第8話 世界樹の苗木
俺のほっこりと幸せに満ちた朝の気分は霧散した。
「領内の瘴気がかなり濃い。特に山の麓辺りだな」
そう告げた白龍王の言葉に青ざめた。
龍王には少し待ってもらい、リーフリットを呼びに戻る。
ご機嫌に鼻歌を歌いながら、洗濯物を干すリーフリット。
突然現れた俺に、ビックリした表情を浮かべた、
リーフリットの手を取り、龍王の元へ向かった。
「領内の瘴気がかなり濃いって言っていたが、具体的な影響って判るか?」
「ダンジョン核が残っておれば、それなりの魔物。
無ければ雑魚の大量発生ぐらいだろう」
「雑魚って、どれくらい?」
「せいぜいオークやトロール、サーベルタイガーぐらいではないかな?」
聞いた相手が悪かった。
俺やあんたにとっては雑魚でも、一般人には脅威だ。
「それは、アルメニア全体か?」
「中部と東部にも兆候はあるが、現実化するまで、3年から5年という処だろう。
ここが特に酷いの、半年は掛からんじゃろう」
クソォ~!!ウチだけか!!
「対策に心当たりはあるか?」
「精霊樹の苗木を、竜穴に植えば徐々に緩和されるだろう」
「精霊樹って、何?」
何このファンタジー感溢れる名前。
「我に聴くより、そこのエルフに聴いた方が、早かろう」
突然、話を振られビックリする、リーフリット。
「精霊樹?ア、あ、精霊樹ね。
精霊樹と云うのは、竜脈から運ばれる瘴気や汚れた魔素を、
取り込んで清浄で無害な魔素に変える木のことよ」
「へぇ~、そんな便利なものがあるんだ」
感心したように言うと、リーフリットが言葉を繋げる。
「守護精霊を生み出すと『世界樹』に神化するけど。
ほとんど、神樹様になることはないわね」
「何処に行けば貰えるの?」
「神樹様を管理しているのは、エルフの里だから。
エルフの里でしか手に入らないわ。
まあ、神樹様を傷つける行為を、許すとは思えないけどね」
「世界樹でなくていいんだが、精霊樹で充分なんだけど」
「エルフにとっては、同じことよ」
リーフリットの説明に、俺は溜息をつく。
「ところで近くのエルフの里って、ドコ?」
「ここから、北東の山脈を越えた辺りかの」と龍王様。
「そういえば、エルフの森に手を出すと一族の報復が惨いんで、
人間が勝手に「自治領」にしたって、聞いたことがあるわ」
エルフの報復で、村一つ、町一つが皆殺しに遭うそうだ。
エルフの森を、鎮守の森と定め自治領にしているのは、西大陸の共通認識だそうだ。
「よりにもよって、自治領かぁ~」
俺は、溜息を付いた。
「自治領」といえば、国に自治を認められた領と思うかもしれないが、
この場合は意味が違う。
それならば、普通の貴族の領地と変わらない。
中世世界で、〇×自治領とか、〇☆自治都市と言われたら、
『独立国』のことを指す。
宗主国に、多額の献金と根回しをして、お金で勝ち取った独立だ。
国によっては、〇〇帝国都市、何て言ったりもするが内容は一緒。
小なりといえ他国、一地方領主が、国王の許可もなく勝手に訪問は出来ない。
「陛下に許可を貰うしかないかぁ~」
俺は、そっと溜息を付いた。
「道の駅」(仮)の会議が、今日も入れて3日後に迫っている。
エルフの里の件は、手続きにしろ、交渉にしろ、時間が掛かりそうだ。
取り合えず棚上げにして、目の前の案件に集中する事にした。
それから3日後、王宮の会議室で「道の駅」(仮)の会議が始まった。
ただ一人を除いて、皆、積極的に議論に参加した。
決まった事は、以下の通り。
拠点の設置距離は、基本20キロ間隔。
これは、利用者が荷馬車メインで、徒歩は少数。
徒歩は冒険者たちがメインだ。
これなら、さほど大きな問題には成らないだろうと、結論付けた。
今まで素通りされてきた小領の領主たちが、拠点設置に拘ったため
不具合が起きないように、地図上の陣取り合戦が、一番時間が掛かった。
次に問題となったのが、警備の件。
例えば、野盗に領境を越えて逃げられた時、
近くで襲われても他領の為、助けに行けない時、どうするか?と云う問題。
早馬に対する、替え馬の問題。
関税の問題は、案の定、皆、難色を示した。
理屈は判るが、現状現実的ではないとして、まず様子を見て、来年話し合うこととなった。
拠点の場所は大体決まり、警備と早馬への対応も含めて
また来週、話し合いが持たれる事に決まった。
俺は会議が終わったその足で、ミューゼル宰相を訪ねた。
事情を説明して、アルシード氏族の治める、エルフの里への訪問が許可された。
後日、国王の親書が渡される事となった。
親書を待っている間、俺たちはエルフの里に贈る贈答品を吟味していた。
