彼らも十分強い。研鑽する相手としては申し分ない」

「あ、あの。紫苑、さん。ちょっといいですか?」


 白雪は右手でおさげを弄りながら、言いにくそうに、それでも逡巡しながら紫苑に話しかけた。


「どうした? 白雪さん?」

「わ、私、昔から名字でしか呼ばれないんですよね。さっき雪菜さんにも言われましたし、いい機会かと思って。あだ名で呼ばれるのが夢なんですよ」


「あー。なる、ほど?」


 紫苑は首を傾けながら、そういうものかと自分を納得させた。しばらく考え込んだ後、口を開く。


「じゃあ、『姫』」

「な、なんで、私みたいな陰キャにそんな……」


「白雪『姫』から。嫌?」


 もじもじと手遊びをしながら、彼女は嬉しそうに頷く。


「姫、姫ですか……。えへへ。良いですね。嬉しいです」


 にやけながら口をへにょらせて、顔を赤らめる白雪の様子を見て琴音はまた新たなライバル出現の恐れに警戒心を抱いたが、そっと胸のうちにしまい込んだ。


「俺は? 俺は?! 兄貴! なんかあだ名つけてくれねえの?」

「鬼塚は鬼塚だ」


□□□


「というわけで、僕たちの前線基地はここ、雪菜の部屋だ。部屋二つぶち抜いた大きい部屋で、基本何らかの作戦を練る時、ここを拠点としている」

「うん。そだよー。紫苑くんにはボクの合鍵も渡してあるしね」

「ああ、そうだな」

「え゛ッ!?」


 その異音を不思議に思い、琴音の方を見た鬼塚のおかげで、彼女は平静を取り戻し笑顔に戻った。


「今日は時間を空けておいたから、雪菜という二回生も交えて、デッキ構築会だ。もう全員連絡先は交換したよな?」


 全員から肯定の意が示されると、紫苑は話を進める。


「このグループの名前はまだ決まっていないんだが、一応僕がリーダーということになっている。補佐は琴音と雪菜。何かあれば連絡を頼む。……さて、まずは個人のデッキのブラッシュアップだ。僕が鬼塚のデッキを見るから、琴音と雪菜は『姫』をお願い。それが終われば、体育館に行き、模擬演習。トライ&エラーを繰り返し、仕上げていくぞ」


 それぞれ男子グループと女子グループに分かれていく。


「鬼塚のデッキコンセプトは最初見たとき、『冗談かこいつ』って思ったけど、改めて君の強みを考えれば悪くないんだよな」

「兄貴、“でっきこんせぷと”ってなんだ?」

「そのデッキを運用するにあたって何がしたいか、がコンセプトだな。例えば僕の場合、リスクを承知で自壊ギミックを入れて、それで恩恵を受ける作りになっている。琴音は『旋律』シリーズの呪文を『マエストロ』で再度使用する構築になっているな」


「おお、成る程。俺が何をしたいかってことだよな。バフかけてぶん殴って終わり、っていうのが理想だったな」

「そうなんだよ。鬼塚は複雑な機構にするより、このままの方が良いかもと思ったんだけど。これより強い構築は思いつくんだが、話聞く?」


 紫苑は心配そうに訊ねるが鬼塚は胸を張って答えた。


「兄貴の考えてくれたデッキなら心配はねえよ……って言ったら怒られるか。俺自身でもちゃんと考えなくちゃな。おう。使い方はしっかり覚えるよ」


「よし、じゃあ説明するぞ」


「まず、フォースギア以上。あれは体にダメージがフィードバックする上に『フォースギア』でもミドル級ダンジョンの『エリート』。猫のぬいぐるみだな。あれを倒せなかった。逆に言えばサードギアまでで、道中の雑魚散らしなら十分だ」


「そして今までの強化が一本道だったのがいけない。例えば『幽霊(レイス)』系統の物理ダメージ無効の異形が出てきたら、そこで鬼塚一人ならば詰む。勿論ダンジョンは集団で行動すべき、足りないところを互いに補う必要は大いにあるんだが、流石に汎用性が無さすぎる」


「だから、鬼塚にあげるのはエンチャント系の呪文だ。これを組み込むことで、スキルツリーの様に“殴撃”というコンセプトを崩さずに、様々な戦法へと派生させられる。AからB。BからCという既定のルート以外にも、選択肢を用意することで、一人で出来ることが大きく増える。攻撃だけでなく、補佐、防御、回復とね。どのカードを積むかは応相談なんだが……」


「…………」


 鬼塚は固まっている。


「……話ついてこれてる?」


 鬼塚はどや顔をしながら学生手帳を掲げる。


「録音してたから、後で何度も繰り返し聞くぜ」

「偉いぞ、鬼塚」


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