第65話 二つの選択
『勇者アキュフェース、僅か三千の兵を率いて一万の反乱軍を破る』
その上、首謀者のカーメス王弟を生きて捕らえた。
このニュースが、場内及び城下の者を沸き立たせ、お祭り騒ぎの様相を呈してきた。
王宮の謁見の間居並ぶ重鎮を前にしても、アキュフェースは臣下の礼を取らない。
この国の臣下では無いからだ。
失礼にならぬよう、貴族の礼をする。
「アルメニア侯、無理を聞いて貰って感謝する」
「身に余るお言葉、恐悦至極に存じます」
「反乱軍を討伐して、恩賞が何もないでは道理が通らん。
単刀直入に聞く。何が欲しい」
「何も。そのお心だけで充分でございます」
財政の苦しい処から褒美や金品なんて、要求できないでしょう。
「そなたなら、そう言うと思ったわ。
他国の貴族を、我が国の貴族にするわけにもいかぬ。
よって、そなたを外部相談役に任ずる」
「それは、どういう・・・」
俺は言葉の意味を理解できないでいた。
貴族がダメなら官僚もダメでしょうに。
「実質の権限は何も無い、ただの名誉職だ。
しかしその地位は、この国の大臣に比肩する。
文字通り王の相談役よ。
それからそなたが気にすると思っての、
すでにエストニア国王には書簡を送付済みじゃ」
要らないし・・また怒られるだろう・・
「では陛下。相談したき事がありますので、後ほどお時間宜しいでしょうか?」
「では後ほど、ご苦労、大儀であった」
その夜、戦勝パーティーが開かれて、主賓の俺はヘトヘトになった。
ベットに戻り大の字になると、女王からの呼び出しがあり、執務室に赴いた。
「して、相談事とは何じゃ」
「姫様の継承問題でございます」
「娘は血筋でないという話じゃったな。それで?」
「これには、2案ございます。
まず第1案は、公爵家のどなたかで、年齢もつり合い、お人柄の宜しい方に心当たりはありませんか?」
「・・・成程な、我が国は五爵位では無いが、臣籍に降っても王の直系の血筋は居る。
それをネフェルティティの婿にせよ、と云うのだな」
正統な王家の血筋の条件は、父方の系図を遡って初代の国王に辿り着く事。
姫様は女王陛下の娘で、王家と血の繋がりはある。
しかし、血筋という面では、女王陛下の夫君殿下の血筋だ。
「はい、本家筋が分家筋になりますが、問題に成らないと思います」
「そうなると、野心家はダメじゃな。
いちいち政治に口を出されては、鬱陶しくて適わん。
それで、もう1案とは何じゃ?」
「これは陛下に調べて頂かないと・・調査結果次第では、これもアリだと思うのですが」
「で、何を調べさせたい?」
「カーメスに子供はいますか?」
「居ないはずじゃ」
「ではメイドの様な使用人だったら、どうでしょうか?
若い使用人に手を出して、妊娠が分かった時点で屋敷から追い出す。
こんなケースなら、ありそうな気がするのですが・・・」
「居たら如何するつもりだ?」
「その前にお聞きしたのですが、この国は反逆罪は連座制ですか?」
「そうじゃ、流石に緋帝国のように、娘婿の一族まで根絶やしにはしないがな」
「男の子がいた場合の話ですが、その子にカーメスの処刑人になっていただきます」
流石の女王様も顔色を変えた。
「親殺しをやらせるとは、エグイことを考えるのものじゃ」
「黙っていても、その子は連座制で処刑されます。
なので、自分の意志で観の証を建てさせるのです。
状況からして、カーメスに親子の情など無い筈です。
憎む事はあっても、愛する事は有得ないと存じます。
その後、準王族として迎え、王としての教育を施します。
王としての資質があれば、次の王へ。
無ければ小領の貴族か、姫様の夫君殿下にするのも良いでしょう。
近親婚になりますが、従姉弟同士なら問題ないでしょう」
女王様、頭を抱えて色々聞いてくる。
「色々ツッコミたいのは山々じゃが、なぜそもそも探す必要がある。
探さねば、余計な騒動を起こさずに済む。
見つかった処で所詮は『庶子』じゃ、諸侯が納得すまい」
「御言葉ですが庶子であっても、どの王家の末裔よりも、正統な王家の血筋が一番濃いのは事実です。
上手くすれば、王家の血筋を失わずに済みます。
それに、疲弊したこの国の民に夢を見せたいと思いませんか?
