第62話 恵みの大河 ナイラ ②
俺たちは元凶のダムに来ている。
まず王女とその護衛たちをアイシャとハクにお願いして
俺とリーフリットは、飛翔魔法でダムまで飛び、
転移魔法を使いみんなをここに連れてきた。
堤防型のダムは、とにかく巨大だ。
堤防の高さだけで、少なくとも100メートルはある。
幅に至っては、3~4キロはありそうだ。
堤防の厚みだって、30メートル前後はあるだろう。
重機のないこの時代、良くぞ造ったと感心する。
「んん? 何かあるな。お主たちはここで待っておれ」
そう言うと、ダム湖の中へ飛び込んでいった。
「ハク、いきなりどうしたの?」
リーフリットは、俺に聞いてくる。
「俺にもわからん」とリーフリットに返す。
5分くらいして、ハクは何かを持って帰って来た。
「ハク、それは?」
「宝珠だな。
何処の誰かは知らんが、水龍を封じ込めておる。
ご丁寧に、真名まで奪いおって」
何故だかハクは怒っている。
深呼吸すると、宝珠を手に持ったまま、目を閉じ瞑想する。
ハクの周りから、白いオーラが立ち昇り、天まで届きそうな光の柱となる。
それから数分後、ハクは目を開け告げる。
「お主等、戦闘の準備をせい」
行き成りすぎて・・そして、余りと言えば、余りの展開に。
「ハク、いきなりどうしたのよ?」アイシャが説明を求める。
宝珠を見せて、説明を始めた。
「ここに封じられた水龍は、ナイラの化身よ。
ご丁寧に、名まで奪われておる。
我は、輪廻の神に願い、奪われた真名の破棄と新たな名を申請した。
水龍の再構築まで、1年は掛かるらしい」
「それで?」俺はハクに続きを促す。
「問題となるのが、名を奪われた古き体よ。
このままでは厄災しかならぬ。
よって滅せよとの、輪廻の神からのお達しだ」
神様のむちゃぶりに頭を抱える。
「アイシャ、悪いが姫様たちの護衛を頼む」
「それより、姫様たちを王宮に転移させた方が良いわ」
リーフリットの尤もな意見に、同意する。
「では、姫様、行きましょうか」
「待ってください。足手纏いなのはわかりますが、
私も王家の端くれとして見届ける義務があります」
「王家の者としてのその御覚悟、ご立派であると申し上げる。
しかし、ここは飲んで頂きます」
そう言って、王女を始めとするラファさん、護衛の方々を王宮に送り届ける。
「お待ちどうさま」
俺は転移でとんぼ返りして、挨拶をする。
「では、始めようか」
ハクは、宝珠を天高く放り投げ、指先から光線を放って宝珠を砕く。
眩い光が辺りを包み、光が収まると、上空に巨大な水龍が姿を現した。
これ、水龍じゃなくて、海竜の間違いじゃない?
