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第74話 二の太刀要らずのアルゼイド

数字が伸びないのはタイトルが悪いから?と思い、タイトルの変更をしました。

悪いのはタイトルだけと思いたい。

 陛下との謁見から約ひと月、領都グランバニアに新任の代官が挨拶に訪れた。


「お初にお目にかかります、アルメニア侯爵閣下。

 国王陛下よりバーテンロイドの代官を拝命いたしました、ラルフ・フォン・アルゼイドと申します。一応陛下より法衣ですが、男爵の地位を頂いております。

 この度は身に余る大役を頂き、非才な身なれど全身全霊で務めさせていただきます」


 20歳代半ば金髪碧眼の好青年の印象だ。


「こちらこそ、お初にお目にかかるアルメニアのアキュフェースだ。

 アルメニアを盛り立てる新たな仲間として、私はラルフ卿の代官就任を歓迎する。

 ・・それから私に閣下呼びは不要だ。閣下呼びが許されるのは公爵のみだ。

 後は将軍と宮廷伯(大臣)ぐらいなものだろう?

 俺はまだ閣下呼びされる立場に至っていない」


 侯爵以下はLORDで呼ぶのが普通だ。

 まあ総督の地位にあるから、閣下呼びされても可笑しくないが・・・

 総督なんて完全な名誉職で、大した権限があるわけじゃない。

 日本の戦国時代の武家官位みたいなもので、箔が付くだけのものだ。


 実際、下手な総督位よりも寄り親・寄子の方が実用的だし、影響力もある。


 まあ閣下呼びされる立場には興味がないけどね。

 俺は笑顔で握手を求めラルフはそれに応じる。


「宜しくお願い致します、御屋形様」


 全く国王陛下や宰相閣下には感謝だ、毎回いい人材を見つけてくれる、東の代官ヘルマン、西の代官ヨアヒム、何といっても家宰のセドリックだ、感謝しても仕切れない。


 ・・・あれ??


 俺は気になってラルフに尋ねる。


「ラルフ卿・・もしかしてアルゼイド流に連なる者か?」


「分家の身ではありますが、一応名を連ねております。

 父は前宗家の三男にあたりますから。今の宗家は伯父になります」


 俺は興奮して思わず、是非技を見てみたいと云っていた。


「まだまだ修行の身、未熟な剣で良ければ・・・」


 ラルフはそう答えてくれた。


『二の太刀要らずのアルゼイド』

 

 開祖は、ミハエル・フォン・アルゼイド伯爵。

 当時は猛将として、無敵の豪傑として存在自体が『理不尽』と言わしめ、大陸にその名を轟かせた人物だ。

 生涯十度の戦に参加して、不利な戦も含めて参加した戦は、生涯負けなし。

 残された資料を見ても、なぜ勝てた??と思うものまで含めてである。

 正直、この戦歴、頭おかしいだろ!!と言いたくなるレベルのものだ。

 話を聞く限り、呂布や項羽のようなタイプの豪傑タイプで、もしも戦場で遭ったのなら、即逃げを選択するのが唯一の生き残る道だ。


 その存在、異世界版の示現流???

 二の太刀要らず、この言葉が示す通り、剛剣として恐れられている流派だ。

 もしアルゼイド流の剣士と事を構えたら


『逃げるか、初撃は絶対にかわせ!!間違っても受けるな!!!』


 これが他流派共通の合言葉だ。

 下手に受けると、剣は砕かれ、首と胴は泣き別れになる、それだけならまだ良い、魔術師が撃った魔法さえぶった斬る、与太話と思うけど、ドラゴンのブレスでさえ叩き斬ったとか・・いずれにせよ理不尽極まりない剣術、それがアルゼイド流だ。


 幸か不幸か、アルゼイド流を修めるには特殊な才能がいるらしく、修める者の数がかなり少ないのが良い事なのか悪い事なのか、判断に迷う処だ。


 基本的に剣術は、王宮騎士団の剣術が基本になる。

 騎士・貴族の子息が最初に倣うのが、王宮騎士団の剣術だ。

 それを修めた騎士が更に上を目指して、各流派の門を叩く。

 転職システムが導入されて、これがどう影響するか、分からないが・・・


 この国には、三大流派が存在する。

 一つ目は、先に述べた剛剣アルゼイド流。

 

 二つ目は、三代目勇者ハヤト・ジングウジが開祖の神宮寺流、一般的には聖剣流の呼び名の方が通りが良い。

 勇者の技は勇者しか使えない。

 それを威力を落として、誰にでも使えるようにしたのが、神宮寺流だ。

 勇者の技の下位劣化版と云っても、使い勝手が良く、結構強力だ。

 それに技の一つ一つが派手で見栄えも良いのだ。

 攻守共に優れたバランスの良い流派だ。

 その為、勇者が開祖ということもあって、一番人気で、ここからの派生流派も数多い。

 特にアンデットに強い破魔の剣技、ホーリーフラッシュ。

 それと勇者の必殺技ギガ・ブレイクやライディーン・ストラシュの下位劣化版のライトニング・ブレイクは門下生人気の技で、修めている騎士も数多い。

 

