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第67話 「ふざけるな!」と思った相手は観音様

 領都グランバニア、練武場。

 いつもなら騎士や衛兵たちの鍛錬の声が響き、汗臭い活気に満ちているはずが、今日はいつもと違っていた。ピリピリした空気が全体を支配していた。


 未来の三大公に、剣術の基礎を教える為ここに来たのに、どうも雰囲気が悪くて子供の教育によろしくない。


 練武場の端の方では、フランツが木剣で自分の肩を叩き、フランツの前には、うつ伏せに倒れているフェリペの姿があった。

 フランツを中心点とすると半円を描くように海軍連中が殺気立った表情でフランツを睨みつけている。


「何があった!」俺は、フランツの元に駆け寄る。


「何って?見て分かりませんか?ただの稽古ですよ」シレと答えるフランツ。


「ただの稽古で、どうやったらこうなる!!」フランツの態度に、流石の俺も切れ気味だ。


 フランシスコがフェリペの処に行き問いただす。


「おいシスコン、なんだそのざまは。

 俺らの姫さんにコナかけられて、落とし前一つ付けねえようじゃ、話になんねえだろう。

 おめえにできないってなら、俺がやる。後で文句を言うじゃねえぜ」


 フランシスコが身構える。


「人間、出来ない事は言わない方が良いと思うぜ」


 フランツ、言葉も、態度も、無用なほどデカい。


「うるせいよ」よろよろとフェリペが立ち上がる。


「さっ、三年だ。悔しいが今の俺ではてめえに届かない。

 一から鍛え直して、三年以内にあんたを越える。

 ・・それまで首を洗って待っていろ」


 フェリペは、立つのがやっとの状況で、血を吐くような思いで宣言する。


「おいシスコン、お前案外根性ねえな。

 この程度、1年でやり遂げるくらいの根性見せろや。

 俺なら1年掛からずに、あの腐れ野郎の頭カチ割ってやるからよ」


 フランシスコがフェリペを煽る。


「言ってろ」フェリペは呟く。


「弱い犬ほどよく吠える。

 出来もしない事をかたるのは勝手だがね。

 それでも未来ある若者が夢を語るのは、悪くない。

 年長者として応援しているよ」


 人を喰ったフランツの発言に、海兵たちの怒気が急上昇する。

 今の会話で状況はわかった。


「フランシスコ、フェリペ、取り敢えず鉾を修めろ。

 それからガーネットに話を聞きたい。ガーネットは?」


 海兵たちの指さす方向に、心配そうに見つめるガーネットの姿があった。



「ガーネット何があった」


 ガーネットは少し戸惑いを見せたが、意を決して話し出した。


「私とサマンサが居酒屋に居る時、偶然フランツ騎士団長にお会いまして、ご一緒に呑む事にしたんです。

 サマンサがトイレに行った隙に、フランツ騎士団長に口説かれまして、お断りしたのですが、強引にキスを迫られまして・・戻ったサマンサに助けられて、事なきを得ました」


 その言葉に天を仰ぐ。


「フランツ、お前がしたことは、犯罪行為だ」


「失礼ながら侯爵、そんな法律、聞いた事がありませんね。

 それに美人を口説くのは、男としての礼儀でしょうよ」


 悪びれないフランツ。


「安心しろ、これから作るから。

 流石に国法にはできないが、州法なら総督たる俺の権限だ。

 俺の故郷では、セクシャルハラスメント。通称セクハラに相当する。

 もし最後まで行っていたら、婦女暴行に強姦罪の追加だった。

 運が良かったな、おまえ」


「セクハラって何ですか?」ガーネットの質問。


「性的嫌がらせ。例えば上司の立場を利用して部下の女性に関係を迫るとか、

 お尻を触る、会話で卑猥な言葉をワザと使うなど。

 あとは、性的な暴言、行き遅れの女性に対して、誰にも相手にされないババアと言ったりとか。

 女性が性的に嫌だと感じる、行動や言葉全般に対しての性的嫌がらせをさす」


「それじゃ女のいる処での、エロトークはやめろってことですね」


