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10話 異世界人との初遭遇


「フィア、客って」

「早く戻りましょう。グレン」

 

 陽哉の問いかけに答えることなく、エリフィアがグレンを呼ぶ。すぐに、大きな体が目の前に伏せ、その背に飛び乗った。


「ハルも乗って」

「え!?」

「いいから早く」

「ハィ!」


 鋭い声に考えるまもなくグレンの背に乗る。さらさらフワフワの毛並みを堪能する時間もなく、乗ったことを確認したグレンは起き上がってすぐに駆け出した。そのスピードにギュっと捕まると、さらに上がるスピード。その後ろを、ヒョウカを乗せたシズクも着いていく。


「グレン! 飛びなさい! シズク達は下から!」

「ワウ!」

「クルル!」

「え、うわぁ!」


 エリフィアの指示を聞いたグレンが鳴き、バサリ、と陽哉の後ろで羽音が聞こえた瞬間感じた浮遊感。木々の隙間から大空へ、一気に飛び上がっていた。


「う、わ、すご」


 一面の緑、そしてその緑が消え黒と灰色が見える土地。遠くに一瞬見えたのはおそらく建物。けれどそれをきちんと確認するより早く、グレンは緑の間にぽっかり空いた草地へと降り立っていた。空中滞在時間はほんの数秒。そして陽哉は、降り立つ直前に、草原の中にポツリと建つ自分の店の前にその姿を見つけた。


「人?」


この世界に来て初めての人間の姿。それも一人ではなく三人。


(第一異世界人に遭遇、だけど、確かにあれは招かれざる客っぽいな)


「な、なんだ!?」

「獣!?」

「おい、男もいるぞ。ここの家主か?」


空から舞い降りたグレンに気づき、慌てている三人の男たち。その手には斧や石があり、店の周りには探索の前には無かった、大小さまざまな大きさの石が転がっていた。その様子から店にむかって石を投げたのだろうと予想できて慌てたが、見たところ店に傷はない。


「ああ、よかったわ。フロウディアの結界、ちゃんと作動してるわね」

「結界?」

「ええ。フロウディアがこの場所に店が現れたら作動するようにしていたのよ」

「……何その準備万端な感じ。ってことはやっぱり、あいつ俺がまたこの世界にくる可能性があるって知ってたな!?」


どうりで“またな”なんて意味深な言葉を告げてきたわけだ、と頭を抱える。知っていたなら教えて欲しかった。


(いや、店を守る為の結界を張ってくれたことには感謝しかないけど)


陽哉の店は、彼の両親から受け継いだ大切なものである。それを守ってくれたことには感謝しかないが、それとこれとは話が別だと陽哉はまたフロウディアに会うことがあれば文句を言おうと決めた。

……その可能性を考えた時点で、陽哉にはまたこの世界に来てしまうのではという予感があった。


「おい! お前、ここの家主か! ちょうどいい! 殺されたくなかったら金目のものだしな!!」


意識がここにいないフロウディアへ向いていたが、男のひとりが放った言葉で我に返る。


(やっぱり盗賊の類いだったかー)


 いかにもごろつき、といった風貌の男達である。最初は冒険者のような存在だと聞く守護団だったらいいなと思ったが、イメージ違いだし、喩えそれであっても店に手をだすなら敵であった。とはいっても、陽哉自身には男達をどうこう出来る力があるわけもなく。さてどうするか、と悩むより先に、その声は聞こえた。


「ハルを、殺すですって?」


 小さな声だった。おそらく男達にはまったく聞こえていなかっただろう。けれど、それを間近で聞いた陽哉の背に、ゾクリ、と悪寒が走る。感じたのは、紛れもない恐怖だった。

 ゆっくりと、その声の主、エリフィアへと視線を向ける。そして、向けたことを後悔した。


(お、怒ってらっしゃるぅ)