 三つ目は、渾神一刀流。

 開祖はルーウェイン・フォン・セイフォード子爵。

 騎士から子爵に上り詰めた人物で、代々王族の剣術指南役を務めている。

 堅い防御とカウンター技に特化しているのが特徴だ。


 攻めのアルゼイド、バランス型の良い神宮寺流、守りの渾身一刀流。


 それから余談だが、アルゼイド伯爵家は軍閥貴族だ。

 当代宗家のウリエル・フォン・アルゼイド伯爵は、軍務伯(陸軍大臣)の地位にある。

 三十歳代半ばの長男のラファエル卿も千人隊長だと記憶している。

 将軍まであと二つ、千人隊長→陸将補→将軍

 いくら親の七光りでも、30代で将軍に王手をかけられるのは、早すぎる。

 ・・・流石、軍閥アルゼイド伯爵家。

 跡取りのラファエル卿も超優秀なのだろう。


 ここで常備軍である王国軍と騎士団の違いについて。

 いざ鎌倉!! となれば戦争に動員されるのは、どちらも一緒。

 常備軍である王国軍は、国防と災害派遣に重点が置かれていて、対する騎士団は王宮の警護、治安維持に重点が置かれている、警察業務に重点が置かれているのが騎士団だ。

 国軍は、国王直属で王国軍の総帥権は国王にあるが、間に軍務伯や将軍が入るから直属感は薄れる。

 緊急時なら御前会議の閣議決定で王国軍の派遣は決まるが、普通は議会の承認の後、閣議決定されるのが普通だ。

 国王といえど自分の意志だけで軍を動かす事が出来ないのだ。

 国王が自分の意志で自由に動かせるのは、騎士団の方。

 それから賦役を伴わない小さな道路の補修や簡単な橋の修理や治水作業などは、王国軍、騎士団共にやるから、意外と人数が必要だったりする。

 飽くまで補修工事は国王直轄地の話になるが、貴族領の場合は、領内の私兵、騎士団、領邦軍の仕事になる。



            **********



 早速、ラルフと一緒に練武場に来た。

 剛剣アルゼイド流を生で見せてもらう為だ。

 折角だから海軍とグランバニアにいる騎士たちも集めての見学会だ。


「御屋形様・・やけにギャラリーが多いと思うのですが・・・」


「俺が呼んだ、アルゼイド流を見られるチャンスなんて滅多にないからね」


「まあ構いませんが・・少し緊張しますね」


「普段通りで構わない。俺たちは初めて見る剣技だ。多少のミスくらい気付かないさ」


 ラルフは乾いた笑いの後、気合を入れた。


「では、始めます。

 アルゼイド流中伝ラルフ・フォン・アルゼイド。

 アルゼイド流一の太刀・斬鉄」


 ラルフは体中、木剣の先まで気を巡らし、上段から振り下ろす。

 ゴォ~という風切り音と鋭い斬撃が振り下ろされる。


「二の太刀・飛燕」


 アレ?


