第71話 新たな領地、物流の十字路
「ダメです!!了承できません!!!」
いつも温厚な家宰のセドリックが珍しく声を荒げている。
「これはセドリック卿の方が正しい。御屋形様、いい加減折れては如何ですか?」
執事のバトラーまで、そんな事を言う。
「たかが新領地の視察だろう。馬車も護衛もいらないよ。大体、飛翔魔法が使えるのだから山越えして、チョット見てくるだけだろう」
「何事も最初が肝心です。そんな事では舐められます」
「でもな~王都まで馬車に揺られて、それから中央道は長すぎない?」
普段、転移魔法と飛翔魔法で移動している身としては、苦痛でしかない。
王都に屋敷を構えていないのも、転移魔法が使える身としては、経費の無駄にしか思えないから。
まして中央の権力闘争には、まったく魅力を感じないのと、領地経営で手一杯という事情もある。
今は領地復興の途中で、社交界への参加が出来る程余裕がない。
これを理由に社交界は免除されているが、いよいよ言い訳が効かなくなった時、王都の屋敷も検討すれば良いと思っている。
転移魔法が使える身としては、新領地まで馬車と護衛・・時間と経費の無駄にしか思えない。
そんなやり取りをしてヒラメイタ。
「道が無いなら、トンネルを掘ればいいんじゃない」
マリーアントワネット張りに、悪役令嬢ぽく言ってみたが、キョトンとされただけだった。
実際は後世の創作で本人は言っていないそうだが、~お菓子を食べれば良いんじゃないのパロディーだったが、通じなかったのは残念だ。
3000メートル級山脈と云っても、峰の厚みの薄い処を彫れば4~5キロ掘ればいける気がした。
トンネルが開通して道路を整備すれば、飛び地まで回り道をしなくて済むし、物流が活性化して我が領は潤う。
思い立ったが吉日。
二人を置き去りにして、東部へ転移した。
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早速飛翔魔法で、トンネル予定地を探す。
条件は東部の村を繋ぐ道から極端に外れていない事、堀勧めた先に道がある事。
文殊と解析しながら候補地を探す。
良い場所、発見。ここをトンネル予定地とする。
文殊の見立てでは3キロも掘ればOKとの事。
後は地味に土魔法でトンネルを掘る。
100メートルも掘った処で、転移門の設置を思い付く。
しかし、この案はすぐに却下。
今はまだテニオン神国とダークエルフの村を繋いでいるだけで、バレた処で古代遺物でこれしかないと言い訳できる。
今でさえ王都が強いのに、転移門なんかが普及したら、街道の利益で飯が食えている家も含めて、各地の貴族が疲弊する。王都一局に拍車がかかる、これは出来れば死蔵したいものだ。
掘るトンネルは2本、往路と復路用だ。
東名高速道路のような4車線も考えたが、現代日本の技術レベルの強度が出せるか、怪しいので、強度と安全を確保するためお馴染みの半円形のトンネルにした。
それらしく掘っただけなので、作業は1週間で終わった。
トンネルが崩落しない様に硬化魔法を掛ける。
地下水対策も万全にする。
ここからは職人を呼んで、トンネルの舗装、壁を防水処理して、その上にコンクリートを塗る。トンネル内の空気が淀まない様に通風孔を造り、照明用の魔道具で明り取りをする。
その間に俺は新領地側の道路の舗装を行う。
4車線(片側2車線)の道路にしたかったので、木を切り倒し道幅を拡げた。
道幅を拡げ中央道までたどり着いた時。
「この地を新たな街とする」中央道と山道のT字路で宣言した。
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ここから新たな街づくりのスタートだ。
流石山国、高低差があり、中央道の脇には河が通っている。
思ったより平地があって助かった。
山と山に囲まれた山間部、山を切り崩して平地にすることも考えていたからだ。
