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魔法機工アスエル・ミーア  作者: 火ノ鷹
プロローグ
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旧時代の遺産

公募用に書いてみた。ちょっと王道が過ぎたので凹んだ

山脈程の大きさの竜、森林をもなぎ倒していく竜巻を纏う烏、海流そのものとすら言われる巨大なイカ。全てこの世界には存在する。


大陸が壊れる程の地震、大空を駆ける鷹を縛る大緑樹や植物、海流を操る超常生物。これも全てこの世界に存在する。


それらはすべて人のような矮小な存在には災害としか言いようがない。故に災害を起こす獣、災害獣と呼ばれた。


ヒューマンやエルフといった、社会を形成する種族からすれば相対したくない者達である。町を作っても災害獣の通り道ならば捨て去ることを覚悟しなければならない。災害獣が近くを通るだけでも被害が出るのだ、彼らは社会形成圏を慎重に選ばざるを得なかった。国という規模の社会が形成できるのは稀なことだったことがその証明だ。


しかし太古の時代、国の規模の社会を五つの種族が形成していた。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、フェアリー、ジャイアントの五大種族と呼ばれた者達である。それも災害獣を討伐・撃退できるという戦力をもった軍事力を持っていた。

彼らは子孫に武器を遺した。地下深く岩盤にも等しい岩の中、陸と海の境界、宇宙にも近しい蒼穹の中、絶対に災害獣に奪われない場所へ。


そして数十を超える災害獣の大闘争により太古の時代は終わりを迎えた。遺産はきちんと遺したまま。

地震、竜巻、火山の噴火、超常生物の放つブレス、あらゆる災害がその施設の外を吹き荒れていた。絶対に奪われない場所は災害獣が嫌う場所であり……五大種族からも忌み嫌うような場所だった。



「急げ!早くこの場所を封印するぞ!」


研究所と工場を足したような場所。そこでは五大種族がせわしなく彼らの役割を果たしていた。ヒューマンだけでは足りない。エルフだけでも、ドワーフだけでも、一種族でも欠ければ成立しえない。未来への遺産という、どの種族も望んでいたものを作るためには全ての国家が協力しなければならなかった。


さらに遺産である以上、彼らがそこに残れば待っているのは死のみ。外は災害が吹き荒れど、生き延びる可能性はゼロではない。既に施設は封をする段階に入っており、内部に残っていた数人は既に共に逝くことを決めていた。


「全員退避完了しました!中には所長たちだけです!」


ブーブーとサイレンのような音が鳴り、内部と外を分ける扉が閉まっていく。外には無理やり連れだされ涙を流している者や、敬礼する者達で溢れかえっていた。

敬礼された先には十数人の者達だけがいた。彼らは外部への扉へと顔も向けない。ただひらひらと手を挙げ、横顔に微笑みを見せるだけだ。

ゆったりと扉が閉まり、魔法で封印が為されていく。中からは絶対に開けられないように、外からも特定の条件が揃わない限り開けられないように。


「所長、扉は封印されました」


ヒューマンの男性が淡々と告げる。覚悟を決めてなお職務に忠実なその態度は変わっていない。


「我々はこの子を作り上げた責任がある。元より逃げることなどできはせん。お前は逃げてもよかったのだぞ?」

「お戯れを。私たちはこの子の親でしょう。親が子育てを投げ捨ててどうするのです」


所長と呼ばれたジャイアントは口角を上げて笑う。様子を見ていた横にいるフェアリーは溜息を一つついていた。


「ハハハ、全くだな。私らの子種でできたガキはとっくに手を離れているからな。子育ては久しぶりだ」

「はぁ……言ってる場合じゃないよ。私達の意識を遺さないと子育てもできない」

「だな。魔水晶はどこだ?」

「こちらに」


直径十センチ程の紫色の水晶をヒューマンの男性は二人に手渡す。水晶は光り、扉が閉まって薄暗くなっていた周囲を照らし出す。

水晶に緑色の魔力光で照らすジャイアントと紫色の魔力光を照らすフェアリーは、目の前にある彼女を見上げ、祈るように言葉を紡いだ。


「頼んだぞ。お前が機能さえしてくれれば子らは戦っていける」


ヒューマンの男性は他の者達にも水晶を渡していく。ドワーフ、エルフ、ヒューマン、それに五大種族の混血である者にも。

白色の魔力光で照らすドワーフと黄色の魔力光で照らすエルフもまた、彼女の足に手を触れて、縋るような声で言葉を零す。


「子を、孫を、そのさらに子孫たちを守ってくれ」


赤色の魔力光で照らすヒューマンと、灰色の魔力光で照らす全ての種族の特徴を持つ混血は宥めるような、優しい声で彼女に告げた。


「お願いね、アスエル・ミーア。あなたは未来の希望なの」


全長五十メートルを超える巨体。彼女を見上げる彼らの瞳は神に縋る殉教者のようだった。


「私達はアスエル・ミーアのために全てを捨てる。全員、魔水晶は持ったかしら!?」


ヒューマンの女性が全員へと声を向ける。そして全員へと目を向けるとそこには水晶を片手で掲げる姿があった。その様子にニコリと微笑む。


「いくわよ、プロジェクト『ツナグミライ』、最終フェイズ起動」


ヒューマンの女性の言葉と共に全員の魔水晶がそれぞれの色で発光をどんどん強めていく。光が熱量すら持ち、彼らの皮膚を焼いていく。さらに光は強まり、水晶が共鳴を引き起こす。


「みんな、次があるなら来世で会いましょう」


共鳴した水晶は、彼らの肉体を悉く消滅させた。残ったのは水晶と、彼らがアスエル・ミーアと呼んだものが眠る設備だけだった。


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