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第57話 簡易太極拳

 アルメニア州領都グランバニアの練武場。

 俺は今、太極拳をしている。


 武術としての太極拳には、陳家と楊家の2大ブランドがある。

 源流は陳家で、楊家はそこから派生した流派になる。

 陳家は、一門秘伝として、広める事をせず。

 楊家は、多くの門下を取り、ここから派生した流派は、数多い。


 俺の遣っているのは、武術太極拳ではなく、健康体操としての太極拳だ。

 難しい型を省き、初心者でも行えるよう、簡略化したものだ。

 気を練ることで、健康を増進させる、中国の公園で見かけるやつだ。


 武道目的ではない為、これで十分だ。

 『気を練る』事で、MP関連に変化があるのか無いのか、実験的要素がおおきい。

 私たちが、MPと呼んでいるのは、『気』ではないかと推測した。

 『気』を魔術に使えば攻撃魔法になり、技として使えば、ソードスキルや発勁となる。

 要は、使い方の違いだけで、元は同じ『気』ではないかと。


 『気を練る』ことで、MPの容量アップや魔法の威力アップに繋がらないかと期待している。


「御屋形様、その変な体操は、何ですか?」


 失礼なことを、部隊長のアルバートが言う。


「侯爵が変なのは、今に始まった話じゃないだろう」


 更に失礼なことを言う、フランツ。


「お前ら、喧嘩を売っているなら、高値で買うぞ」温厚な俺も思わず言う。


「それで、それは何です?」フランツは、俺の台詞をスルーした。


 スルーされ若干腹の立った俺は、簡易太極拳と答えた。

 俺の機嫌の悪そうな態度に、ヤバイと思ったアルバートが


「どうやるか、教えて下さいよ」と言ってきた。


 俺は怒る気も失せて、アルバートに教える事にした。


 立ち姿、呼吸法、起勢から始まる34の型を、1つ1つ丁寧に教えた。


「見よう見真似でも、体の中からが熱くなりますね」とアルバート。


 フランツが、いきなり剣を抜き、気を通す。


「若干、気の通りが良くなった気がしますが、これの効果とは、まだ断言できませんね」


「まあ、そうだろうな」と俺。


「まあ、これ自体、悪いモノじゃない。

 準備運動としてやらせてみるのも、悪くない、と思いますよ」


「では、明日から、そうしてもらえるか」俺はフランツに、指示を出す。


 アルメニア騎士団では、訓練の最初に簡易太極拳をする事が、決まった。




 今日は、約束のファルムス王国の騎士たちとの合同訓練の日。

 あれから、毎月開催されるようになった。

 そして、何故か領内の神官を引き連れて。


 ただでさえ面倒な時に、王都から大司教猊下がやって来た。


「アキュフェース卿、無理を言って済まんが、儂も合同訓練に参加させてくれ。

 こう見えて、回復術士は、マスターだ、今は武闘僧をしておる」


 先ぶれも無しで、ここにいるという事は、多分、拒否権は無い。

 俺は渋々、承知しました、と答えた。


「許可を貰えて、何よりだ。下の者にだけ苦労をさせて、上が何もせんでは、示しがつかないからな」大司教猊下、豪快に笑う。


 言っていることは、正しい。しかも、良い上司。

 でも、漂う脳筋感は、何だろう。


 俺は、転移魔法でシスアの森まで、騎士団と神官団ごと転移した。





「ファルムス王国騎士団で総帥をしている、ラルフ・セルゲイです。

 猊下にお会いできて、光栄です」


「エストニア教区の統括をしている、ミハエルだ。

 今日はよろしく頼む、セルゲイ閣下」


 二人は固い握手をする。


 俺たちは、陣の設営を終え、アルメニア騎士団は、全員で準備体操の太極拳を始めた。


 不思議そうな顔で見つめる、ミハエル大司教猊下とセルゲイ閣下。


「それは、何だね?」案の定、ミハエル大司教が質問してくる。


「太極拳です、猊下。元々は発勁を使って戦う拳法ですが、

 今、やっているのは、健康増進の為に、誰でもできるように、簡略化されたものです」


「面白そうだ、教えてくれないか、アキュフェース卿」


「儂にも頼む。」とセルゲイ閣下まで。


 結局、ファルムス王国騎士団と随行した神官たちに、太極拳を教える事になった。


 気を練ることを目的としている為、1つ1つの型をゆっくりとした動作で行う事。

 呼吸は、技を出す時、ゆっくりと吐き、技の予備動作の時は、ゆっくりと吸う。

 動きを途切れさせないで、ゆったりと行う。


 ミハエル大司教は、妙に様になっている。

 技を繰り出す時、『ヴォ』という音と共に、発勁を繰り出す。

 流れる様に、ゆったりと演武を行う。


 武術太極拳は、使える様になるまで、時間が掛かる。

 筋肉を使った拳に頼らない、気を練り上げ、発勁を武器とする。

 発勁が使い物になるまで、長い長い修行と研鑽が必要だ。

 一度身に付けてしまえば、身体能力に頼らない分、年を取っても、衰える事はない。


 基本職とはいえ、武闘僧も十分チートなのだろう。

 アッサリ、発勁(小)を放っている。

 もしここに太極拳の拳士がいたら、泣くよ。きっと。


 準備体操が終わり、いつものレベリングへ。

 ミハエル大司教をはじめとした神官団は、レベルアップ酔いに倒れ、

 セルゲイ閣下の連れてきた、新規のメンバーも、無様に倒れている。


「まったく、情けない」3度目となるセルゲイ閣下は、元気だ。


「しかし、スキルの発動が速くなった気がするの」


「こういうものは、毎日の積み重ねが大事ですから」


「では、もう一狩りするか。貴公も突き合え」


 元気だねぇ~、セルゲイ閣下の脳筋ぶりに、感嘆する。

 しゃーないか、俺は、セルゲイ閣下の背を追った。



 3日もすると、レベルアップ酔いの人数は激減するが、教団の神官たちは、相変わらずだ。

 そんな中、一人気を吐くミハエル大司教。


「こんな事が、あって良いはずがない。何もせぬうちに、スキルマスターだと。

 これでは、これでは、何のために来たか、判らぬではないか」


 天幕を出て、アキュフェースを見つけると、いきなり詰め寄った。


「アキュフェース卿、儂はこれから、何もせんでスキルマスターになった、馬鹿どもを連れて、転職してくる。

 そこで、貴公に相談がある。

 日程をあと3日、伸ばすことは出来んか?」


「無理だと思います。私はともかく、大司教たる猊下のスケジュールに、問題がでると、思うのですが」


 ムぅ~と唸って


「では、来月から毎月、儂も参加する。いいな、約束したぞ!!」


 言うだけ云って、大司教は、神官団を率いて、神殿に向かった。


 転職システムが始まったら、俺の周り、脳筋ばっかり。

 アキュフェースは、空を見上げて、溜息をついた。 


 

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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この作品が、明日も頑張れる一助となりますように

あなたの人生に幸あれと、願いを込めて。

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