第63話 恵みの大河 ナイラ ③
まず、俺たちがやったことは、王立図書館の入館許可と資料の閲覧許可を貰い、過去のナイラ河氾濫の範囲と被害状況を調べ上げた。
現在の地図と照らし合わせてハザードマップを作成する。
あくまで暫定のハザードマップだ。
このまま普通にダムを決壊させただけでは、恩恵があるのは昔ながらの土地のみ。
新たに拡げた耕作地には、何の恩恵も無い。
そこで拡げられた耕作地へ、新たな支流を造る事にする。
支流を造ったからと云って、肥沃な土が、ここまで回る保証はない。
しかし農業をする上で、支流自体無駄には成らないと思う。
最初はため池も検討されたが、毎年大河の氾濫を前提に考えると、意味があるとは思えないので却下された。
今俺は炎天下の中、サクサクと支流造りに励んでいる。
他のメンバーはというと、日除けの天幕を張り、
リクライニングチェアに寝そべり、楽しく談笑をしている。
「そうしているなら少しは手伝ってくれよ」
「無理よ~、そのスキル持っているの、貴方だけだし、手伝いたくとも邪魔になるだけよ」
冷えた果実水を飲みながら言うリーフリットの無慈悲な言葉に、地味に凹む。
「もう少し頑張りなよ。キリの良い所で休憩にした方が良いと思うよ」
そう言いながら、冷えた果実水を一気飲みするアイシャ。
おまえら・・俺に対する扱い、ドンドン酷くなってないか?
「そうは言ってもこの炎天下の中では、倒れてしまっては元も子もないと思いますが」
優しい言葉をラファさんが言う。
女王陛下とのあの話以降、急にラファさんが優しくなった。
明らかなハニートラップである事くらい、俺でもわかる。
こんな見え透いた手に引っ掛かるほど、安くはない・・と思いたい。
大丈夫、大丈夫、きっと何とかなる。俺は、この試練を乗り切れる。
自分を信じて、気合を入れ直す。
「ラファさん、優しい言葉をありがとうございます。
もう少し頑張ったら、休憩を取りますから、ご心配なく。
貴女の言葉で、心が救われました。ありがとうございます」
俺はそう言うと、作業を再開する。
俺の言葉に、気に入らない顔の奥さんズ。
そんな顔するくらいなら、少しは労わりの心を持て。
俺が造っているのは、日本でいう1級河川だ。
ナイラ河の大きさと比較すると、1本のか細い線でしかないが、
これがあるのとないのでは、この後の展開が大きく変わる。
河川造りを始めた為に、予定の日程を大幅にオーバーしている。
本国に転移して、王様と家宰のセドリックへの事情説明、月1度のファルムス王国騎士団との合同演習への兵士の送り迎え、ムハービット村の村人数人をテニオン神国へ連れてゆき、精霊樹のお世話スタッフの交代。
本国での用事をある程度済ませたら、ここに転移して河川造りを再開する。
本国とここを、行ったり来たりの苦節3ヶ月、やっとナイラ河を基点にして、左右2本づつ、合計4本の支流が完成した。
たった4本?工期に3ヶ月?遅すぎない? と思っているあなた。
支流1本の長さは、日本の1級河川より長いくらいだ。
それを本国との仕事を掛け持ちしての3ヶ月。
いくらチートなスキルと魔法込みでも、遅いなんて言われたくない。
ナイラの水量が減って塩害の被害も報告されているが、ナイラの水量が元に戻れば、問題なし、ここで支流に繋げた為に更に水量が減っても、一時的なものだ。
早速ナイラ本流と支流を繋げる作業をする。
問題なく支流に水が流れてゆく。
出来れば、支流の両脇に木を植えたかった。
そうすれば、根を張ることで地面も安定して、保水力も得られる。
しかし、ナイラ河の氾濫込みだと愚策に思えて、実行していない。
「これで第1段階終了だ」
「まだ他に有るの?後はダムを決壊させるだけよね?」とリーフリット。
「いや、逃げ遅れた人を想定して、避難タワーを造らないと」
「「避難タワー?」」
俺が造ろうとしているのは、東北大震災の後、各地に造られた『津波避難タワー』だ。
鉄骨造にすると錆び止めがないので、石造りだ、強度が心配なので硬化魔法で補う。
ハザードマップを確認すると、結構な数になる。
流石に全ては無理だ。基本的には高台に避難してもらう事に成る。
それでも出来る限り、避難タワーを造ってまわった。
「ではハクさん、やって御終いなさい」と俺が言うと。
「心得た」と返事をして、リヴァイアサンの幻影をだす。
まずリヴァイアサンの幻影は、ナイラの中流域の街や村を旋回して、直接住民の頭に語り掛ける。
「告げる。
我、ナイラの化身なり。
我を封じし愚か者どもよ。
汝ら、ナイラの恵みを何と心得るか。
愚か者どもよ。我は今自由を得た。
ナイラを堰き止めし、忌々しい柵を、我の怒りを以て破壊する。
さりとて、我とて鬼では無い、三日の猶予を与える。
命の惜しい者は、高台に避難せよ。
今一度、ナイラの恵みを嚙み締めてみるが良い」