 海兵の一人が発言した。


「やめた方が良い。好きな男のエロトークは良くても、それ以外はセクハラ判定するのが女だから。

 それから場を和ますつもりで言った事が、セクハラ発言にされることも有る。

 冗談の通じない真面目なに、その傾向が強い。

 冗談で揶揄っているとわかる内容でも、セクハラだと云われて愕然とすることも有るから、注意が必要だ」


「何だか理不尽ス」別の海兵。


「同感だが、それが世の中だ。

 人の良し悪しの判断は、見た目で8割が決まる。

 な、理不尽だと思うだろう?」


「それはイケメンで良い服を着ないとダメという事ですか?」


「違う違う、確かにイケメンに越したことは無いが、安い服でも清潔に保って、相手に不快感を与えない様にする事は出来るだろう。

 アイシャのように、安物でもセンス良く着こなせれば、なお良いが。

 普通の俺たちに出来る事は、身だしなみを整えて、相手に不快感を与えない様にするだけだ」


 イケメンと云うなら、俺だってF〇Ⅶのクラ〇ドとか、名前以外は速水もこ〇ちに生まれ変わりたかったよ。


「あと、逆セクハラもあるから、女性は気をつけろ」


「何ですか、それ?」ガーネットが言う。


「女性の男性へのセクハラ。内容は男性版と一緒。

 気を付けて欲しいのは、ブサイクな男に、キモイとか汚れるとか、心無い言葉を浴びせたりするのも、セクハラの対象だからな。

 つまり男女とも、心無い態度や言葉に気をつけろ、ということだ」



 そんな話をしていると、未来の三大公がフランツの前に立ちはだかる。

 真っ先にラメセスが口を開く。


「話は聞いたぞ、不埒者め。もし我らの姫様に手を出したら、只では済まさん。

 我ら三大公は、姫様の盾にして剣。

 あらゆる敵から姫様を守り、姫様が正道を踏み外さぬように、お守りするのが我らの役目。

 姫様に少しでも不埒な真似をしてみろ、我ら三大公、草の根を分けても探し出し、正義の鉄槌をくれてやる。

 我らの姫様に手を出したら生かしてはおけん。

 それだけは肝に銘じておけ」


「ラメセス、それは三大公筆頭の俺の台詞だ」トトネスがラメセスに言う。


「兄様、言ったもん勝ちじゃ」


 その様子を見ていたパンザがフェリペとフランシスコに言う。


「お前ら、あれくらいの啖呵が切れなかったのか?

 子供に負けてるじゃないか」


 俺もパンザに同意するが、事態を修めるように動く。


「ガーネット、1時間後に海兵全員を、海軍本部に集めてくれ」


 俺はそれだけ指示すると、フランツの処に歩み寄る。

 おもむろにストレージから短槍のタンポ槍を取り出す。


「フランツ、少し付き合え。

 お前自分がモテてると勘違いしている様だが、実は女性の騎士や衛兵から結構苦情が来ているんだ。口説いて断られても、立場を利用して関係を迫ったり、腹いせの嫌がらせはしていない様なので、相談者をなだめるだけで目を瞑っていたがな。

 ただ女を口説くのまで、規制する訳にはいかないからな」


 俺は言うだけ言うと短槍を身構える。


「・・侯爵相手ですと、手加減できませんが、宜しいですね」


「お前に手加減できる余裕があるのか」


 フランツは剣を構え、俺と対峙する。

 俺は踏み込んで、短槍を突く。

 フランツは反応できず、腹に突きを喰らって後方にぶっ飛んだ。

 流石に急所のミゾオチは避けた。殺したい訳では無いから。


 今の動きを眼で捕らえられた者はいないだろう。

 周りがシーンと静まり返っている。


「フランツ、お前普段からスキルに頼りすぎだ。

 何の変哲もない突き、何の変哲もない斬撃、これで相手を震撼させる事が出来ない様じゃ、所詮レベルの高いだけの三流の剣だ。最近のお前は少し調子に乗り過ぎだ。少しは頭を冷やせ」


 それだけ言うと、フランツの元を去り、部隊長のアルバートに三大公の剣術指南を頼むと、その足で海軍本部に向かった。

 三大公の瞳がキラキラしてたのは、気のせいか?