早速、木の伐採と整地の作業を始める。
トンネルが開通すれば、中央道と東海道を結ぶ交通の要衝として栄える事、間違いなしだ。
横1.5キロ縦700メートルの長方形の街で、領民は1万~1万5千を想定している。
T字路を北に伸ばして代官屋敷に繋げてT字路から十字路へ、道路は基本片側2車線、狭い道路でも片側1車線を確保した。
当然、歩道を1段高くして飛び出し防止用の柵も設けた。
今回は代官屋敷を城にするつもりがない為、王都で売りに出されている貴族の邸宅を購入して設置、左右に領官の役所と領邦軍の詰め所を置いた。
宿場町であり商業都市として物流のし易さを優先した。
それと道路はなるべく広く取った、これは防火対策も兼ねている、基本石造りの家が殆んどなので大丈夫とは思うが、念の為。
消防車も無い時代だから、炎症区域は最低限にしたいのだ。
碁盤の目のような区画と北に代官所、竜穴には神殿、中央道沿いは宿屋や冒険者ギルド、商業ギルドに誘致して、中央道より北を山の手、南を下町とした。
街の概要は完成して、俺は王都に飛んで商業ギルド、冒険者ギルドに誘致を始めた。
王都の大聖堂まで行き、新しい街の神官の派遣も要請した。
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まず旧シルバニッヒ伯爵領の領都の領民に、優先的に誘致をする事になって、一悶着。
俺が直接出張るのは良いとして、護衛の数で揉めた。
一般的な騎士の軍編成は国によっても違うが、騎士1に対して騎士見習い1、従者2、コック1の編成が一般的。
勿論裕福な騎士は、連れて行く数が多くなるが・・・
俺は非効率に見えて、その編成を採用していない。
そもそも騎馬兵と歩兵は分けているし、斥候、弓兵、工兵、補給部隊、衛生兵と役割ごとに分けている。
最小の隊は班(TEAM)で、家では5人1組を基本としている。班のリーダーが伍長。
班または組は国によって違うが、通常4人~6人。指揮は現代なら伍長~1等兵。
分隊(SQUAD)はこれも国によって違うが、2~3班で8~12人。
指揮するのは、現代なら軍曹~兵長。うちでは兵士長。
小隊(PLATOON)は、2~3分隊で30~60人、指揮は中尉~軍曹。うちではここから騎士が小隊長を務める。
中隊(COMPANY)は、3~4小隊で60~250人、指揮は少佐~中尉。うちではそのまま中隊長。
大隊(BATTATION)は、2~4中隊で300~1000人、指揮は中佐か少佐。うちでは大隊長。
連隊(REGIMENT)は、2~4大隊または複数の中隊で500~5000人、指揮は大佐か中佐。
旅団(BRIGADE)は、2~4連隊または複数の大隊で2000人~8000人、指揮は少将か准将または大佐。
師団(DIVISION)は、2~4旅団または複数の連隊で1万~2万人、指揮は中将か少将。
軍団(ARMY CORPS)は、2~4師団で3万人以上、指揮は大将か中将。
軍(ARMY)は2~4軍団で通常5~6万人、それ以上の時もある。
指揮するのは、元帥~中将。
これはNATOの基準で目安でしかないが、俺も参考にしている。
現在の家の状況は、民兵合わせて1個旅団程度、2500~3000人集めるのが限界だ。
お金と云うより、人的資源の問題。
まだまだ移住者募集の状態だ。
現在我が家の軍事力は、10~15万石程度の伯爵家並なのだ。
100万石で2万5千人の軍勢が目安。
これを目安にすると推定100万石の今川が桶狭間の戦いで4万の軍勢とか、関ケ原の戦いで10万石の大名が1万2千で出陣したなんて嘘だと分る。
昔の人、盛り過ぎです・・・後世の人が普通に真に受けます。
何でこんな事を持ち出したかと云うと・・・
「何事も最初が肝心です。1個小隊くらいお連れください」
家宰のセドリックの言葉に
「護衛なんて騎士が4騎もいれば事足りる。そもそも視察であって、カチコミに行くわけじゃないだろう」
