第66話 待ったなしでお願いします
「王手飛竜(飛車)取りだ」
未来の三大公、一番の年長者14歳のトトメスが大人げなく騎兵(桂馬)を駒筋に置く。
嘆く12歳のラメセス。
異母兄弟、もっと仲が悪いのかと思えば、そうでもない。
ただトトメスとラメセスは、お互いをライバル視している処も有るが、問題のないレベルと云って良い。
それで、何を遣っているかと云えば、日本の将棋だ。
子供たちの遊び道具が何も無いのは、如何なもの?
そう思い最初、異世界物の定番リバーシを造った。
姫さまを始めとする屋敷の者たちにも大いに受けた。
リバーシがマリアンヌ嬢とローバーさんの目に留まり、豪華絢爛の貴族用とシンプルな一般向けを造らされ、引きずられて商業神の登録へ。
その後、貴族用のリバーシを王様に献上した。
そして、リバーシの販売が開始された。
簡単なルールで奥が深い、たちまち庶民・貴族問わず受け入れられ、注文が殺到した。
殺人的な注文数に音を上げ、一般向けのリバーシをハロルドさんの処に製作・販売を委託した。
細かな事はマリアンヌ嬢とローバーさんに丸投げだ。
冷静になって考えてみると、この世界、チェスはあっても将棋が無い。
そこで、将棋を作ることにしたのだが、そのまま持ってきたのでは、恐らく受けない。
まず漢字だし、見た目地味?
子供受けを狙って、チェスの様な駒にした。
チェスの駒より1回り2回り大きくなるが、アニメやマ〇オの様に子供受けする可愛らしい人形の駒にした。
全体的に子供向けアニメの王様や兵士を元にした人形のイメージ。
王将~西洋の王様、漫画のような可愛いデザインで。
金将~将軍、少し厳ついめ。
銀将~部隊長、若い感じで作る。
桂馬~騎兵、チェスのナイト、そのまま。
香車~戦車戦車の上で弓を引く可愛い戦士。
飛車~飛竜、可愛いドラゴンにする。
角行~司教、好々爺のおじいちゃんの感じで。
歩兵~アニメにありそうな可愛い奴で。
日本の駒の名前をそのまま使っても、恐らく何のことだか分からない。
こちらの人が分かりやすい名前に変更した。
人形の駒のままでは、成った時困るので、印が必要。
赤く塗装したコイン型の木片を下に敷けば、一目でわかる。
動かし易いように、駒の底には小さな磁石を、コインの方には金属片を貼りつけておけば問題無し。
駒はデフォルメ人形なので、駒の向きに困る事が無い。
駒の足元には、駒の動きを示す矢印をつけたので、初心者でも困らない。
あとは駒の大きさに見合った将棋盤と駒台を作る。
リビングルームで作っていたので、こちらの手元を興味津々で見る未来の三大公。
「やってみるか?」
すべて出来上がっていたので、声をかける。
三人とも「やってみたい!」と言うので、将棋の基本ルールを一通り説明した後、実戦でやらせてみた。
それが最初の1行目だ。
「王手飛竜(飛車)取りだ。どうしたラメセス、降参か?」トトメス勝ち誇る。
「ぐぅ~、まだ負けん。兄様、まだ負けておらん」
負けず嫌いのラメセス、泣く泣く王を逃がし飛竜(飛車)を犠牲にする。
へぼ将棋、王より飛車を可愛がり。
俺も下手の横好きだから、よくわかる。
それまで黙ってみていた末のセティ10歳が、ラメセスの袖を引っ張り、何か耳打ちする。
ラメセスはニヤリと笑うと、駒台から司教(角行)を手に取り、セティの指定した5五角に打つ。
「兄様、さっきの礼じゃ!ラメセス、怒りの王手飛竜(飛車)取りだぁ~」
「なっ」言葉を失うトトメス。
よく気が付いたと感心する。
ここから一進一退の攻防が続く、まだ定石を何も教えて無いが、結構楽しめる。
勝負も終盤、頭金か頭銀で終わる場面、トトメスが駒をケチって歩を打った。
「『打ち歩詰め』は反則だ。トトメスお前の負けだ」
「???」
「あらかじめ配置してあった歩兵を動かして、王を詰ませるのは問題ない。
しかし、歩兵を打って詰ますのは、打ち歩詰めという反則になる。
これが将軍(金将)か部隊長(銀将)を使っていれば、お前の勝ちだった」