言うだけ言うと、リヴァイアサンの幻影は消えてなくなった。
今度は、下流域でも同じ現象が起きた。
これに対して、王家の対応は迅速だった。
すぐに住民の避難誘導が始められたが。
全体的にのんびりムードだ。
特に下流域は、ひどい。
猶予期間は三日。
ダムが決壊しても、下流域まで到達するのに、更に三日掛かる。
慌てなくて大丈夫だという、安心感が漂っている。
日数的に余裕のない中流域の対応が速いのが、唯一の救いだ。
「大丈夫か?これ」
仕掛け人のアキュフェースの方が、ヤキモキしている。
約束の三日後、上流のダムに来ている。
「じゃあ、始めようか」
俺は聖剣を取り出し、ダムの堤防ほ四隅に切り込みを入れて行く。
ハクが念動力で、堤防部分が決壊しないように押さえてくれている。
俺は、ダム四隅に切れ込みを入れ終わり、ハクを労う。
「ハク、お疲れ様。もう良いよ」
そう言うと、堤防部分をストレージに収納する。
ダム湖の水は、一気に濁流となって流れ出す。
俺たちは、王宮に転移して、ダムの決壊を伝える。
王宮衛士の避難誘導が開始される。
下流域の住民も、やっと重い腰を上げる。
それでも、避難しない住人も存在した。
あとは、自己責任である。冷たいようだけど。
それから三日後、ナイラは濁流となって下流域を蹂躙した。
濁流が支流にまで来て、キチンと氾濫したのは、今回一番の成果だ。
これで、やせた土地も豊かな土壌に生まれ変わる、その第一歩だ。
天災も終わり、復興に向けてみんなが動き出す頃、城門前には人が殺到していた。
バルコニーから黙って聞いていると、逃げ遅れて、濁流に飲まれ肉親を失った者が抗議に来ているのだ。
「我々は、避難勧告をして、避難誘導も行った。
それを無視したお前たちの責任だ。
我々に文句を言うのは、筋違いも甚だしい!!」
門番の言葉は正論だ。
実際にそれだけの事をしている。
おかげで、助かった命も数多い。これは、きっと、誇って良い。
抗議の声は止む気配がない。その中に聞き流せない言葉があった。
「大体、なんで真名を失ったやつが、わざわざ警告に来るんだよ。
おかしいだろうが」
「ほぉ~、王家でも知らぬ初めて聞く話じゃな」
いつの間にか女王陛下は、バルコニーに立ち、命じている。
「その者を捕らえよ!!恐らく首謀者じゃ」
命は下され、男の捕縛に兵士は動く。
逃げる男の首目掛けて短剣が飛ぶ、首に刺さり絶命する。
「あそこか」
木の枝の上に立つ黒装束の男。
転移の瞬間移動で接近して無力化する。
剣先を鼻先に向けて問う。
「貴様は一体何者だ」
男は奥歯を嚙み締める表情をして、血を吐き、痙攣する。
毒消しの魔法を放つが、間に合わなかった。
(群衆に金の針、埋め込まれた者、多数)
(マジか。・・寄りによって・・)
「誰かリーフリットを呼んできてくれ!」
俺はそれだけ言うと、城門を飛び越え群衆の中に躍り出る。
「眠りの雲」
圧倒的なレベル差が、魔法抵抗を無視して群衆を眠りに誘う。
「全く、何なのよ」不機嫌寄りのリーフリット。
「金の針だ。取り出すのを手伝ってくれ」
二人掛かりで、針を取り出す。
作業終了後、女王陛下に報告に行く。
シャープペンの芯のように細い、金色の針を見せる。
「何じゃ、これは?」 当然の疑問を、女王陛下が問う。
「『金のなる針』と呼ばれています。
早い話が、人を傀儡に変える洗脳針です。
金持ちに打ち込めば、お金に困る事はありませんから。
これの厄介な点は、首筋から延髄に向かって打ち込まれます。
取り出すのにも魔法制御に長けた、熟練の魔導師でないと、後遺症が残る危険性があります。
組織の名は、『世界友愛評議会』
名前のみが分かっていますが、組織の規模、支部、構成員。
何一つ分かっていません。
何より奴らの目的が、何なのか、全く分からないんです」
女王陛下は、溜息を付いて。
「全く、厄介な者に目をつけられたものじゃ」
「全くです。先程のアレも、暴動を起こさせるのが狙いでしょう」
「回避できたのじゃ、まずは、大儀」
「身に余るお言葉です。陛下」と俺は返す。
急に場内が物々しい雰囲気になって、急使が駆け込んでくる。
「今度は何じゃ!騒々しい!!」
「大変です陛下
カーメス王弟殿下が、謀反を起こしました。
約一万の兵、王都に向かって、進軍中とのことです」
あ~これ、本当に詰んだかも。
俺は溜息を付いて、天を仰ぐ。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
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この作品が、明日も頑張れる一助となりますように
あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




