第58話 ウナギの蒲焼き
今日は、珍しい物が手に入った。
『日本酒』だ。しかも、清酒。
日本酒=清酒になったのは、江戸時代の頃だったと思う、それまでは、濁り酒が普通だった。
異世界で、日本酒なら濁り酒でも仕方ないのに、清酒を得た奇跡、神様、感謝してます~♪♪
米作りはしているが、酒造りに回せるほどの余裕はない。
水田は、急ピッチで増やしているが、結果にむずびついていない。
日本酒は、常温より冷酒の方が好きなので、冷蔵庫で冷やして飲もうと、厨房に足を運んだ。
この時、見てはいけないものを見てしまった。
『うなぎ』だ。
「料理長、この世界にも『うなぎの蒲焼き』は、あるの?」
「・・・蒲焼き???何ですか、それは?」
知らないようだ。
「うなぎは、まだ手に入るの?」
「入りますが、旨いもんじゃありませんよ」
「それは、料理法を知らないだけだよ。
構わないからもっと仕入れて。それから、3日間、泥抜きしてね。
バケツにザルで蓋をして、上から水を掛ければ死なないから」
そう指示を出すと、マリアンヌ嬢の元へ向かった。
「みずほ酒とみりんですか?
今、みずほからの船が寄港していますから、どちらも購入可能ですわ」
「それなら、山椒もついでに、わさびは、東部のわさび棚があるから、問題なし」
東部に清流があったので、引き込んで、わさびをわさび棚で水耕栽培している。
「今度は何をお造りになるの??」
「3日後のお昼に、うちの厨房に来ていただければ、判ります」
そう言って、マリアンヌ嬢の元を去った。
宣言した前日、俺は、厨房に居る。
『うなぎのたれ』造りの為だ。
1度でも、醬油ラーメンの元ダレを造った事のある人なら、判ると思うけど。
火を入れて煮込んだ、出来立てのタレは、醤油の角が立ちすぎて、旨くない。
これが最低1晩、出来れば1週間、
風通しのいい、暗所で寝かせてあげると、信じられないくらい、味がまろやかになる。
うなぎのたれは、初めて作る。
醤油、みりん、砂糖、日本酒、塩、これにうなぎエキスとして、うなぎの頭や骨を軽く焼いて、煮込めば、大丈夫だと思う。
あとは、醤油の角が立ち過ぎないかが、心配だ。
ウナギの頭と骨が欲しいので、何匹か目打ちして背開きで裁く。
串うちして、蒸し器へ。
その間に、頭と骨を軽く焼いて、たれに投入、そしてグツグツ煮込む。
適当な処で、火を止めて、味を見る。
これでも良いけど、少し甘みが足りない。
みりんを少し足して、火にかけ、フチがブクブクしてきたら止める。
そうこうしているうちに、蒸し上がったので、炭火で焼いて『白焼き』にする。
たれは明日使うので、今日は我慢だ。
わさび醤油で、頂こうとすると、何故か、アイシャが居て、目が合った。
アイシャは、無言で出てゆき、バタバタと走り去る靴音。
この後の展開が予想できたので、さっき捌いたウナギを2匹、炭火に置いて軽く焼く。
案の定、リーフリットと一緒に、アイシャは、現れた。
「自分たちだけ、ズルイじゃない!!!」と、アイシャ。
「これは、たれの仕込みのついでだ。
白焼きだったらできるけど、どうする?」
「ひつまぶしが良い」とアイシャ。
「良いわね、ひつまぶし」とリーフリットが同意する。
「お前ら、人の話、聞いてたか?
