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第77話 想定内

 新しい代官ラルフ卿の就任パーティで、水害対策として堤の建設に人手と資金の一部負担を要求した。

 そしたら寝耳に水のこの提案に小領主たちは反発して、あーだこーだと言い訳を並べて拒否してきた。


「余りに予想通り過ぎて笑いしか無いな」

「根回しもしないで、いきなりの提案でしたから無理もないと思いますが」


 ラルフ卿の言葉に、まあ確かになとうなづいた。


「俺としては作業さえ邪魔されなければ、人手も資金もこちらで用意するから問題ない。不輸不入の権を行使して作業を妨害される事が嫌なだけだ」

「では河川沿いの領主たちに、作業の妨害しないように、通達を出しておきます。しかしなぜ、あの場でこの様な提案をされたのですか?こうなることは予想できたはずです」

「卿の言い分も判るが、素直に経費も人手もこちらが負担するからやらせてくれと云っても、詰まらない難癖を付けてくるだけだろう?」

「ええそうでしょうね」とラルフ卿がうなづく。

「それなら最初から一部分の負担を要求すれば、当然そっちに目が行くし、金も人手も負担しないのであれば、せめて作業の邪魔だけはするなと言えるだろう?」


 ラルフ卿は溜息を付いて


「それで納得してくれれば良いのですが・・・もしもこちらの通達を無視して、領民を使って妨害してきたらどうしますか?」

「川沿いの領主たちに最初に細々とした条件を書いた書面にサインしてもらうさ。それでも妨害してくるようなら、問答無用で暴徒を逮捕して国法に照らして裁けばいいだけの話だろ」


 俺はひと息次いで


「要は不輸不入の権を何とかしたいんだ」

「確かに領内での司法権はあちらに有りますから・・・領民をけしかけても御咎めなしというのも有り得ますね」

「侯爵相手に喧嘩を吹っかけて、流石にそれは無いだろうが。表向き妥当な刑を言い渡しても、執行した振りだけして虚偽報告をするか、のらりくらりと時間稼ぎをして、執行されない可能性は充分あるだろうな」


 ラルフ卿も得心が行った様子だ。

 俺は工事中の間だけでも向こうの司法権、出来れば警察権ももぎ取りたいのだ。


「ねえ土地持ちの騎士爵って、どの程度のものなの?」


 珍しく公務に同行したリーフリットが素朴な疑問を云う。


「最下級の騎士なら、農民と変わらない」

「はい???」

「主君から畑を貰って、自分で耕す」

「貧乏な騎士じゃなくて普通の騎士の話」


 訊きたい事をはぐらかされて、リーフリットは少しおかんむりだ。


「王侯貴族も騎士だからピンキリだけど。騎士爵の括りなら80石程度の村一つ所有するのが一般的かな。なかには3000石以上所有する者もいるけど、そんなのは(王侯貴族を除いた)騎士爵全体で見ても、ほんの数パーセントでしかない。それから身分制度が絶対だった中世ヨーロッパや、この世界でも同じだけれど、基本的に平民は騎士にはなれない」

「でもあなた、騎士になったじゃない」

「俺の場合は例外中の例外」


 異世界勇者は特別なの。

 飽くまでこの国の基準で説明した。

 異世界だから、プロイセン王国とは事情が違うし・・・


「今あなたが頭を抱えている地主貴族ユンカーが、3000石以上の騎士爵って理解で良いの?」

「その理解で間違いないよ。問題は不輸不入の権で立法権と司法権が認められてる事なんだ。ついでに言えば貴族に比べて圧倒的に数が多いのも問題。うちでは大した影響がないけど、中央や他の領地では、地主貴族ユンカーの息の掛かった子弟や部下が官僚になったり、領官になって国政や領地経営に少なからず影響力を与えている・・・というよりも、数の暴力で国政や領地経営が牛耳られる懸念もある」


 まだこの国では、そこまで酷くは無いし表面化していないが、代議士院と連携されると厄介なのは事実だ。

 今のうちに悪い芽は摘んでおきたい・・・本音として。

 

 リーフリット、少し考えて


「それで徴税権と行政権は?それと警察権は?」

「もちろん認められている。不輸不入の権を盾にとられると、主君といえども臣下の領地の内政には口出しできない」


 俺は紅茶を一口飲んでのどを潤す。

 紅茶よりコーヒー党の俺としては、こういう時につくづくコーヒーが欲しいと思ってしまう。

 仕事に追われてまだ行けてない、シャー・アズールに思いを馳せる。

 砂漠の国だからモカとは言わないけど、キリマンジャロがあったらいいな。

 ブルーマウンテンより、モカやキリマンジャロの方が好きだから。

 ・・・キリマン、モカも良いけど、サントスも捨てがたい。


「実際この地域では、5年前だか10年前に河川の氾濫で甚大な被害が出ている。早急にやらないといけない事なのだが、新参者の侯爵に勝手にされるのは気に入らない連中ばかりの様だ、妨害工作が予想できるだろう」

「それでもやらないといけないのよね」


 少しウンザリした顔で、リーフリットは溜息を付く。


「一番の問題は、暴徒を捕まえても裁判権が向こうにある事だ、主君といえども口出し出来ない事になるんだ。明確に領主が黒幕だと云う証拠でもない限り、こちらで手出しが出来ない」


 なかなか笑える状況だろうとお道化て見せる。


「だから最初に念書を書かせるわけですね」とラルフ卿。

「その理解で良い。念書があれば、それを盾に押し切れるし、仮に妨害されてもこちらのこちらの権限で対処できる」


 これで、波風立てずに作業出来れば、それでよし、何だけどな~


 

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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