正直、何を贈って良いのか、見当もつかない。
ここは、リーフリット先生の助言に素直に従った。
結局、王侯貴族に贈るものと大差なかった。
反物と食料品が若干多めなくらいだ。
翌日には親書が用意され、善は急げと、
アルシード氏族の治めるエルフの里へ向かった。
エストニア王国の王都と古都の間には、2つの山脈が並行して存在している。
その為、大都市を繋ぐ街道は3つに分かれる。
海岸沿いをゆく東海道。
山と山の間を通る中央道。
一旦、大きく北側に迂回して、国境に沿って通る北廻り街道。
アルシード氏族の治めるエルフの森は、
北廻り街道の南側と、山脈を背に広がる樹海の中にあった。
そして、今、俺とリーフリットは牢屋の中にいる。
何でコウナッタかと云えば・・・
強力な結界が張られた、エルフの森に入るため
リーフリットが、エルフ語で入国の許可を申請していた。
道が開き、導かれるまま、エルフの里に入った。
俺たちを待っていたのは、弓を構えた大勢のエルフたちだった。
敵意が無いことを伝えたが、聞き入れられず、
問答無用で牢屋の中に入れられた。
「どうなっているんだ」
俺は訳が分からない。
「どうやら、人攫いがあったみたい」と、リーフ。
「それで、俺たちが犯人だと。馬鹿げてる」
俺は悪態をついて、ハタと気が付いた。
「そもそも、こんな強力な結界があって人攫い何てできるか?}
「私も・・そう思うけどね」
リーフも納得いかないようだ。
普通に考えたら内部犯だよな。
その夜、俺たちは後ろに手を縛られ、エルフたちの待つ広場に引き出された。
色々と違和感を覚える。
場の持つ雰囲気は、尋問というより、リンチか処刑のような殺伐としたものだ。
身に覚えのない殺気を向けられるのは、気分の良いものではない。
(告、異質な魔力の流れがあります)
(そこは、何処だ)
脳内に広場の地図が映し出され、怪しい場所が赤く点滅している。
俺は、後ろ手に縛られたロープを引きちぎる。
Lv250越えを舐めるな。
ストレージから聖剣を取り出して、地図の示す赤い点目指して斬りかかる。
赤い点にいたのは、エルフの子供に見える。
俺は、躊躇わずに首を跳ねた。
どんな理由あれ、子供を殺す行為などあってはならない行為だ。
俺は、博愛主義者では無いと自覚している。
一瞬の躊躇いが、仲間を危険に晒すのは、経験上良く知っている。
そして今は、リーフリットに何かあれば、後悔しても仕切れない。
自分にとっての優先順位と覚悟の問題だ。
人でなしの殺人鬼、それでリーフを守れるなら、上等だ。
何を差し置いても、リーフリットは守らなければならない。
しかし、いきなり雰囲気が変化した。
ざわついている?・・戸惑った雰囲気だ。
死体を見ると、エルフではない魔族だ。
(告、世界樹の近くで、同じ魔の流れ)
俺は、地図に従って赤い点の方へ。
今度は魔族だ、世界樹の根元で、何かやろうとしている。
止めたいが、距離があって間に合わない。
そう感じた時、後ろから矢が飛んできて魔族の後頭部を射抜いた。
リーフリットも、文殊の情報を共有している。
GOOD JOB!!リーフリット。
魔族は手に持った小瓶を落とし、割れた小瓶から異臭のする液体が零れ落ち、世界樹の根に掛かる。
(告、毒物と断定、早急な解毒を依頼)
ストレージには、解毒ポーションが入っているが人間用だ。
(告、10倍に薄めれば使用可能。但し、毒の回りを遅らせる効果)
なら魔法か、第1職業を賢者に変えて、解毒魔法を試みる。
結果は失敗。
リーフリットが、バケツを持って走ってきた。
手持ちの解毒ポーションを薄めたようだ。
「アキュフェース、リーンを呼んで!!」
リーフリットは、バケツの水を根元に掛けながら言った。
里長を含む他のエルフたちは、何が起こっているのか、把握できていなかった。
俺は簡単に事情を説明して、一旦、森の結界の外に出させてもらった。
リーングランデに、念話で事情を説明して位置情報を送った。
リーングランデは、直ぐに転移魔法で駆けつけ、再び、エルフの里へ。
大聖女の癒し魔法「女神の息吹」で、
世界樹の解毒に成功して、前よりも元気になったと、里長がビックリしていた。
永らく姿を見せずにいた守護精霊が現れたことで、里はお祭り騒ぎとなった。
里長達に話を聞くと、何も覚えていないそうだ。
ついでに、人攫いの件も聞いてみた。
何の事だか分からないそうだ。
あれは結局・・・何だった。
俺たちは里に来た理由と、これまでの経緯を説明した。
「確かに・・そうなんだろう、夢の中でそのようなことをした気がする。」