たれは明日使うから、今日は出せない」
「つければつける程、ウナギの旨みがたれに移って、美味しくなるんだから、問題ないじゃん」
「リーフも同意?」
「うん」
「ファイナルアンサー?」
「さっきから、何よ。ファイナルアンサー!!!」とアイシャ。
「たれなんて付けて焼けば、匂いに釣られて人が集まる。
追い返すの、お前らの役目な。
言った分の責任は取ってくれ」
そう言って、たれをつけて焼き始める。
案の定、匂いに釣られて人が集まる。
俺は知らん顔を決め込む。
知らぬ存ぜぬで、料理に集中。
食い意地の張ったメイドが、食い下がるのが見える。
腹を減らした衛兵が、恨めしそうに出てゆく。
入れ代わり立ち代わり。
明日なら、こうなる事を予想して、うなぎはたくさん仕入れてある。
それを、今日食べつくす訳にはいかないのだ。
「はい、御待ち。
ひつまぶしは、考えて無かったから、薬味は無い。
出汁は、今から温めるから、少し待って」
小鍋にかつおだしを入れ、温める。
「旨そうですね。白焼きも酒の肴に会うと、思っていましたが、これは、これで、旨そうです」と料理長まで、こんな事を言う。
「自己責任でお願いします。
断り切れずに、焼く羽目になったら、明日、困らない様に、泥抜きしたうなぎを仕入れておいてください。
泥抜きして無いと、喰えたものじゃ、ありませんから」
そもそも、泥抜きしたウナギなんか、売られてないだろう。
「嫌味な言い方」とリーフリット。
「俺だって、好きで言ってない。
俺だって、お前みたいに誰にでも良い顔できれば、そうしてる。
いつも良い人でいられるし、リーフさんみたいにね」
売り言葉に買い言葉、とっても険悪な雰囲気になった。
この日は、2人の顔を見たくなかった。
久しぶりの1人寝は、寂しいと思うより、清々した気分で眠りについた。
気付かない内に、ストレスを溜め込んだのかもしれない。
今日は、朝から仕込みに追われた、捌いて、蒸して、ご飯もたくさん炊いて、準備万端。
約束のお昼前から、炭火で焼き始める。
たれをつけて焼くと、うなぎの蒲焼き、独特の香りが辺り一面に充満して、強烈に食欲を刺激する。
匂いに釣られて、人が集まる。
それに合わせて、どんどん焼いて、どんどん振舞う。
「旨そうな匂いに釣られてきたが、儂も喰っていいか?」
誰かと思えば、ムハービット村の村長だ。ナターシャさんも居る。
「構いませんよ。お召し上がりください」
そう言って、うな丼を2杯、山椒をかけてから差し出す。
スプーンを手に取り、1口食べる。
「初めて食べるが、旨いな」と村長。
ナターシャさんの目も、ハートマークだ。
その様子に、ドヤ顔の俺。
「これは、何という料理だ。アキュフェース殿」村長の質問に
「うなぎの蒲焼きですよ」と答える。
「うなぎって・・・あのうなぎかぁ~」
村長は驚き、ナターシャさんは固まっている。
「でも、美味しい♪♪」ナターシャさんの笑顔、プライスです。
「ところでアキュフェース殿、いつもの二人が見えんが、どうした」
「そういえば、朝から忙しくて、まだ顔を見てませんね」
言葉も態度も、ヨソヨソシイ。
「喧嘩でもしたか・・謝っておけ」
「ハイ?」と俺。
「謝っておけ、自分が悪くないと思ってもだ。
女に理屈は通用せん。
納得できなくとも、取り合えず、丸く収まる」
そう言って、ウインクする村長。
「離婚するなら、ナターシャを後妻にどうだ?」
「妻帯者でなければ、頷いてしまいそうな、魅力的な話です」
満面の笑みで答える、俺。
「何、莫迦な事、言ってるの?」
見れば、不機嫌そうなリーフリット。
アイシャ、マリアンヌ嬢、ローバーさん、執事のバトラーの姿が見える。
「アキュフェース、ごめんなさい、は?」
「ハイ?」
「ごめんなさい、は? まずは、ごめんなさい、よね」
声色も冷たく、冷ややかに言うリーフリット。
プチン、公衆の面前で言う事か!それ。この喧嘩、高値で買った。
「申し訳ありませんでした。リーフリット様」
俺は、90度に腰を曲げ、城内に聞こえる様に、大声で謝罪する。
俺の声は、良く響くし、良く通る。
「あなた様がもっと、何処にでも、良い顔できるように、
もっと大量に仕入れておくべきでした。
八方美人で、中身の無い、貴女様の顔に泥を塗り、大変申し訳なく思っています。
大変申し訳ありませんでした」
案の定、リーフリットは怒りに震え、顔を真っ赤にしている。
土下座でも良かったが、流石にそれは遣り過ぎだと思い、立礼の最敬礼にとどめた。
周りから、ひそひそ話が聞こえる。
居た堪れなくなったリーフリットは、黙って、この場を立ち去った。
清々した気分で、みんなに、うな丼を振る舞う。
「これって、謝ってないよね」とアイシャ。
「謝っただろう」と俺。
「放っておきなさい」と執事のバトラー。
「何で? ギスギスした空気に耐えられないのに」とアイシャ。
「夫婦喧嘩は、犬も喰わない。間に入るだけ、馬鹿を見ます」
執事のバトラーが、アイシャに忠告する。
「これは、商売になりますわ。間違いなくヒットしますわ。
でも、問題はタレの材料、みずほ酒とみりんですわ。
極東のみずほ皇国の輸入品、安くはありませんわね。
それを、継続的に極東から輸入する・・・・・」
マリアンヌ嬢は考え込む。
「確か、アルメニア侯は、米を作っているはずですが、
酒やみりんに回せる量はありますか?」とローバーさん。
「酒やみりんは、無理ですね、水田は拡げていますが、
自分たちの食い量だけで、精一杯ですから。」
「そうなると、米の輸入も検討しないといけませんね」とローバーさん。
「ところで、みずほ皇国まで、どの位の航海になるんですか?