「初めて聞くぞ、そんな話」トトメス、納得していない。
「これから説明するつもりだった。
まさか初めての対局でやらかすとは、思ってもみなかった」
「なかなか奥が深そうですね」
声に振り替えると、執事のバトラーが盤面を覗いている。
「チェスと違って、取った駒が使えるのも良いですし、敵陣に斬り込めば歩兵も将軍(金将)に出世するのも夢がある。戦術も変幻自在に変化しそうです」
「これから、定石の説明と反則についての説明するけど、聞いてくかい」
反則なのは、二歩、打ち歩詰め、千日手。
千日手は4巡越えると打ち直しだったはず。
序盤の戦法として、相がかり、中飛車、四間飛車、三間飛車、向かい飛車、横歩取り、ゴキゲン中飛車までは、何とかなったが、角換わり棒銀戦法、ひねり飛車などは、聞いた事がある程度のものは、教えるのは無理だった。
囲いも、美濃囲い、高美濃囲い、雁木囲い、銀冠、穴熊までが辛うじて出来るくらいだ。
矢倉囲い、銀冠矢倉に至っては、最早怪しい状態だ。
普段、四間飛車の美濃囲いがほとんどで、たまに中飛車の片美濃囲いくらい。
人に教えるにに知識が無さ過ぎて、頭を抱える。
「1局お相手願いますかな」と執事のバトラー。
「下手の横好きで良ければ」と俺は返す。
バトラーは居飛車できたので、俺はいつもの四間飛車の美濃囲いで対応した。
結果はぼろ負け。
チェスをやり込んでる人は、将棋も強い。
俺の威厳と四間飛車が地に落ちた瞬間だった。
トトメスとラメセスは、居飛車党となり、セティはゴキゲン中飛車を選択した。
四間飛車だって、良い戦法だからね。
「チェスと違った魅力があって良いですね」にこやかにバトラー。
「これが将棋の奥深さだからね」
ぼろ負けした俺は、引きつった笑顔で答えた。
「将棋ですか、いっその事『アルメニアン・チェス』と呼称したらどうですか?」
「それは少し恐れ多いな」
**********
結果は将棋という言葉よりアルメニアン・チェスの方が浸透した。
三人が余りにも将棋にハマるので、彼らの故郷プトレマイオス王国兵装バージョンを作った。
それはすぐにトラブルとなった。
問題は王将、王と女王を作ったら、みんな女王が良いと言い出し取り合いになった。結局、もう1体、女王を作って納得させた。
女王のモデルはネフェルティティ王女で、王はラファさんがモデルだ。
ラファさんモデルの王の凛々しさが分からんとは、この子たちの美的センス大丈夫かと、将来を思い少し心配になった。
結局、将棋もマリアンヌ嬢とローバーさんに見つかり、引きずられて商業神の神殿へ。
結果は、リバーシほど売れなかったが、新しいチェスとして、チェスを嗜む玄人たちに徐々に浸透していった。
駒の兵装も西大陸風、ビザンティン風、プトレマイオス風と三タイプを揃えた。
チェスを嗜む衛兵たちの要望で、国旗を駒に背負わせたらどうか、という要望があった。
旗指物を背負える加工を施し、西大陸の国々の国旗を作った。
これがまた受けた、特に他国出身の者は、元母国の旗を背負い、国を背負っての1局に熱を上げた。
これが貴族の間に広がり、家紋の旗の注文が殺到した。
貴族たちは、家の名誉を背負い1局に臨んだ。
それから、頭の痛い問題もある。
うちも含めて兵士の間でやるチェスは、賭けチェスがほとんどだ。
うちでは基本、賭けチェスは禁止だ。
勝った負けたで、刃傷沙汰に発展するからだ。
それでもなかなか無くならないので、飯代、呑み代の支払い程度の賭けなら、目を瞑っているのが現状だ。
**********
そんな問題を抱えながらもアルメニアン・チェス(将棋)の売り上げは順調だ。
ふと思い立って、人には言えない秘密の駒を作成した。
エルフバージョンだ。
王将をラファさん、金将にリーフリット、銀将にアイシャを据え、角行にラターシャさんを据える最強布陣だ。歩兵も可愛くデフォルメしたエルフたちだ。
出来た駒を並べて、悦に浸る。
突然両肩をガシっと捕まれる。
背後からリーフリットとアイシャの声がする。
自室で作業してたのに、なぜ?