里長はこう告げる。
「アルメニア伯、今回は世話になった。
お詫びに、神樹様の小枝とはいかないが、聖樹様の方を融通しよう。」
「聖樹さま?」
「精霊樹のことよ」リーフリットが、フォローする。
「不躾なお願いなのですが、聖樹さまの小枝3本、頂けないでしょうか。」
「何で3本?」とリーフリット。
「理由はあとで」
「それなら、私にも1本」とリーングランデ。
「それは構わん、里を救ってくれた恩人の頼みだ。無下には出来ん」と里長。
リーフリットが思案顔で、こう切り出す。
「今回の件、色々とおかしいよね」
「なぜ?」
「だって魔族が、神樹様の守るこの里に居たら、普通、間違いなく死んでる」
「どういう事?」
魔族の纏う気は、瘴気にかなり近い。
瘴気を浄化する精霊樹より、遥かに強力な世界樹の浄化作用で、
魔族は近づくことすらできない。
下手に近づけば、体内の気全て吸われ続けて、ミイラになるしかない。
魔族がこの里で、自由に行動で来ること、自体おかしいのだ。
「そう言われれば、確かに謎ね」とリーングランデ。
「魔道具とかの類じゃないのか」と俺。
「そんな物持っていなかったわ」とリーフリット。
「考えてみても、始まらん。取り敢えず、里の警備を強化するか」
里長の言葉で、この話題は打ち切りとなった。
しかし、その理屈だと、この周辺は魔物被害が極端に少なくないか?
あとで調べた結果、北廻り街道は、魔物被害の少ない街道で有名だった。
残念なことに、大きく迂回しなければならず、
古都への道が極端に遠回りのせいで、敬遠されているらしい。
この騒ぎですっかり忘れてた、国王の親書と友好の証の贈答品の山を差し出した。
その後、守護精霊の御厚意で世界樹の小枝を貰った。
俺とリーングランデは、エルフたちから栽培のレクチャーを受けた。
「つまり、苗木になったら、地脈の交点に植えれば良いんですね。」
そういうと、リーフリットとリーングランデは爆笑した。
なぜ?
笑いが収まると、リーフリットが解説した。
「あのね、地脈ってのは、地下水が流れる道のようなもので、竜脈とは別物よ。
地下に血管のように張り巡らされた霊的な流れが竜脈。
その交点が、竜穴」
「私たちは、霊脈と呼ぶけどね」とリーングランデ。
「わかった。ところでリーン。世界樹の苗木は何処に植えるの?」
「あのね、普通、神殿って、霊穴の上に建てられるものなの。
聖宮に戻れば、幾らでもあるわよ。
でも、これだけの大樹に育つのなら、外から見ても映える場所がいいわね。」
「俺は自領だな、残り2つは、東部と中部の分。」
「カシム君にあげるの?意外・・・」とリーフリット。
「違うぞ!!!中部と東部が俺の領になったら、自分で植える。
それまでストレージの肥やしだな」
「黒いわねぇ~」とリーングランデ。
「策でもあるの?」とリーフリット。
「何もしなくても、自滅するよ。
まず、カシムの領地の東部と中部は、無駄に広い。
甘い汁目的のドズルが、本腰を入れてテコ入れするとは思えない。
荒れ果てた領地を復興、開拓するんだ。
領民と一緒に汗を流す気概がないと、とても務まらない。
それに陛下の挙げた条件は、かなり厳しい。
東部と中部を合わせて最盛期の半分なんて、村や町をいくつ興したら、足りる?
10や20じゃあ、お話にならないだろうね。
資金はない、人手もないで、早々に自滅するって思ってるけど」
「あなた、やっぱり黒いわぁ~」とリーングランデ。
「心外な!!俺は、自分の領地を街道一の領地にするだけで、手一杯だ。
まず街道一の領地にして、王家直轄地となった東部と中部を、手柄をあげて返してもらう」
俺の決意の言葉に、ふたりとも呆れていた。なぜ?
「それに同じもの手にするのに、あいつさえ居なければと思うのと、俺があいつを越えてやると、思うのでは、まあ、どちらの道を選んでも、本人次第で、手に入ると思うけど、目的のものを手にした時、その後の結果って、違うものにならないか?」
「普段黒いくせに、時々、神官みたいな事を云うのね。」
失礼だな、リーン。
アルシド氏族の里長は、お礼の宴を開いてくれると言ったが
聖宮を抜け出してきた、リーングランデは、理由を言って帰っていった。
俺たちは、遠慮なく、申し出を受けた。
次の日、里長たちエルフに見送られて帰路に就いた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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