緋帝国まで72週間、掛かると聞いたのですが」
「72週! 誰から聞きましたの?
流石にそんなに、かかりません。
海路で1年弱、陸路なら3~4年と云った処かしら」
呆れるマリアンヌ嬢。
「ならば、こういうのは、どうでしょう。
私の転移魔法は、1度訪れた場所なら、一瞬で転移可能です。
そして、ビザンティンの帝都までは、1度行っていますから、
そこからティファール朝ペルシアのルクナバードを目指し、到着したら、
転移で戻り、こちらの仕事をする。
時間が出来次第、
今度はルクナバードから、クリシュナを目指す。
それを、繰り返して、みずほ皇国を目指すのは、どうでしょう」
「素晴らしいですわ、1度行けば、ペルシアの香辛料に絨毯、クリシュナの象牙。
直接、現地で安く取引できるなんて・・
みずほ皇国まで、時間が掛かっても、問題ありませんし、
大きな貿易港なら、みずほの船もあるでしょうから。
直接、買い付けても良いわけです」
マリアンヌ嬢、夢見がちで話す。
「そうなると、この件は、御屋形様のみずほへの到着待ちですかね」
ローバーさん、溜息を付く。
アルメニア商会での話し合いが終わり、帰路に就く。
シュヴェリーン城(偽)に戻ると、リーフリットは、まだ、帰っていなかった。
わざと大恥かかせて、城から出て行ったのは、知ってたが・・・
「ったく、世話の焼ける・・」
俺は、探しに行く事にする。
領都内の目ぼしい所は、探しつくしたが、見当たらない。
仕方なく、城壁の向こう側を探す事にする。
領都の西側には、日本で云う1級河川があり、
水害対策用の堤の上で、リーフリットは、膝を抱えて座っていた。
「こんな所に居たのか。探したぞ」俺は声をかける。
「来ないで!!!」とリーフリット。
「まだ、怒っているのか。いい加減、機嫌直せ」
「怒ってない」
「怒っている」
「・・・エルフと見れば、尻尾振って・・バッカじゃないの」
「振って無いし、・・このヤキモチ焼」
「振ってるわよ、この変態」
「紳士的に振る舞えば、尻尾を振ってるか・・
お前みたいに、何処にでも、良い顔できる才能が有れば良かったのにな」
リーフリットは、堤から降りて、アキュフェースと対峙する。
「良い顔なんてしてないわ」
そう言って、パチーン、アキュフェースの左頬をピンタ。
アキュフェースも、パチーン、平手打ちでやられたらやり返す。
リーフリットも無言で、ピンタ。
アキュフェースも無言で、平手打ち。
パチーン、パチーンという音だけが響く。
暫く、ピンタの応酬が続く。
双方、頬は赤く腫れ、鼻血も出ている。
「いい加減、気は済んだかよ」アキュフェースが問う。
「まだよ」リーフリットが、1発多く入れる。
「この辺で、勘弁してあげるわ」
「そりゃ、どうも」
「あなたが、悪いんだからね」
「どんな理由があれ、女に手を上げた時点で、俺が悪い。
殴って、悪かった『エクストラ・ヒール』」
リーフリットの顔が、元に戻ってゆく。
「何それ、それじゃあ、これでお相子『エキストラ・ヒール』」
アキュフェースの顔も腫れが引く。
「歩けないから、抱っこ」リーフリットが手を伸ばす。
「甘えるなよ」そう言いながら、リーフリットをお姫様抱っこで抱える。
「転移魔法禁止」
「歩かせる気かよ」
「良いじゃない、たまには」
「俺は恥ずかしいんだけど」
「たまには、奥様孝行しても、罰は当たらないわ」
「当たると思うなぁ~♪」
そんな他愛のない事を言い合って、帰路についた。
翌朝、アキュフェースとリーフリットの、余りに甘ったるい雰囲気に、アイシャは頭を抱えた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
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この作品が、明日も頑張れる一助となりますように
あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。