                 **********



 1時間後、海軍の練武場に海兵全員を集めた。

 俺は周りを見渡し、一言だけ告げる。


「悔しいか」俺は周りを見渡す。


「悔しいと思う者だけ1歩前に出ろ」


 海兵全員が1歩前に出る。


「では聞いてくれ。フランツの馬鹿に勝ちたい、一矢報いたいと云う奴限定だが、今まで治安維持の観点から、隊を半分に分けて交代で行なっていたシスアの森の合同訓練、あれに希望者のみ毎月参加してもらう。

 もちろん、俺が直接指導する。

 今までの様にシスアの森の外縁部なんて、ぬるい事は言わん。

 少し奥に入ってLV100越えの魔物を相手にしてもらう。

 当然、命の危険がある。

 ついてこれるのは、腕の1本、足の1本くれてやる位の覚悟のある奴だけだ。

 逆に覚悟のない奴は邪魔にしかならない。

 それと俺の訓練では、食事の時間も、休み時間も、トイレの時間も無しだ。

 その時間すべてレベルアップための狩りだけに費やしてもらう。

 レベルアップ酔いになっても、回復魔法で治すから、強制的に狩り続行だ。

 死なない限りは、俺が回復魔法で治すから、それと合同訓練にはミハエル大司教もお見えになる、即死以外は何とかなるから安心しろ。

 それを踏まえて聞く。

 俺の地獄のBOOTCAMPに参加したい者は前に出ろ」


 俺の言葉に息をのむ一同、冗談ではなく、本当に地獄の訓練が開始されるからだ。


「望むところです」まずはフェリペが参加の意思を伝える。


「シスコンに良い格好させるのもシャクだ。俺も参加だ」


 フランシスコ参加を表明する。


「馬鹿二人に先を行かれるのはシャクだ。俺も参加する」


 パンザが名乗りを上げる。


「私が原因ですから、私も参加します」


 意外な事にガーネットが参加の意思を示す。


「やれやれそうなると、私も参加で」


 サマンサはガーネットの付き合いで参加する様だ。


 ガーネットが参加を表明したら、我も我もと参加を表明しだした。

 お前ら、これは少し情けないよ。


 流石に全員参加とは出来ないので、レベルの高い者を選抜して20名。

 これでBOOTCAMPのメンバーが決まった。


「これで、フランツに勝てるレベルになったら、フランツはお前たちの観音様だな」


 俺が何気なく言った言葉の意味が分からないようだ。


「観音様って何ですか?」とガーネット。


「俺の故郷の神様で、人の嘆きや苦悩に対して、その人が最も受け入れやすい姿に変化して、救いの手を差し伸べてくれる慈悲の神様だ」


 それを聞いて、みんなナイナイと言う。


「しかし考えてもみろ。フランツがいなかったら、お前ら本気で強くなろうとしたか?

 酒場で俺たちの方が強え~って、クダ撒いていただけじゃないのか。

 者は考えようだ。お前たちがフランツを越えて強くなった時、今あるのはフランツのお陰だと思えるようになるんじゃないか。

 そうなった時、フランツは観音様の化身だ。

 お前たちが奮起して、強くなるように仕向けてくれた恩人だからな」


「そいつは良い。あの腐れ頭カチ割って、盛大に拝んでやるぜ」


 フランシスコの言葉にパンザが乗っかる。


「ついでに花束を用意して、手向けてやろうぜ」


 海兵たちは笑いに包まれる。



『ふざけるな!』と思った相手は観音様。

 嫌な相手を観音様に出来るかどうかは、本人次第だけど、愚痴を垂れてるより、足の引っ張り合いにかまけるより、嫌な相手の上を行く。

 その方が人生はきっと楽しいと思う。


最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。

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