 可愛いお顔はまるで般若のようであった。


「うふふ、うふふふふふ」

「ふぃ、フィアさん?」

「待っててね、ハル。すぐにあの不届き者たちを掃除するから」

「……」


 やりすぎないように、と言える雰囲気ではない。とりあえず陽哉は、目の前の男達に合掌した。


「はぁ? なにやってやがる、早く金目のも、のぉぉぉぉぉ!?」


 男の言葉は、悲鳴へと変わった。彼らを襲ったのは、水。


「《ネロディーネ》」


 エリフィアの頭上に現れた水球が一瞬のうちに空中を流れる激流を化し、そのまま男達を飲み込んで渦となったのだ。

悲鳴が、水の中へと消える。


「あの、フィア?」

「心配しなくても大丈夫よ。このバカ共はどっか別の場所に投げ捨てておくから」

「……それ死んじゃわない?」


 別に許してあげようというほど優しくはないが、過剰防衛ではなかろうかと冷や汗が流れる。


「この世界じゃ正当防衛の殺しは罪にならないけど、ハルは優しいものね。殺さないでおいてあげるわ」

「う、うん」


 にっこりと笑っているように見えるウサギさん。けれど、その雰囲気は修羅のそれ。どうしてここまで懐いてくれているのか分からなかったが、すべてエリフィアに任せるしかない陽哉はうなずくしか出来ない。


「ハルの前から消えてちょうだい」


 さようなら、と声色だけは楽しそうにエリフィアがそう言うと、渦はそのまま舞い上がり、どこかへ飛んでいった。僅かに聞こえた悲鳴も、渦とともにあっという間に聞こえなくなる。

 あのままの勢いじゃ死ぬのでは?と一瞬思ったが、エリフィアの言葉を信用するなら生還しているだろう。


(コレに懲りたらもう店には来ないで欲しいなー)


 時間にして数分。あっというまの第一異世界人との交流終了だが、出来れば初めての異世界人との交流はもっとワクワクするようなものが良かったと、陽哉はそっと己の中から盗賊達との遭遇を排除した。そんなある意味ひどい陽哉の体に、グレン達がすり寄り、不満そうな声を上げる。


「ん? どうした?」

「あー、ごめんねー。みんなの出番奪っちゃったから」

「出番?」

「この子たちもあいつらに怒っていたから、自分達も制裁加えたかったんですって」

「クルル」

「キュゥ!」

「ウゥ!」


かなり殺意高めであった。鳴き声は可愛いいし、すり寄る姿も可愛いのにゾクっと背中に悪寒が走る。


(……あいつら、フィアに飛ばされただけでよかったのかもな)


 きっとまだこの場にいたら、火傷と凍傷を負い、さらにはシズクによってエリフィアの水攻めがさらに過酷なものになっていただろう。想像するだけで恐ろしい。確実に正当防衛の範囲を超えている。


「ありがとうな、おまえら。守ろうとしてくれただけで嬉しいよ」


 陽哉はとりあえず、全員撫でて怒りを沈める。短い時間で随分と懐いてくれている彼らはそれだけでコロッと機嫌を向上してくれるのだからお手軽だ。


(にしても……俺にとっては生命線だけど、見た目普通の店に対してって考えると、過剰戦力だよな)


 見た目に反して、簡単に強力な力を使うエリフィア。戦っている姿は見たことがないが、グレン達もその能力を使いこなして制御しているのをみると、きっと強いのだろう。どう考えても一軒分のセコムにしては強すぎた。


(まぁ、俺は助かってるからいいけども。……やっぱり情けないんだよなー)


 陽哉には、この世界で通用する戦闘能力はない。元の世界では治安のいい日本で生まれ育ち喧嘩とも無縁。しいてあげるなら学生時代にやっていた弓道くらいが防衛手段になりそうだが、今手元に弓矢はない。

守ってもらいっぱなしという現状に情けなさを感じている陽哉は、もし今後もこの世界にくることがあれば力をつけることも考えないといけないと頭の隅に残し、エリフィア達の為のショコラポーション作りへと、意識を切り替えるのだった。

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