考えるまでも無く、俺の部屋は寝室も兼ねている。
二人が居るのは当然だ。
やはり男には、秘密基地が必要だと痛感する。
「ねえアキュフェース、私って金将の価値しかないの?」
「リーフはまだマシ、ボクなんて銀将だよ。
随分安く見てるよね」
「どういう事か、説明して貰えるかしら」詰め寄るリーフリット。
「それはボクも聞きたい、どういう事」怒気混じりのアイシャ。
しどろもどろになる俺。
正直、他意は無く、何となくとしか言えない。
「悪気は無いんだ、何となく・・だな」上手い言い訳も思い付かない。
「何となく・・ねえ・・・」リーフリットの声が冷たい。
「へぇ~・・それで済むんだ」アイシャも冷ややか。
突然ノックの音がする。
「夜分遅くに失礼いたします。
今とんでもない殺気を感じたのですが、大事ありませんか」執事のバトラーが言う。
それ放っているの奥さんたちだから、問題ない。
「取り敢えず失礼します」そう言って、バトラーは入室する。
事の顛末を二人から聞き、少し考え込んで。
「では御屋形様、1局打ってみましょう。1局打てばわかりますよ」
俺はエルフバージョンの駒を使い、バトラーは西大陸風の駒を使ってくる。
先手は俺で、四間飛車の美濃囲い。
後手のバトラーは、居飛車の穴熊。
序盤は問題なく推移して、中盤に動きがあった。
アイシャ(銀将)が取られたのだ、茫然としていると今度は、リーフリット(金将)が敵の手に堕ちた。
攻め手が欲しくて、美濃囲いを片美濃囲いにしたのが、原因か。
将棋とはいえ、精神的ダメージが地味に痛い。
それに追い打ちをかけるように、バトラーはアイシャ(銀将)を打って来た。
カチン
普通に考えれば、攻め手を増やしただけで、すぐに影響もでない。
普通は歩兵を1歩動かして、銀将が動きにくくするのが、普通だが。
冷静な時なら、これが悪手くらいはわかる。
俺はこの時、アイシャ(銀将)奪還しか、頭になかった。
バトラーもアイシャ(銀将)を取られない様に、上手く避けるし、受けが上手い。
頭に血が上った俺は、大駒(角行)を使い飛車を犠牲にしても、アイシャ(銀将)奪還に全力を注ぐ。
(さっさと、アイシャ(銀将)を返しやがれ!クソヤロー!!)
こんな事しているから、アイシャ(銀将)を奪還した頃には、うちの陣はボロボロだ。
自陣に龍王と龍馬が入り込み、金銀を剥がし片美濃囲いはボロボロ。
最後は逃げ道をふさがれて、アイシャ(銀将)でとどめを刺され終局した。
「まあ、こんな処ですか・・
私はこれで、失礼させていただきます」
バトラーは執事の礼をして去っていった。
何故か機嫌の直ったリーフリットとアイシャ。
二人に両脇を抱えられ、ベットまで連行された。
二人に仰向けに押し倒されると、リーフリットが色っぽい声で語り掛ける。
「ダメじゃない、ちゃんと取り返してくれなきゃ~、ずっと待ってたのにな♪♪」
「ねえ、ねえ、ボクが取られた時、どんな気分だった♪♪
悔しかった、辛かった、愛しいボクが敵の手に堕ちて、冷静でいられなくなった?
言葉に出して、言って欲しいな♪♪」
嬉しそうにアイシャは言う。
「ねえ、私が捕らわれていた時、どんな気分だったの?
聞かせて欲しいな。出来るだけ詳しく♪♪」
珍しく甘えた声のリーフリットと嬉しそうに聞き出そうとするアイシャ。
こういう場面になれてない俺は、思わず音を上げる。
「待った!勘弁してくれ、まったく」
「「待ったは、なし!!」」
リーフリットとアイシャの息ぴったり。
「言葉にしないと伝わらないわよ」
「うんうん、僕たちの事どれだけ愛しているか、言って貰わないと♪」
恥ずかしさの余り、この場を逃げ出したい俺。
両腕はガッチリホールドされて、身動きが出来ない。
「愛を囁いてくれるまで、寝かさないからね」とアイシャ。
「夜はまだ長いわ。好きなだけ囁いて良いわよ。
でも、待ったは無しでお願いね♪♪」
リーフリットの言葉に観念して、二人が気が済むまで愛を囁いた。
顔から火が出るって、こういう事を言うんだなと、ホント他人事の様に思う。
こういうシーンは心臓に悪いから、本当に待って、待って欲しいと心から思った。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークの登録と
☆☆☆☆☆に、面白かったら★5つ頂けると、今後の励みになります。
この作品が、明日も頑張れる一助となりますように
あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