虐げられていた子供が、実は王子で、母親の無念を晴らして大罪人をこの手で裁く。
努力の末に王座を得て、美しい姫君と結婚して、幸せに暮らす。
ロマンがあって、良いとは思いませんか?」
女王陛下は更に頭を抱えた。
「それをペテンと云うのじゃ」
アキュフェースは、どこ吹く風だ。
「では準王家として保護したらどうですか?」
ニコニコ顔のアキュフェース。
「本当の目的は何じゃ」
「調査次第の面が強いですが、欲を言えば三家は欲しい処です。
一家だけだと不安が残りますから。
第一に血統の予備としての役割です。
今回のように姫様が女王になっても、公爵家から婿を取れば血筋の件は解決します。
しかし、この先、暗殺、不慮の事故、反乱、病気、戦争など、王家の血筋が断絶する危険は常にあります。この家は、その時の保険になります」
「確かにの、庶子とはいえ、王家の血筋が一番濃い。
しかし、王位の簒奪を企む要因にならぬか?」
「一家だけなら、可能性はあります。
ニ家なら、お互いをライバル視して牽制し合うので、簒奪の危険は減りますが、何を遣るにもいがみ合うので上手くありません。
三家なら、お互い三竦みになって、上手く回ると思うのですが・・」
「詭弁じゃな、争う時は争うモノじゃ」
「確かに仰る通りです。
しかし、どうせ副王家と云って良い家を新設するなら、それだけやらせるのは、勿体無いと思いませんか?」
胡散臭そうに女王陛下は問う。
「貴公は結局、何をさせたいのじゃ」
「影の内閣を創って頂きます。
影の内閣と云っても、何の権限もありません。
云わば王家の政策への『チェック機関』としての役割です。
この政策はこれで良いのか、軌道修正は必要かなど。
出来れば年に一度くらい、円卓会議のような場で、話し合うのが良いと思います。
その経験が、王家が断絶して、次の王に選ばれた時役に立ちます。
それだけの特権を与えるのだから、王が暴君なり暗君となる場合、その場で斬り殺されても、身を挺して王を諫めるのも役目の内となりますが」
「それだと王の権力を押さえる事にならんか?」
「仰る通りですが、王の暴走を抑える事が出来ます。
まあ、平時は小うるさいヒヒ爺どもとなるでしょうがね」
「まったく、嬉しくない提言じゃ」
不機嫌顔の女王陛下と、そんなのどこ吹く風と決め込んでいる俺。
「私は意見を言ったにすぎません。決めるのは陛下御自身です」
「うるさいわ」
そう言って、この話し合いは終わった。
このあと女王陛下の勅令が発せられ、諸侯に檄が飛ぶ。
諸侯は王都に集結して、王弟カーメスに加担した諸侯への征伐が開始された。
流石にここから先は、他国の貴族が立ち入って良い問題ではない。
俺たちは早々に帰国した。
帰国を果たし3ヶ月が過ぎた頃、予期せぬ来客が領都グランバニアにあった。
「では、アキュフェース様、しばらくお世話になります」
にこやかに笑うネフェルティティ王女。
そう来客は、ネフェルティティ王女御一行様だ。
ネフェルティティ王女とラファさん、あと男の子三名。
男の子は、上は14歳、次が12歳、一番下が10歳だそうだ。
護衛にナイトハルトが就いている。
行き成りの展開に戸惑う、俺。
「おいナイトハルト、これは一体どういう事なんだ?」
「連絡が来てないのか?
何でも『三大公家』設立は、お前の発案だそうじゃないか」
「確かにアイデアは出したけど・・」
女王陛下はカーメス王弟の遺児を探し出し、目の前に居る三人が未来の三大公か。
「そこで、大公家の当主に相応しい国際感覚と教養、そして見聞を広げる為に、教育係にお前さんを指名してきたという訳だ」
「何で、俺?」
「さあ、そこまでは・・」とナイトハルト。
「アキュフェース様は、我が国を救ってくれた英雄ですから。
どうせ学ばせるなら、英雄の元で、ですわ」と王女様。
「俺はまだ、了承してないぞ。
それに三大公の教育係なんて、領地経営の片手間で出来る話じゃない。
王宮の方が、専門のスタッフが揃っていると思うのですが」
「我が国の王宮は、反逆者カーメスを討ってもまだ政情不安で、安全には程遠い状況ですの。
安全にこの子たちを育てるとなると、ここしか思い付かなかった、と云うのが真相ですわ。私たちも疎開してきた様なものです」
「そんなに酷い状況なの?」聞いたのはリーフリット。
「皆さまが帰国された後、私毒殺されかけましたわ。
普段から銀食器を使っていたので、事なきを得ましたが」
「それで、犯人は捕まったの?」とアイシャ。
「捕まりましたけど、自害しましたわ。
もう我が国の憲兵隊では手に余るので、この国の王様に相談したら、快くミツルギ様の配下をお貸し頂きまして、只今不穏分子の一斉検挙中ですわ」
噂をすれば影が差す、執事のバトラーがミツルギの来訪を告げる。
入室したミツルギが周りを見渡し、バツが悪そうに言う。
「すまん間に合わなかったようだな」
そうに言って、プトレマイオス王国女王の依頼書とエストニア国王の命令書を渡す。
それに一通り目を通して、俺はワナワナと震えだす。
「なあミツルギ、俺に拒否権はないのか?」
「無いだろうな。そもそもの原因はお前だ。
俺も煽りを喰らって、よその国の仕事を引き受けている。
そのお前が拒否権?馬鹿も休み休み言え」
ミツルギの言葉に、シオ~とうな垂れる。
「アキュフェース様は、私たちがお嫌いですか?」
ラファさん、このタイミングで、その言葉は卑怯です。
「分かりました。お引き受けします」
「必要な教師は王都から来るから、お前は魔法と剣術、それと貴族の心構えを教えればいい」
他人事だと思って、気軽に言ってくれるなミツルギ。
この瞬間、姫様たちの護衛と、未来の三大公の教育係が決まってしまった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
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