第72話 新たな領地 物流の十字路 ②
バーデンブルク州の旧シルバニッヒ伯爵領の領都の中に入ると、出迎えたのは王宮騎士たちだった。
考えてみれば当然の結果か。
グズ貴族の命令で悪事に加担した者も多くいる。
証拠を押収して大量の害虫退治をしたのは良いが、人手不足に陥り、治安維持の為、王宮騎士団も帰るに帰れない状況だ。
それならそうと連絡の一つもくれればいいのに・・・
何も連絡が無かったから、自由気ままにやり過ぎました。
王宮騎士団隊長と引継ぎの話し合いを行った。
1週間後、正式に引継ぎが行われる事となった。
それまでに転移魔法を駆使して、取り敢えず頭数を揃える事にする。
軍を再編したりするから、移動時間も込みで1ヶ月欲しかったが、早く帰りたい王宮騎士団は1週間というムチャぶりをしてきたのだ。
細かい調整は後にして、頭数を揃えれば・・何とかなるか。
しかし、こんなムチャぶりするなら、連絡くらいしろよと思ったが、事を荒立てるのは本意で無い為、普通なら断るが、出来る範囲なので快く了承した。
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まず俺がやったのは、旧シルバニッヒ伯爵領の領都の領民を集め、数回に分けて新しい宿場町に転移した。
新しい街への移住希望者を募集する為だ。
俺は中央道と新しく整備した街道の十字路に立ち、この街の利便性を説明する。
正しくここが、物流の十字路になる場所だ。
これがシルクロードのように民族の十字路と云えれば、カッコイイのに・・・
「もうずぐトンネル工事が終わり、トンネルが開通する。
このトンネルを抜ければ、アルメニア東部の支城府ザルツブルクと繋がっている。
この道から多くの塩、海産物が王都を経由しないで運ばれてくる。
諸君!この地の利便性が抜群に上がる!!!
ここが中央道の商業の中心地になるのは、疑いようもない。
この中にはゲズ貴族のせいで、忌まわしい記憶に苦しむ者もいるだろう。
今も苦しむ者には無慈悲かもしれないが、過去を悔やんでも何も生まない。
忌まわしい過去に思い悩むより、新たに建設されたこの地で、新たな一歩を踏み出してみないか」
結果は予想通り、賛成2割、良い話だけど・・先立つものがと云う経済的理由や他の理由で態度保留が6割、生まれ育った町を離れたくないが2割。
俺は賛同者の中から5人選び、一緒に旧シルバニッヒ伯爵領の領都まで転移した。
各自の家を案内させ5人の家を次々にストレージに収納する。
「御領主様~一体、何をしただぁ~」驚きの余り5人は腰を抜かして訛りだす。
「さあ、行こうか」俺は笑顔でそう言うと、5人を連れて新たな街に転移する。
下町エリアの希望の場所に、ストレージから家を取り出し、次々と設置してゆく。
ここに連れて来られた領民は、呆気にとらわれている。
「今なら無料で移住希望者は、俺のストレージで家ごと引越し出来る。
希望者はいないか?」
現金なもので、引っ越し費用が掛からないと聞いて、それまで態度保留を決めていた者たちが、次々とここへの移住を申し出た。
「その前にこの中に借家住まいの者はいるか?」
その問いに半分近くが手を上げる。
「借家住まいの者には、仮設住宅を建てる。
最低限住むには困らない様にしよう。
ただし、資金が溜って建替えたい時は、個人でやって欲しい」
そう言うと、まず持ち家組から作業を開始する。
何のかんので1週間。
取り敢えず王宮騎士団との警備の引継ぎを終え、やっと持ち家組の転居が終わった。
次は仮設住宅の設置だ。
団地スタイルも考えたが、木造一軒家のスタイルにした。
その方が、後で固定資産税が取れるし・・住居費用は無料でも、税金まで無料じゃない。
とは言え、払えない額では意味が無いので、月に1万ミラ位を予定している、家賃を払うよりお得なはずだ。
仮設住宅は四人家族を想定している。
リビングダイニング16畳に、8畳間の部屋1つ、6畳の部屋2つ。
トイレは、実験的に肥溜め槽から肥溜め槽にドリルのような撹拌機を仕込み、肥溜め槽にはおがくずを便器近くまで満たして、バイオ酵素を入れてよく攪拌する。
これは富士山などの高い場所にある山小屋のような、水の使えない場所でのトイレで、実際に行われている方法だ。
用便を済ました後、撹拌機を回す、後はおがくずとバイオ酵素が尿や便を発酵分解して臭わない様にするそうだ。
これなら後々堆肥にもなりそうだし、下手に水洗にするよりお得感を感じたので、この街がトイレ実験第1号だ。
それから昔ながらの薪で沸かすお風呂、当然手押しポンプを台所とお風呂場に引き込んであるので、お風呂を沸かす手間は軽減されると思う。
物置小屋は野外になる。
それから仮設住宅は、石造りではなく木造住宅だ。
安普請ではあるが、家族4人で暮らすには困らないと思う。
これは飽くまで、新規移住の優遇措置だ。
新規移住が一段落したら、後から来る移住希望者は自費でやって欲しい。
とは言え、着の身着のままで来る者が無いとは言えず、予備の仮設住宅も造る。
同じ規格の家をどんどん量産してゆく。
入居世帯数+予備10軒。
旧シルバニッヒ伯爵領の領都の領民の半分が移住したのは、まずまずの出だしだ。
予想では2割、良くて3割と思っていたので、嬉しい誤算だ。
そして街の名もバーデンブルク州から名を取って『バーデンロイド』にした。
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トンネルも開通して、多くの商人が、新たなビジネスチャンスを求めて、この地を訪れる。
南北に繋ぐ新たな街道を『塩街道』と名付けた。
しかし領民からは『干物街道』の方が通りが良い・・・何故だ?
ともあれバーデンロイドの誘致は順調だ。
目抜き通りは、商業ギルド、冒険者ギルド、宿屋、大商会の支店などで、すぐに埋まった。
我がアルメニア商会は、中央道と干物街道の十字路、1等地の角目を確保した。
そしてアルメニア商会バーデンロイド支店の目玉は『生鮮魚介類』だ。
魔道製氷機を造って、木箱に氷を仕込み、麻袋や布を巻き付けた鮮魚をおがくずで覆う。
ザルツブルクとバーデンロイドの距離なら、急行馬車で間に合うし、生鮮食品はアルメニア州よりも3割ほど高めになるが、これが飛ぶように売れる。
山国の魚への執念・・恐れ入る。
海アリ州の人間としては、魚の刺身なんて喰いなれているし、むしろ馬肉の刺身の方がありがたいくらいだ。・・・きっと隣の芝生は青いのだろうと思う。
干物街道の名前が示す通り、魚の干物が異常に売れる。
ザルツブルクだけでは対応できなくて、領都グランバニアや西の支城府リーフリンクから大量の干物が輸送される。
俺は領主になったリーフリンクの時代から、鮭の放流を続けている。
勿論、グランバニアでもザルツブルクでもだ。
時機はまだ先だが、新巻鮭とスモークサーモン。
どちらが売れるか、今から楽しみだ。
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