第73話 この身は常に騎士であれ
新たな街バーテンロイドの賑わいも一段落して、手つかずだった旧シルバニッヒ伯爵領の領都の再開発を始めようとした矢先、王都からの呼び出しをくらい、今登城している。
国王の執務室に通され、最近怒られる様な事はしていないと確認する。
「アルメニアのアキュフェース、御下命により参上致しました」
俺は臣下の礼をする。
「わざわざすまんな。実は貴公に確認したい事があって呼んだ。
聞けば新しい街を造ったそうだが、代官はどうしている?」
「今は財務部から出向してもらって代官代理をやらせています。
事態が落ち着いたら、良さそうな人材をお願いするつもりでした。
優秀な人材でも平民では、大地主たちの抑えが効きませんから」
今回新たな領地を貰って頭の痛い問題は、アルメニア州では居なかった『領地持ちの準貴族』の問題だ。
地主貴族、騎士、大地主の存在だ。
こいつらが地元で幅を利かせて、領主の命令も不輸不入の権を盾に、なかなかいう事を聞かない。正直、滅ぼしてやろうかと思うくらい、ストレスが溜まる。
「新たな代官は至急手配しよう」
「ご配慮感謝致します」
「それから貴公の家宰のセドリックの件だが、『子爵』までなら名乗るのを許そう」
「重ね重ねご配慮感謝いたします」
任じるのではなく・・・名乗るのを許す・・ですか・・
『任じる』のと『名乗るのを許す』の間には大きな違いがある。
『任じる』場合、国王の直臣で、領地または俸禄が保障される。
『名乗るのを許す』場合は、俺の直臣であっても、国王にとっては陪臣でしかない。
爵位を名乗る名誉はやるが、領地なり俸禄なりは、俺に面倒を見ろと云うことだ。
それについては俺に異存はない、ただ微妙にけち臭いと感じるだけだ。
それと同じ爵位でも、国王の直臣か陪臣かで、重みも多少変わってくる。
取り敢えずセドリックには『法衣の男爵』を贈ろうと思う。
本当は一代限りの名誉男爵にしたかったが、東西の代官、ヨアヒムとヘルマンは法衣の男爵だ。
法衣貴族から次代の相続が認められる。
代官が法衣の男爵で家宰のセドリックが名誉男爵なのは、やっぱりおかしい。
領地の中央集権化を目指す俺としては、爵位の乱発はしたくない。
次代の家宰がセドリックの息子とは限らないし・・
中央集権化の障害はなるべく排除しておきたいのだ。
法衣貴族ならコントロールが効くが、多くなりすぎると財政を圧迫する。
下手に荘園を与えると、荘園内のライフラインは小領主持ちになるので、俺が負担しなくて済む分、お財布には優しいが、何をやるにも不輸不入の権が邪魔になる。
武田信玄にしろ上杉謙信にしろ、反抗的な国人領主に悩まされたのだから、俺程度がスパッと解決できると思うほうが、図々しい話かもしれないが・・・
地主貴族にしろ騎士にしろ、素直に言う事を利かすのが難しい。
現に旧シルバニッヒ伯爵領の準貴族の扱いに悩まされている。
アルメニア州は復興の途中、復興が済み領内が安定したら、長年の功績に対して子爵位をセドリックに贈るのがいいかもしれない。
「処でセドリックは、宮廷儀礼や社交ダンスは大丈夫か?」
「王宮の執事長の子息です。問題ないと申し上げます」
王様の問いに宰相が答える。
「では、剣はどうか?」
「「・・・・・・・」」宰相は無言で、それは俺も分からない。
その様子を見て王様はため息交じりに聞いてきた。
「アキュフェース、其方領内で騎士の叙勲をしている様だが、その者たち宮廷儀礼やテーブルマナー、社交ダンスは大丈夫か?」
その問いに顔は青ざめ、変な汗が止まらない。
正直、隊長を選ぶ時、部下に舐められない様に騎士に任じて格付けしただけで、深く考えての事ではない。
宮廷儀礼やテーブルマナー、社交ダンスなんて全く考えていなかった。
騎士なら当然身に付けていて当たり前の事だった。
騎士爵ともなれば、他の土地の有力者や下級貴族からパーティーに呼ばれる事もあるだろう。
ましてや復興の途中と云いながら、アルメニア州は外から見れば凄く栄えている様に見える。
その領の騎士ともなれば、将来を見込んで商人や小領の騎士や貴族などが、縁繋ぎで接近する可能性がある事をすっかり失念していた。
その時、宮廷儀礼やテーブルマナー、社交ダンスが出来なければ、恥をかくのは俺の部下である騎士たちだ。
そしてそれは俺自身も、とても怪しい。
今は領地の復興を盾に、社交パーティーは免除してもらっているが、いつまでも、という訳にはいかない。