 俺はラルフが飛燕を決めた処で、ストップをかけた。

 いきなりストップをかけられたラルフは、キョトンとしている。

 俺は騎士団長のフランツを呼び寄せた。


「フランツ、悪いが・・」


「判りました。ラルフ卿にバトルマスターの技を見せれば良いのですね?」


「話が速くて助かる。そうしてくれ」


 フランツは木剣に気を巡らせ、バトルマスターの技に入る。


「まずはソードブレイク」


 上段から木剣を振り下ろす。


「次はスイングアロー」


 横殴りの剣筋から、剣戟を飛ばす。


「次はダブルチェイサー」


 目にも止まらぬ二段斬りを披露して、次々と技を披露してゆく。

 そして最後。


「フランツ、俺が魔法を撃つで良いな?」


 俺が問いかけると


「構いません。何なら極大魔法でも構いませんよ」とフランツが返す。


「・・抜かせ」


 俺は苦笑して、ファイヤーボールを撃つ。


「マジックブレイク」


 フランツはファイヤーボールを真っ二つに粉砕した。


「ラルフ卿、今見せたのがバトルマスターの技だが・・・

 似ていると思わないか?」


 俺が問うとラルフ卿は首を横に振る。


「よく似ていますが、似て非なるモノ・・別物です。

 アルゼイド流の中伝までの代表的な技を、よく再現していますが・・・

 失礼な事を申し上げるが、アルゼイドによく似た紛い物です」


 エストニア王国の武の世界では、最凶と呼び声も高いアルゼイド流、その現役中伝伝承者の言葉は重く、場は重苦しい空気に包まれる。


「御屋形様、私に魔法を撃ってみてください」


 俺は言われるまま、ファイヤーボールをラルフ卿に撃つ。


「流星斬り」


 ラルフ卿は、ファイヤーボールをスパッと斬った。

 一目瞭然だ。

 余りの見事さに、周囲の雑音が消える。

 フランツの方が、力任せに斬ったと云うより粉砕した印象になる。

 同じ魔法を斬る技でも、ラルフ卿の方が洗練されているように見える。


「アルゼイド流は、初撃に全てを賭けます。

 これが躱されたら後がないくらいの覚悟を剣に込めます。

 一撃にかける覚悟の面で違います。

 それとフランツ卿は、剣のみに気を纏わせていましたが、アルゼイド流では剣だけでなく全身に気を巡らせ纏います。

 その違いが結果になっていると思いますが・・・」


 恐らくラルフ卿の言っているのは『全身周天』の事だろう。

 仙道気功法の気の練り方の一つだ。

 小周天、全身周天、大周天、後ろに来るほど難易度が増す。


 ・・全身に気を巡らせるだけで良いなら、これで良くないか?


「フランツ、まず簡易太極拳を行って、その後に全身に気を巡らせて、もう一度やってみてくれないか?」


「・・面倒ですが、承りましょう」


 フランツは簡易太極拳を行い、全身に気を巡らせて、全身に気を通し易くする。

 木剣を持ち木剣にも気を通す。

 全身に気を巡らせた状態で、最初のソードブレイクを放つ。

 ラルフ卿の驚いた顔が見れたと思ったら、すぐに顔を引き締めた。

 

 フランツは自分の手元を見て「なるほど・・・」と呟いた。


 スイングアロー、ダブルチェイサーと技を進めてゆく。

 最後のマジックブレイク、ラルフ卿の剣技には及ばなかったが、それに近い結果を出せた。

 最初にしては上出来だろう。


 これでハッキリした、バトルマスターの剣技には、まだ上がある!!!

 転職システムが武の全てじゃない。

 転職システムは扱いやすい技を体系化したものにすぎない事が、はからずも証明されてしまった。

 武の世界にまだ先がある、その事実が嬉しくて、ワクワクさせた。


「ラルフ卿、宗家のウリエル軍務伯閣下を紹介して欲しい。

 まだこの上があるのなら、アルゼイド流に入門して武の極みに挑戦したい。

 ウリエル卿に繋ぎを取って欲しいのだが」


 その言葉を聞いて、騎士団長のフランツと海軍副指令のフェリペが同時に反応した。


「待ってください侯爵、貴方の立場でそれはない。

 貴方のすべきことは、領地の復興であって、武を極める事ではないはずだ。

 入門するなら騎士団長の私の方が先だ。1年間の休暇を申請します」とフランツ。


「入門するなら私が先だ。

 ガーネットの補佐ならサマンサに任せれば何とかなる。

 こいつより先に休みをください」とフェリペ。


「お前らの立場で許可できるわけないだろう。

 お前等こそ陸海の柱じゃないか」と俺。


 フランツは騎士団長、フェリペは海軍副指令。

 お前らの立場で一年も休暇なんて・・出せる道理が無いだろうに。

 ・・まだシャー・アズールにさえ行けてない、纏まった休み、俺が欲しいよ。


「はぁ~随分と舐められたものですね。

 アルゼイドの上伝、奥儀と呼べる奥伝が、高々一年やそこらで、修められる訳ないでしょう。随分安く見られたものです」


 ラルフ卿は、気分を害した様だ。

 分家とはいえ、宗家直系に近い家柄で、最強の剣術であるアルゼイド流を誇りに、幼い頃より修練に励んできたのに、不用意な言葉で、己の矜持とプライドを傷つけられた気分なのだろう。

 俺はスグにフォローに入る。


「アイツ等だって馬鹿にして言ったんじゃない。

 二人とも軍を指揮する立場だ。

 今の地位を捨てたくないが、アルゼイド流も極めたい。

 そんな葛藤が一年という言葉になっただけだと思うよ。

 決してアルゼイド流を甘く視た訳でも、侮ったわけでもない。

 気分を悪くしたのなら、正式に謝罪する。済まなかった」


 ラルフ卿の方も喧嘩を売りたい訳じゃない。

 傷つけられたプライドに、納得できる落し処があれば良いのだ。


「まあそう云う事なら・・」ラルフ卿も矛を収めてくれた。


「まあいくら何でも、一年はムチャだ」俺がそう言うと。


「一年半で奥伝まで行った化け物もいますが、あれは例外中の例外でしょう」


 ラルフ卿の言葉に少し感心して、それが誰なのか訊いた。


「第二近衛騎士団の団長、剣聖ナイトハルト卿です。

 確かあの方、神宮寺流も奥伝持っていますから、この国唯一の二つの奥伝持ちでしょう」


 ナイトハルト、お前もかぁ!!!

 俺が領地経営で苦労している間に・・

 俺が休み返上で頑張ってるときに・・・何とも友達がいのない。

 そんな面白そうな事してるなら、友達なら俺も誘えよ。

 心からそう思った。  

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