頭は西洋の竜、胴体は手足の無い東洋の竜、そして1対のドラゴンの翼。
蛇というより手足の無い東洋の竜の方が、シックリくる。
船乗りの間では超有名、生ける災厄『海龍リヴァイアサン』だ。
大物相手だと思っていた、でもこれ、大物過ぎるだろう~
水龍なんて可愛いレベルじゃない。
「ハクぅ~、リヴァイアサンなんて、聞いてないぞぉ~」
「そうか?リヴァイアサンと云っても、真名を奪われ力を失っておる。
せいぜい成竜に毛が生えた程度じゃ。
心配せずとも、古代龍レベルではないわ」
お気楽に言うハク。
俺の心配しているのは、そっちじゃない。
リヴァイアサンの必殺技は『大海嘯』
文字通り大津波を起こす技だ。
こんな処で大津波なんて引き起こしたら、
中流域、下流域の住人の被害は莫迦に成らない。
どうせ解放するなら、人里に被害の出ない場所があっただろう。
俺はストレージから青龍刀を取り出す。
両手持ちのこの剣の銘は、『ドラゴンキラー』だ。
大津波を出される前に、勝負をつける。
飛翔魔法を使い斬りかかる、でかい体で器用に避ける。
人の2倍のアクアボールのブレスが飛んでくる。
それを難なく避ける俺。
地上からアイシャの弓矢の援護。
リーフリットは、風の精霊を召喚して『風の刃』を。
ハクは、リヴァイアサンの頭に蹴りを入れている。
戦っていると何となくわかる。
こいつ、思っていたよりずっと弱い。
ならば、大津波を起こされる前に、サッサと始末する。
転移の瞬間移動で、首筋に移動して、渾身の一撃をおみまいする。
普通に斬れてよかった、ハクの時は痛いで終わって斬れなかったから。
リヴァイアサンの遺体は、光の粒に成り天に上った。
「大した敵ではなかったろ」ハクは、平然と言う。
「俺が気にしていたのは、大海嘯。ここでやられたら大事になっていた」
「いちいち細かいのぉ~。終わり良ければ総て良しじゃ」
・・・大雑把にも程がある。
「それで如何するつもりだ?元々壊すつもりできたのだろう」
「壊すのは、変わらない。けど、その前にやることが山積みだ。
まずは、女王陛下の許可を取らないといけないし」
俺は今、報告と相談の為、女王陛下の執務室に居る。
「流石は勇者殿。見事、水龍退治を果たしてくれた様じゃ。
重ね重ね礼を言おう。
して何じゃ、相談というのは?」
「ナイラの恵みを取り戻すため、上流のダムを撤去します。
その御許可を頂きに、参上しました」
女王陛下の顔が曇る。
「その様な莫大な撤去費用など、何処を探しても有りはしないぞ」
莫大な建設費をかけて造ったダムを、取り壊すとなると、また莫大な費用が掛かる。
「費用は、私たちの人件費だけですが」
「勇者殿は、人為的にナイラの氾濫を引き起こすつもりかえ」
「人命には、なるべく配慮するつもりでいますが、
家屋の倒壊などの被害については、目をつぶって頂きたい」
俺は苦笑しながら答える。
「何故、そこまでする必要がある」
「失礼ながら陛下、この国は、すでに『詰んで』おります。
農業基盤の回復のため、これくらいの荒療治は、必要かと存じます」
「まだ詰んではおらぬ、たまたま王手を喰らっておるだけじゃ。
まだ、打つ手は残されておる」
それでも・・5手詰めか、3手詰めの世界だ、下手すれば1手で詰む。
「この街は、建物も古く薄汚れています。
しかし、何処かしこに、かつて栄華を極めた痕跡があります。
城を建てるのに、一軒家の基礎で、城を建てる馬鹿はいません。
しかし、儲け話になると、一軒家の基礎で、城を建てようとする馬鹿が後を絶ちません。
建てられる道理も無いのに、高く高く建てようとします。
倒壊するのは自明の理です。
城を建てるなら、それに見合った基礎を深く掘り下げる必要があります。
国もまた同じであると考えます。
かつてこの国の栄華は、ナイラの恵みと共にあったはずです。
遠回りに見えても、5年10年かけて、かつての栄華の基礎を創っては如何でしょうか?」
「特効薬は、ないのか?」
「そんな便利なものがあれば、私が使っています」
「まあ良いわ。言質も取れたしの」
「・・・ハイ?」
「これから5年10年、我が国へ協力してくれるのだろう」
女王陛下、人の悪い笑顔を浮かべる。
「私は意見具申したにすぎません。異邦の者ゆえ、ご容赦ください」
「それはつれないのぉ~。ラファが寂しがると云うに」
汚ねぇ~、明らかな撒き餌じゃないか。
「そういう話は、我が国の国王陛下を通してください。
私としても、用は済みましたし、帰国しても宜しいのですが」
一矢報いたぜ、俺。
「わらわは良いが、ラファの泣き顔は見たくないのぉ~」
まったく悪びれない女王陛下。
用事を済ませて、サッサッと帰ろうと思う。
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あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