「申し訳ございません。陛下に指摘されるまで失念しておりました」
俺は素直に詫びる。
「『この身は常に騎士であれ』これはこの国だけでなく、西大陸共通の理念だ。
騎士道に則った勇敢な戦士である事、正義を貫く事、女性を始めとする弱者に対して盾であり剣である事、主君に対して忠義の士である事、深い教養と礼節を重んじる紳士であり事。
王であれ貴族であれ、常に騎士である事が求められる。
7歳より騎士修行が始まり、騎士の叙勲を受けられない者は、王子であれ貴族の嫡男であれ、家督を継ぐ事が許されない。
騎士で無い者には、王位も爵位も継ぐ資格がないのが現実だ。
ついでに言えば、縁談すらもやってこない」
なかなか厳しい現実だ。騎士で無いなら、そのまま負け組。
日本の武士道と同様に理想論であり、騎士道だって形骸化している。
でなければ、クズ貴族がこうも繁殖していない。
しかし、何事にも建前は必要だ。
「三大公の教育係で既にお世話になっておりますが、もう少し人数を増やして頂けないでしょうか?」
「其方ならそう言うと思って、既に手配しておる」
「ご配慮いただきありがとうございます」
今日の王様、名君に見える。
「でもそう云う事なら騎士学校があれば良いと思いますね」
「「騎士学校??」」王様と宰相が同時に反応した。
俺が何気なく言った言葉に反応したけど・・驚くようなことか?
「アキュフェース、何かあるなら申せ」
「ただの思い付きに過ぎませんが、申し上げます。
お話の感じだと、騎士の子息が主家に騎士修行に行くで間違いありませんか?」
「それで間違いない」宰相が答える。
「そうなると教育方針も求められるレベルも主家によってバラバラになります。
王立の騎士学校があれば、騎士教育の方針、求められるレベルを水準以上に保てます。
全国5~6か所に造って、騎士爵の以上の子弟は強制的に入学させ、全寮制にすれば、求めるレベルの騎士が教育出来ると思ったのですが。
無事卒業出来れば、正式に王家が認めた騎士ということです。
これ以上の権威はありません。
何といっても、優秀な人材を王都に居ながら把握できる。
勿論優秀な人材は王宮騎士団や官僚として雇っても良いわけです。
特に見落としがちな次男三男の就職に一役買えると思ったのですが」
「それだと全寮制という閉ざされた空間で、派閥争いや陰湿なイジメのような温床になりはしないか?」
「上位の貴族の子弟が下位の爵位の子弟を、実家の権力と権勢を盾に私刑にする。
可能性はあると思いますし、その手の問題は無くならないと思います。
しかし、問題のないレベルにする事はできるはずです。
大事なのは、大貴族の干渉に会わない様にする事と、騎士を目指す女生徒の保護でしょうか。
女系家族で騎士の婿を取るより、我が子に家督を譲りたいと願うのは親心ですから。
そうなると、卒業をエサに関係を迫る教師とか、実家の大貴族の威を借りたバカ息子が愛人関係を迫るケースもありそうですからね。
それに大貴族の威光が反映されてたら、不正の温床になって、本来の理念も廃れて、元も子も有りませんから」
宰相の懸念に俺はこう返した。
「確かに懸念材料は多いが、一考の余地がある」
王様はそう言うと宰相と二言三言言葉を交わた。
どうやら官僚に検討させるらしい。
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領都グランバニアに帰った俺は、領内の陸海含めた直属の騎士に通達を出した。
当然、旧シルバニッヒ伯爵領の騎士たちは含まれない。
隊長候補を選ぶようにと、それから隊長候補は騎士見習いの地位にして、王都から教師が来たら、必ず宮廷儀礼、テーブルマナー、社交ダンスの講習を絶対受ける様に通達を出した。
勿論、俺もリーフリットやアイシャと一緒に講習は受けます。
家宰のセドリックの補佐官を増員して、セドリックには剣の稽古をつける事にした。
月に一度のシスアの森の合同演習も参加で。
この身は常に騎士であれ
この理念からすると、セドリックだって剣が出来なきゃ、話にならない。
せめて自分で自分を守れるくらいにはなって欲しい。
この身は常に騎士であれ・・か。
俺は、この身が常に勇者だったろうか・・何となく反省させられる話だ。
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
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