家では、班は5人、分隊が15人、小隊で60人だ。
小隊長の騎士が寄り親となって、普段は農民をしている部下たち(寄子)の面倒を見るシステムだ。
中隊長は寄子の小隊長の面倒を見て、大隊長は中隊長の、部隊長は大隊長の。
寄り親・寄子の関係を当主まで繋げる。
イザと云う時、命令伝達は速やかに行われ、団結力もつく。
当然、衛兵は半農半兵で、期間は1年と短いが、持ち回りの当番制で兵役をこなしている。
常備軍は欲しいが、人手不足で現実的ではないのだ、今の処・・
それでも戦力アップの為、広く民間から職業軍人として従士募集をしている状態だ。
喰い詰めた傭兵団や冒険者などもスカウトしているが、やはりメインは民間だ。
中途半端に実力のある傭兵や冒険者は、癖が強くて扱いずらいからね。
寄り親と寄子の制度は、今川義元が最初にやったやり方で、後に織田信長もこれを土台に軍制改革を行っている。
信長に情けない負け方をした為、不当に地位を貶められているが、本当にオハグロ大名で無能なら、北条、武田と対等に渡り合える道理が無い。
たとえ優秀な軍師が居たとしてもだ。
それを活かす器がなければ、全ては無駄に終わる。
それに三国同盟の発案者は、今川義元だ。
北の海を目指した武田、関東に勢力を伸ばしたい北条、西に勢力を伸ばして上洛したい今川。
三者の利害が一致して、互いに背中を預け合う実によくできた妙手といえる。
もしも戦国時代に鉄砲が無いと仮定したなら、義元のやり方が一番理に適うと云う。
鉄砲がない時代だとしたら、最初に天下を取っていたのは、恐らく今川義元だろうという学者もいるほどだ。
義元が布陣していた場所は、戦場が一望できる山の上だ。
これは戦術的に正しい。
戦場全体を見渡せるだけでなく、敵の動向も掴みやすい。
急な悪天候で見通しが悪くなったのと、運に見放されただけの結果だった。
戦国時代でもバカ殿はいくらでもいるだろうに・・・
戦略も戦術も王道なものだけに・・
今川義元が後世、ここまで貶められているのは・・
何か意図的なモノを感じる。
(しかし・・護衛に60人・・・いるかぁ~~~)
「こちらも譲歩して1個分隊。これ以上連れて行くと領民が怯える」
「はぁ~仕方ないですね。せめてアルバート卿だけでもお連れください。
騎士が一人も居ないのでは、侮られます。
御屋形様は護衛を蔑ろにし過ぎです。
もっとご自身の立場を考えて頂かないと・・」
「ならアルバートの他に手の空いた騎士を2~3人、衛兵も班のくくりなく手の空いた者を集めてくれ」
「・・承りました」と言ってセドリックは退出した。
**********
SIDE一般兵
俺は護衛の1個分隊と共に家紋付きの馬車に乗り、旧シルバニッヒ伯爵領の領都手前数キロの地点まで転移魔法で移動する。
「相変わらず御屋形様の転移魔法は凄いな。俺も試練の塔をクリアしたら賢者になろうかな」
衛兵の一人が軽口を言う。
「お前、そんなに甘くないぜ。東部のジャン部隊長、賢者だろ、その人の話だと、転移魔法は基本一人、頑張って3人が限度。だってさ」
「じゃあ部隊ごと転移できる御屋形様って・・何者?」
「勇者様だろ、規格外なのは知らんけど」
同僚とそんな軽口を叩いていると、旧シルバニッヒ伯爵領の領都の城門に着いた。
アルバート部隊長が声を張る。
「アルメニア侯爵アキュフェース・フォン・ワント・ツー・アルメニア様ご到着である。
速やかに門を開けられよ!!!」
門が開けられ、出迎えは王宮騎士たちだった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
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あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




